上 下
130 / 141
Lesson.5 物語の終わり

130.現実との対峙2

しおりを挟む
「マリアなの……?」

ユニカは自分の手を大事そうに頬に当てる少女の顔をまじまじと見つめる。
眠り続ける前、最後の記憶に残るマリアは、腰まで届くほどの艶やかな黒髪をもつ美しい少女だった。
しかし、目の前にいる少女はポワポワとした綿菓子のような白に近い、極淡いピンク色の髪の毛を隠すように頭巾を被り、新緑のような爽やかなグリーンの大きな瞳を潤ませている。

「どうして?」

自分と同じく元のままの姿でマリアが待っていてくれていると思い込んでいたユニカは、思わず問いかけてしまった。

「私はマリアです。見た目は変わっても、それは変わりません。」

マリアはそう言って、ユニカを抱きしめる。
ユニカは呆然としながらも、自分にしがみつく少女の背中に手を回す。

「マリア、耳障りのいい言葉だけをユニカに伝えるのは卑怯だよ。」

リナの声にハッとしたユニカは、手を緩め、マリアの体をそっと引き離した。

「邪魔しないでくれる?」

ユニカの問いかけるような視線に耐え切れず、マリアは急に声色を変える。
マリアはリナを睨みつけると、エプロンのポケットから何かを取り出し、歌を口ずさむように呪文を唱える。
マリアが手のひらを開けると、黄金色に輝く魔法石から閃光があふれ出した。

「リナさん!」

「ダメよ! リーリウム!」

ヴィオラが悲鳴にも近い声を上げて、リーリウムの腕を掴もうとしたが、すんでのところで取り損なう。
リーリウムは、迷いなくリナの上に覆いかぶさった。
その瞬間、膨れ上がるように大きくなった閃光がリナとリーリウムを包み込む。
しばらくは目を開けることもできず、時間や空間、そして自分の感覚すらも分からず、不安な気持ちが心を支配していく。
リーリウムが恐る恐る目を開けると、部屋は何事もなかったかのように、相変わらずこぢんまりとしていた。
みんな無事のようだったが、まだ眩い閃光に目がくらんでいるようだった。
しかし、ユニカだけは椅子に座った状態で、必死にマリアを取り押さえていた。

「うぅ……」

リーリウムの下でリナがうめいている。
リーリウムがかばいきれなかったリナの足、ふくらはぎから下の皮膚が焼けただれていた。

「お嬢さん、私の光の魔力を奪っただけでなく、邪魔までするのね?」

マリアは苦々しそうにリーリウムとリナを睨みつける。
やっと目を開けることが出来たディナルドはユニカからマリアをもらい受けると、部屋の中にあったロープで縛り上げる。

「リナさん、大丈夫ですか?」

「痛いけど、大丈夫だよ。ありがとう、リーリウム。」

闇の魔力に反応し、相手を傷つける光魔法のようだった。
人を傷つけることなどなかった聖女のマリアが、自分に対して明らかな殺意を持っている。
自分の怪我より、その事実がリナの心を傷つけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...