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Lesson.5 物語の終わり
112.魔法が失われた日
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リナは、紅茶を少し口に含むと、ゆっくりと飲み込んだ。
そして、遠い過去に何があったのかを思い出すように、窓の外、さらにその遠くを見つめる。
「あの日も建国祭の舞踏会が開かれていた。」
そう、ぼそりとつぶやくと、先ほどよりもゆっくりと、丁寧に話をし始めた。
「私が二度目の転生をして、まだマリアを探していた頃だ。
全く手掛かりがつかめなくて、ここに来れば何かヒントがあるかもって思ったんだ。
さっきも言ったように、王宮と神殿は忍び込むことは不可能だから、たくさんの人が“招待される”今日みたいな日は絶好のチャンスなんだよ。
招待状を手に入れることが出来れば、忍び込むのではなく、堂々と門から王宮へ入れるからね。
当時も、外国からきた伯爵令嬢のふりをして舞踏会場に立っていた。
その頃はまだ魔法が使えていたから、宮廷魔術師もいたし、魔法騎士団もいた。
会場では魔法で花火を打ち上げたり、星を散らしたり、色とりどりの花びらが降っていたりね、それはもう華やかだったよ。
私はマリアの光の魔力をたどろうと思って、魔力を追跡する“探索”をしていた。
すると、不思議な事が起こっていることに気が付いた。
周りにいる特定の人間の魔力が急激に少なくなっていったんだ。
元々の魔力量が少ない者から、体調不良を訴え始め、ついに気を失う者も出てきてしまった。
特定のっていうのは、火・土・木の属性の魔力を持つ人たち。
探索魔法でその人たちの魔力が地面の下に吸い取られていくのが見えたから、
私はとっさに地表に闇の魔力を充満させて、地面にフタをした。
人々がバタバタと倒れていく様を黙ってみているわけにはいかなかったからね。
それでも、少しずつ地面の中に皆の魔力が吸い取られていく。
仕方がないから、この国を闇の魔力で覆いつくしたんだ。
他の属性の魔力が国内で動き回らないようにね。
人間の身体は、故意に吸い取られなければ、生命の維持に必要な最低限の魔力を体内に留めるようにできている。
人々は魔力を開放して魔法を使うことができなくなったけれど、すべての魔力が吸い取られて健康を害したり死んでしまったりするリスクもなくなったってわけ。」
「火・土・木の属性は、光魔法と親和性が高い属性ですね?」
リーリウムがリナに確認する。
「そう。」
「ではマリア様が……?」
「当時も、マリアが犯人ではないにしても、何らかの形でかかわっているのだろうとは思っていたよ。
でも、確信はできなかったし、吸い込まれていった魔力の追跡にも失敗してしまったし……。
それに、まあこれも思い込みなんだけど、マリアが悪さをするわけがないってどこかで信じてしまっていたからね。
さっきも言ったけど、彼女だけが私の“ヒロイン”なんだよ。」
リナは今にも泣き出しそうな、寂しそうな表情を浮かべる。
リーリウムは、見た目には自分と同年代の闇の魔法使いが、何百年も一人ですべてを背負っていたのだと思うと、心が締め付けられた。
「当時はまだマリア様は生きておられたはずだな……。」
ヘンリクスがつぶやく。
「そうだね。
でも、今はリーリウムが光の魔法使いだ。
すでに、マリアは亡くなっているだろう……。」
「では、この国を闇の魔力で覆いつくす必要はなくなったのでしょうか?」
リーリウムがリナに尋ねる。
出来ることなら、この国に魔法が戻ればいいと思ったからだ。
リナの負担も減る。
それに何より、闇の魔力に包まれた状態は、自分の命に関わるのだ。
国外に出ればその問題は解決するのだが、それでは王太子妃になることを諦めなければいけない。
じっとヘンリクスを見つめるリーリウム。
ヘンリクスは、そんなリーリウムの気持ちを悟り、そっと手を握った。
「それはまだ、何とも言えない。
何もかも憶測で、確実ではないからね。
国民全員の命がかかっているから、もう大丈夫だという確証がないと……。
だけど、君のためにも今の状況が良くないことは分かっている。」
「そう、リーリウムのためにも早くこの問題は解決しなくてはいけませんわ。
情報を整理しませんこと?
