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第1章 異世界転移編

第5話 不穏之始

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 隆雅の奴に遊びとやらに誘われた俺は、大人しくどこかへ向かう隆雅の後ろをついて歩いていた。

 他の2人は、山口 雄磨ゆうまと高橋 真弦まいとだ。こいつらは隆雅程ではないが俺に暴行を加えており、虐めを自らのストレス発散の為に行う奴らだ。隆雅の影に隠れてやっている辺り、隆雅以上にタチが悪いところがある。

 そんなこいつら3人が、さっきからずっとニヤニヤと笑っている。どうせ碌でもないことを考えているのだろう。

 城を出て城の周りを歩き始めた。

 入口がある訳でもなく窓がついているだけの城の壁と、そのさらに外側にある城壁に囲まれているこの場所は日があまり当たらず、そして人目につきにくそうだ。

 「おい!」

 なんだ。やっと着いたの――うぐっ!

 隆雅が急に俺の腹を殴った。

 俺はその衝撃で城壁にぶつかり、崩れるようにしゃがみ込んだ。

 「ムカつくんだよ! ここに来てからここの連中に散々舐められてばっかでよ!」
   
 しゃがみ込んだ俺に隆雅は蹴りを続ける。その勢いは想像以上に強く、思わず嘔吐しそうになる。

   「おいおい。この程度でそんなリアクションいらないぞ? いつもやってた事だろ?」

 なるほど。こいつはいつも俺に殴る感覚でやっているが、天職と加護がある為に普通の拳の殴りが、棍棒かなんかで殴られたような強さになる訳だ。

 とそんなことより、なんでこんな時に俺は冷静でいられるんだ? 確かに死ぬ程痛いが、どこかで思考を止めてはいけないという考えがあるせいで、こんな時にも考えを巡らせてしまう。 
    
 「何だよ……その目」

 目がどうかしたのか?

 「その反抗的な目もムカつくんだよ!」

 うぐっ……先程よりも強い蹴りを……ってそろそろ不味いな。意識が飛びそうだ。

 「おいおい隆雅。そろそろ止めとかないとこいつ死んじまうぞ?」
 「死んだら色々と面倒だぞ?」
 「分かーってるよ!じゃあお前らはこいつにムカついて無いのかよ?」

 隆雅に言われた二人はチラリとこちらを向いた。そしてニヤリと笑うと雄磨の方が俺に蹴りを入れた。

    ……っ!! 何だ今のは! 正面から蹴られたと思えば、背中からも衝撃が――そうか、これが加護か。

 「お前も相当えぐい事するじゃねぇか! それで、お前は何もやらないのか?」
 「じゃあ俺もやるか」

 真弦の方がそう言うと俺の口に手を押し付けた。

 確かこいつの加護は……あ、まずい。

 俺は口から体内に入る煙を確認すると、意識が少しずつ薄れていった。

 最後に聞こえたのは女の悲鳴だった。

   ◇
  ――ここはどこだ?

 体を起こそうとするが、頭がズキズキ痛み、上手く体が起き上がらない。

 「目を覚ましたかしら?」

 寝たまま体を横に向ける。

 そこには、派手な黄色のドレスを着た縦カールの髪をした女が椅子に座っていた。

 「私は第2王女、ネルン=ルクストルフですわ。私が庭を散歩していましたら、あなたが意識を失っているんですもの。それから私が兵を呼んでここに運ばせてから、今の今まで看病してあげてたんですのよ?」

 記憶が段々とはっきりしてきた。

 俺はあいつらに何度も暴行を加えられた後、意識を失いここに運び込まれた訳か。

 こいつは確か、昨日の広間にいた身分違いの格好をした三人の女のうちの一人だな。

 もう一人は第一王女とか言っていたな。残る一人はこの二人より結構な歳が開いてそうだったし、こいつらの母親なんだろう。

 しかし、そしたらあいつが第一王女ではなく、母親の方が第一王女になるはずなんだが、どういう事だ?

