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Lesson.5 物語の終わり

110.思い込み

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リーリウムとヴィオラの様子を見て、リナはふふっと笑った。
ユニカもマリアも、過去、同じように不安気にしていたことを思い出したのだ。

「私も最初は、おこがましいんだけど、自分が作った世界だって勘違いしてた。
それで、おばあちゃんになってたユニカに牢屋でキレまくってたんだけど、ふとおかしいなって思ったんだ。
たとえばさ、私が書いた小説の中にマリアとアレクサンデルのデートシーンがあるんだけど、その時、ユニカは何をしていたのかな?
小説のそのシーンには、マリアとアレクサンデル、それにお花を売っている少女、屋台のおばさんしか出てこない。
では、『その時間帯にはユニカが存在しないの?』と言われると、この世界に来てしまった以上は、『ユニカはその瞬間も存在している』というしかない。
ユニカだけじゃないよ。お城の人たちも、街にいる人たちも、農夫だって、その瞬間も存在している。
そう考えると、単純に自分が作り出した世界だとは言えなくなってしまったんだよ。」

「複雑ですわね。」

ヴィオラが考え込む。

「私はさ、今になって思うと、あの小説を書かされたんじゃないかって感じることもある。
自分の創作って思い込んでたんだけど、神様が書かせたのかもしれない……ってね。
人間の思い込みってすごいんだよ。
アイリもそうだった。」

「この世界を物語の中だと思っていましたね。」

リーリウムは、アイリの数々の妄言や非常識な行動を思い返していた。
アイリは、自分はとある物語の“ヒロイン”で、リーリウムを“悪役令嬢”とし、自分が王太子であるヘンリクスと結ばれると思い込んでいた。
つまりアイリは、この世界の常識ではなく、その物語のストーリーを軸に物事の判断をしていたのである。

「うん。本当のアイリは、人付き合いは苦手だけど、あそこまで非常識じゃない。
賢かったし、人並みのやさしさも常識もあったんだよ。家族思いだったしね。
でも、思い込みが彼女をああいう風にしてしまった。
しかもアイリは、その信じ込んでいた物語がなんだったのか、実はうろ覚えだったんだよ。
アイリが生きていた世界では、“ヒロイン”が王子や公爵なんかと結ばれるストーリーが溢れかえっていた。
それがゲームにもなっていて、相手の好感度を上げて好きな人と幸せになるとクリアなんだけど、アイリはそんなゲームが大好きだったんだ。
毎日、飽きることなく、何本もゲームをしていた……。
もちろん、思い入れのあるゲームもあっただろうけど、印象の薄い、どれかの作品がこの世界とそっくりだったんだろうね。
ヒロインがアイリで、攻略対象の王子がヘンリクス、悪役令嬢がリーリウム……、そんなゲーム、本当は存在しない。私が知っている限りはね。」

リナが語り終えると、部屋がしんと静まり返った。
ヴィオラもリーリウムも、思い思いにリナの話を心に刻んでいるようだった。
ふと、ヴィオラがリナの方を向く。

「ユニカ様の日記にも、同じようなことが書いてありましたわ。
『闇だからといって悪というわけではない。』
これも、思い込みの一種ですわよね?
この記述があったから、わたくしたちはあなたに力添えを頼んだのですよ。」

そのページをリナに見せながら話す。

「ヴィオラ、一つ見落としているよ……。」

リナが、最近書き加えられたユニカの日記を読みながら、声を震わせる。
その瞬間ドアが音を立てて開き、慌てた様子のヘンリクスが、国王から借りたアレクサンデル王の日記帳を手に部屋へ戻ってきた。
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