まずリナさんは、その真相を、なぜ今打ち明けたのかしら?」
三人の会話を黙って聞いていたヴィオラが、誰よりも冷静な様子でリナに尋ねた。
そして、遠い過去に何があったのかを思い出すように、窓の外、さらにその遠くを見つめる。
「あの日も建国祭の舞踏会が開かれていた。」
そう、ぼそりとつぶやくと、先ほどよりもゆっくりと、丁寧に話をし始めた。
「私が二度目の転生をして、まだマリアを探していた頃だ。
全く手掛かりがつかめなくて、ここに来れば何かヒントがあるかもって思ったんだ。
さっきも言ったように、王宮と神殿は忍び込むことは不可能だから、たくさんの人が“招待される”今日みたいな日は絶好のチャンスなんだよ。
招待状を手に入れることが出来れば、忍び込むのではなく、堂々と門から王宮へ入れるからね。
当時も、外国からきた伯爵令嬢のふりをして舞踏会場に立っていた。
その頃はまだ魔法が使えていたから、宮廷魔術師もいたし、魔法騎士団もいた。
会場では魔法で花火を打ち上げたり、星を散らしたり、色とりどりの花びらが降っていたりね、それはもう華やかだったよ。
私はマリアの光の魔力をたどろうと思って、魔力を追跡する“探索”をしていた。
すると、不思議な事が起こっていることに気が付いた。
周りにいる特定の人間の魔力が急激に少なくなっていったんだ。
元々の魔力量が少ない者から、体調不良を訴え始め、ついに気を失う者も出てきてしまった。
特定のっていうのは、火・土・木の属性の魔力を持つ人たち。
探索魔法でその人たちの魔力が地面の下に吸い取られていくのが見えたから、
私はとっさに地表に闇の魔力を充満させて、地面にフタをした。
人々がバタバタと倒れていく様を黙ってみているわけにはいかなかったからね。
それでも、少しずつ地面の中に皆の魔力が吸い取られていく。
仕方がないから、この国を闇の魔力で覆いつくしたんだ。
他の属性の魔力が国内で動き回らないようにね。
人間の身体は、故意に吸い取られなければ、生命の維持に必要な最低限の魔力を体内に留めるようにできている。
人々は魔力を開放して魔法を使うことができなくなったけれど、すべての魔力が吸い取られて健康を害したり死んでしまったりするリスクもなくなったってわけ。」
「火・土・木の属性は、光魔法と親和性が高い属性ですね?」
リーリウムがリナに確認する。
「そう。」
「ではマリア様が……?」
「当時も、マリアが犯人ではないにしても、何らかの形でかかわっているのだろうとは思っていたよ。
でも、確信はできなかったし、吸い込まれていった魔力の追跡にも失敗してしまったし……。
それに、まあこれも思い込みなんだけど、マリアが悪さをするわけがないってどこかで信じてしまっていたからね。
さっきも言ったけど、彼女だけが私の“ヒロイン”なんだよ。」
リナは今にも泣き出しそうな、寂しそうな表情を浮かべる。
リーリウムは、見た目には自分と同年代の闇の魔法使いが、何百年も一人ですべてを背負っていたのだと思うと、心が締め付けられた。
「当時はまだマリア様は生きておられたはずだな……。」
ヘンリクスがつぶやく。
「そうだね。
でも、今はリーリウムが光の魔法使いだ。
すでに、マリアは亡くなっているだろう……。」
「では、この国を闇の魔力で覆いつくす必要はなくなったのでしょうか?」
リーリウムがリナに尋ねる。
出来ることなら、この国に魔法が戻ればいいと思ったからだ。
リナの負担も減る。
それに何より、闇の魔力に包まれた状態は、自分の命に関わるのだ。
国外に出ればその問題は解決するのだが、それでは王太子妃になることを諦めなければいけない。
じっとヘンリクスを見つめるリーリウム。
ヘンリクスは、そんなリーリウムの気持ちを悟り、そっと手を握った。
「それはまだ、何とも言えない。
何もかも憶測で、確実ではないからね。
国民全員の命がかかっているから、もう大丈夫だという確証がないと……。
だけど、君のためにも今の状況が良くないことは分かっている。」
「そう、リーリウムのためにも早くこの問題は解決しなくてはいけませんわ。
情報を整理しませんこと?
まずリナさんは、その真相を、なぜ今打ち明けたのかしら?」
三人の会話を黙って聞いていたヴィオラが、誰よりも冷静な様子でリナに尋ねた。
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