 「何あなた黙り込んでますの? 助けられたのですからお礼の一言も言えないのですか?」

  ……まぁ助けられたのは事実だな。

 「ありがとうございます。助かりました」

 第2王女は満足そうな顔をした。

 それにしても、こいつの発言には引っかかる節があるな。
   
 「少し質問なんですが……」
 「何ですの?」
 「俺が倒れた時に一緒にいた人は何か言ってました?」

 第2王女は急に困ったような顔をした。

 「え?あ、女の人ですわね?その人ならあなたを任せると言って部屋へ帰られましたわ」

 はぁ。状況は理解した。

 この女が信用ならないって事も理解できた。

 重い体をゆっくりと起こすと、地面に足をつけ、立ち上がった。よし。動けるな。

 「駄目ですわよ!まだ寝ていないと!」
 「看病して下さってありがとうございます。俺はこれから約束があるので、もう行きます」

 そう女の反対を押し切って、俺は部屋から出ていった。

   ◇

 部屋を出て、ここがどこかを確認する。

 ここは確か……魔法講習の時に通った場所だな。――ならこっちか。

 そして、記憶を頼りに部屋へ戻った。

 部屋へ入ると、ベッドへ勢いよく寝転がった。

 疲れたな。食事の時間の前はメイドが呼びに来ると言っていた。時間は、この明るさを見る限り、まだそんなに経っていないな。

 あの第2王女は言っていることが滅茶苦茶だった。

 俺は意識を失う直前、女の悲鳴を聞いた。近くから聞こえてきた事から、恐らくあれは俺を見つけた者の声だろう。

 もしあれが、あの第2王女の悲鳴なら、一緒にいた者の話を俺がした時に女など言わず、あいつら3人の話をするだろう。

 なので、あれは第2王女以外の悲鳴で、それを聞いた、近くにいた第2王女が俺の元へ来た事になる。

 つまり第2王女が言った、俺を任せると言った人物は、悲鳴を上げた人物と同じ人物になる。

 しかし、それならば第2王女が最初に言っていた話はどうなる? 庭を散歩していたら意識を失った俺を見つけたと言っていた。あの女が言った事は最初と矛盾する事になる。

 では、あの女がそんな嘘をつく理由は何だ?自 分を第一発見者にして、俺から評価を得ようと考えているのか?

 いや。相手は王女だ。俺の事なんか少しも考えていないだろう。

 誰かに会ったというのを伏せたかったという事はその悲鳴の女が知られてはいけない誰かなのか?

 上手く思考がまとまらないな。

 俺が必死に考えていると扉をノックする音が聞こえた。

 「……私」

 月光か。

 寝転がった体を起こすと、立ち上がり、扉を開けた。

 ん? 何だ? やけに顔が暗いな。

 月光を中に入れると、昨日と同じように椅子に座らせた。

 中々話さない月光に、俺から話しかけた。

 「どうかしたのか?」

 すると、やっと月光が口を開いた。

   「体大丈夫なの?」

 なんで急に……なるほど。そういう訳か。

 「そんな事を聞くと言う事は、お前が悲鳴を上げて助けを呼んでくれたってことだな?」

 月光は小さく頷いた。

 つまり、第2王女が会った女というのは月光の事で、月光は第2王女に俺を任せるとそこから立ち退いたのだろう。

  ん?なら何で最初、第2王女が月光の事を隠そうとしていたんだ?

  やはり、俺からの評価……というよりも勇者からの評価を受け取りたかったからだけなのか?

  まあ、なんせ助けを呼んでくれた月光には感謝すべきだな。

 「体は大丈夫だ。わざわざ助けを呼んでくれてありがとな」

 俺がそう言うと、月光の暗かった顔がたちまち明るくなった。ちょっと照れくさそうにしている。

 あの第2王女については謎だが、まあ命に別状は無いし、良しとしとこうか。

「にしても、月光も助けを呼んで駆けつけた相手が第2王女なのは驚いただろう?」

 俺が明るくなった月光に笑いながらそう言うと、月光は不思議そうな顔をした。

 ん?何か変な事言ったか?

 「第2王女って何? 私は悲鳴を上げて、二条院が駆けつけたのを確認してからそこから離れたんだよ? 二条院ならムカつく奴だけど、クラスからの目もあるし変な事はしないと思って離れたんだけど……」

 二条院?二条院の奴が何故出てくるんだ?

 それに第2王女に会っていなければ、第2王女が言っていた事はどちらも嘘になる。

 俺の知らない所で何が起こっていたんだ?
   
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