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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

95.舞踏会前日3

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アイリは昼休み、アンドレアスと過ごすために大きな弁当を持って中庭へやってきた。
いつものベンチに行くと、アンドレアスがすでに待ち構えていた。

「やあ、アイリ。」

いつも大人っぽい表情のアンドレアスが、アイリに対してだけ見せてくれる屈託のない笑顔。
いつもは充足感を覚えるその笑顔も、今回ばかりはアイリの心を満たすことはなかった。

「ごきげんよう、アンドレアス様……。」

「どうしたの?」

アンドレアスがアイリの沈んだ表情を見るのは初めてのことだった。
いつもは弾けんばかりの笑顔で、アンドレアスを元気づけてくれている。

「昨日、お友だちとケンカをしてしまったの……。」

「お友だちってマリー嬢かい?」

アンドレアスは、アイリの友だちと言えばマリーしか知らない。
実際には、友だちでもなんでもなかったのだが、その事実にまだアンドレアスは気づいていなかったのだった。

「いいえ、別のお友だちよ。
何だか嫌われてしまったみたいで……。」

アイリは、珍しくアンドレアスに弱音を吐いた。
それくらい、リナとの出来事はショックだったのだ。

「そうだったのか。かわいそうに。」

アンドレアスは、元気のないアイリにいつもよりも魅力を感じられなかった。
アイリは元気に自分を励ましてくれる存在でなくてはならないのだ。
アイリは、敏感にアンドレアスの気持ちが離れていくのを感じとる。

「うふふ、ごめんなさい、しんみりしちゃいましたね。
私なら大丈夫です!
きちんとお話しすれば、お友だちとも仲直りできるはずです。」

アイリは無理に笑顔を作り、前向きな発言を心がける。
アンドレアスにも、穏やかな笑顔が戻ってきた。

アイリの魅了の力は、フェロモンのように漂っている他に、主に言葉に宿っている。
対象者を励ましたり、ポジティブな言葉を発したりすると、相手はアイリの虜になっていく。
今はリナからもらったブレスレットで、チャームが強化された上に、言霊の恩恵も受けているので、相手はいつも以上に影響を受けるのだ。
そのチャームの能力のせいで、アイリは誰にも弱音を吐けなかった。
ネガティブな言葉を使うと、対象者はチャームの呪縛から離れてしまう。
アイリが愚痴をこぼせる相手は、この世界でたった一人だけ。
リナだけだった。
自分と同じ世界から来た少女であり、アイリの能力、立場すべてを知っている唯一の存在。
アイリは単にリナに魅了されていたというだけでなく、それ以前からリナを特別な存在として認識していたのだった。

「やはり、アイリは笑顔が一番素敵だよ。」

アンドレアスの言葉も、心の傷を負ったアイリにとっては苦痛だった。
しかし、今はアンドレアスをも失うわけにはいかない。
明日は舞踏会で、悪役令嬢たちに一泡吹かせなければいけなかったからだ。

「ありがとうございます、アンドレアス様。」

アンドレアスの言葉に笑顔で返事をし、うつむきがちだった顔を上げた瞬間、アイリが最も見たくない光景が目に飛び込んできた。
リナがすぐそばにある東屋にいる。
しかも、プリムラとルドヴィクといっしょだった。
三人は楽しそうにランチを食べていて、何よりショックだったのは、リナの表情だ。
令嬢らしい演技ではなく、いたずらっぽく微笑んだり、プリムラに優しい眼差しを送ったり、今までアイリに対してしていた素の表情を見せていたのだ。
プリムラとルドヴィクも、リナの顔を見ても魅了されている様子がなく、普通に接していた。
東屋の方向を見つめたまま、ぼーっとしているアイリを不信に思い、アンドレアスもそちらを見つめる。

「プリムラ嬢と……、あの令嬢はアイリの知り合いではなかった?」

アンドレアスがリナの顔に引き込まれていく。

「ええ、先ほどお話ししたお友だちです。
悲しいけれど、プリムラ様と仲良くなるために私とは一緒に居られないと言われたのです。
私は大好きだったですけれど、仕方がありませんよね。
私には、アンドレアス様がいるから平気です!」

アイリはとっさにリナとのケンカをプリムラのせいにして、しおらしい様子で微笑む。
アイリの声で視線をリナから外したアンドレアスは、東屋で笑顔を浮かべるプリムラを睨みつける。

「プリムラのわがままに、またアイリが傷つけられたのだな。
明日は、ヴィオラにもプリムラにもひと言忠告をしなくては!」

アンドレアスの胸の奥は、盲目的に愛するアイリを傷つけるウェスペル家の姉妹への怒りで煮えたぎっていたのだった。
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