ドロドロ

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ネクロフィリア

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大手通信サービス企業で働く僕は、恋をした。

相手は同じ会社で働く、山中さんという同い年の女性。
一目惚れだった。

まだ24歳と若い僕は、彼女に心を締め付けられ、視線を奪われた・・・













一目惚れから2週間がたち、山中さんとなんの進展もない僕は、思い切って彼女を食事に誘った。

「あのー、来週のプレゼンについての話も兼ねて、
今週のいつでもいいんで、食事に行きませんか?」


心臓の音が大音量で響いていた。


彼女はにこりと微笑んだ。


「全然いいですよ。いつにしましょうか?」




意外な答えに、びっくりした。
僕は飛び上がるほど嬉しかったが、その気持ちをそっと心にしまい、その日の残業を終わらせた。 





それからまた2日後、山中さんと食事に行った。
僕の奢りでいいからと、高級なフレンチの店に誘ったが、

「堅苦しいから近くのファミレスで良いですよ」

と、また、あの可愛らしい笑顔で言った。
ああ、僕はこの笑顔に恋をしたのだ。

それから僕と山中さんは頻繁に会い、その度に僕の心は彼女に惹かれて行った。














そんなある日、あの時と同じファミレスで、山中さんと食事をしていたのだが、僕は我慢できず、思い切って告白した。



「あの、ずっと前から好きでした。ぼくと、お付き合いしてください!」














前回のこともあり、期待は大きかった。

が、
期待は大きく外れた。

「すいません。私には・・・実は、彼氏がいるんです。」

僕は押し寄せる絶望の波を感じた。

「か、彼氏がいるって・・・」

「はい。半年前から、同居してる彼氏がいるんです。」

「そ、そーなんですか。やけに好意的だから勘違いしちゃいましたよ。ははは」

笑ってごまかそうとしたが、明らかに僕の目は笑っていなかった。
しかし、次の彼女の発言に、僕の心は揺らぎに揺らいだ。



「いや、その、勘違いじゃないです。」



「え?」



「だから、私があなたに好意的だったのは事実で、今も私はあなとのことが好きなんです。」

「え・・・」


なんと答えればいいのか、言葉が見つからなかった。

「引きましたよね、浮気してるなんて」

正直いって、僕は不倫してでも彼女と付き合いたかった。

そしてその気持ちを抑えきれず、言ってしまった。。

「あの、あなたがいいんだったら、付き合い・・・ませんか?」


「不倫ですか」

「あ、今のは聞かなかった事にしてください!
もう可能性なんてないのに、何言ってだ俺は」



「いいですよ。」


「え?」


「付き合いましょ。私たち。不倫でもいいですから。」























それから1週間後、僕はいつも通り会社にいた。
あれから僕達は付き合い始めた。
と言っても、あの日からは一度も彼女と話していない。
微妙な気まずさがあり、なかなか話しかけれない。





その日の昼、以外にも彼女の方から話しかけてくれた。

「あの、今日仕事が終わってから、私の家に来てくれませんか?」


彼氏と同居している家に呼ぶなんて、普通はありえないが、僕達はそういう関係になってしまったのだ。
今日の夜、彼氏はいないのだろうと解釈し、僕は彼女の家に行くことにした。






















ガチャッ


「おじゃまします」

「汚い家ですが、どうぞ。」

彼女はまた、あの可愛らしい笑顔を向けて言った。

彼女が同居している家は、アパートだった。
2人で住んでいる割には小さく、言っちゃ悪いが、貧損な家だ。
しかし、頭の中がハートで埋め尽くされた僕には、そんなことはどーでもよかった。









玄関で靴を脱ぎ、奥のドアを開けた。 



すると、嗅いだことのない強烈な悪臭が僕の鼻を直撃した。
露骨に嫌な顔をしてしまったので、気を悪くされたかと思い彼女を見たが、気付いていないようだ。


しかし、この臭いはなんだ?
そう思い部屋を見渡すと、その臭いの元は部屋の端っこにあるベッドの上にあった。


「居た」という表現の方が正しいだろうか。いや、「あった」か。




















死んでいる。


人が死んでいる。









肌は豆腐のように白く変色し、目と鼻をかっと開いた「死体」がそこにはあった。











何が起きているのか、なぜそこにそれがあるのか、
脳が追いついていない僕に、彼女の口から出た言葉が、さらなる追い打ちをかけてきた。










「紹介するわ。私の彼氏よ。」













自分の耳を疑った。

「え?
え?え?
え?え?え?え?

いや、どー見たって死た」

「彼氏よ」

「いやいや、死んで」

「彼氏なの。私は今の彼が好きなの。愛してるの。」








 









狂ってる・・・









異常な愛を抱える彼女の目は、完全に正常なそれではなかった。

「でも、あなたのことも大好きよ。でも、まだまだまーーーーーーーーだ、足りないわ。」


目の焦点が合わない彼女の狂気を感じ取った僕は、急いでその場から逃げだそうと、振り返って走り出した。

















ドスッ






腰に激痛が走った。



後ろを振り返ると、包丁を持った彼女が立っていた。




ドスッ




次は腹を刺された。 




ドスッ





肩。




ドスッ




胸。







ドスッ、ドスッ、ドスッ











何回刺されたかわからないが、痛みはもう感じでいなかった。

刺されながら朦朧とする意識のなか、彼女の顔だけは、はっきりと確認することができた。















あの、可愛らしい笑顔が、張り付いていた。



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