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Lesson.5 物語の終わり

129.現実との対峙1

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フレエシアは、部屋の中の面々に悟られないよう、後ろ手でそっとドアを閉める。

「ユニカ様、中にマリア様がいます。
お許しがあれば、こちらのディナルドが抱き上げてお部屋へお連れします。」

フレエシアがユニカに尋ねる。
今のマリアと対面させることが正解なのかは分からないが、二人を会わせないわけにもいかない。

「いいえ。肩を貸していただけるなら、自分の足でマリアに会いに行きたいわ。」

丁寧にその申し出を断るユニカの言葉にフレエシアは頷くと、彼女の右側でしゃがみ込む。

「申し訳ありませんが、ルヴァリ殿下は左側をお願いいたします。
ディナルドは、万が一のために後ろで待機しててくれる?」

「了解」

三人は力を合わせてユニカを立たせた。
完全に足の力が無くなっていたわけではなかったのが幸いして、少しずつ足が動く。

「なんとか足が動いてくれたわ。
三人ともどうもありがとう。
だけど、もう少しだけ力を貸してね。」

ユニカは笑顔を絶やさなかった。
何百年も使わなかった足を使うのに、苦痛を伴わないわけがない。
そんなユニカの姿に、ディナルドの瞳から涙が出てきた。

「なんでディナルドがウルウルしてるんだよ?」

フレエシアが茶化すも、自分の瞳からも涙があふれてくる。
ルヴァリも同様だった。
感動や同情とは違う、今まで経験したことのない心の底から何かが湧きあげてくる無自覚の涙だった。

「ドアを開けてもよろしいでしょうか?」

己の右腕で涙を拭ったディナルドがユニカに許可を求める。

「ええ、おねがい。」

その言葉を受けたディナルドは、小さなドアノブを回しドアを開けた。

「ユニカ様!」

部屋に現れたユニカの側に誰よりも早く駆け寄ったのは、彼女には見覚えのない少女だった。
まるで故郷の童話『赤ずきん』のような出で立ちの少女に優しく微笑みかえす。

「あなたがわたくしのお世話をしてくださっていたのかしら? 
リナ、マリアはどこにいるの?」

部屋の小さな椅子に座ったユニカは、そばを離れそうにないその少女の頭を撫でながら、部屋の中に姿が見えない親友の居所を尋ねる。

「ユニカ様、わたくしならここにいますよ」

少女は頭を撫でてくれていたユニカの手を自分の頬に当てて、その体温を感じると、うっとりとした表情を見せる。
先ほど流すことのなかった涙がマリアを名乗る少女の頬をつたい、ポタポタと床に落ちていく。

「ユニカ様が目覚めた時、そばに居られなかったなんて……。」

その時を、何百年も待ち続けていた。
年老い、そして姿を変えて少女になり、一人でその時を迎えると思っていたのに。
想像していたのとは違う“その時”を迎えて、マリアは胸がいっぱいになっていた。
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