悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

94.舞踏会前日2

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「ヒロインって言葉、どうしてあなたが知っているの?
どこまで知っているの?」

今度は、リナが戸惑った。
ルドヴィクやプリムラは、完全にこちらの世界の人間だ。
それなのに、“ヒロイン”という言葉を知っている。
これもまた、危険な事だった。

「お前もチャームを持っているんだな?
ってことは、ヒロインなのか?」

「アイリ嬢がおっしゃっていたの。
自分が“ヒロイン”で、殿下たちは“攻略対象”、わたくしたち姉妹は“悪役令嬢”だって……。」

アイリが言っていたことをジョン伝いに聞いたのだと説明すると、リナは納得したように小さくうなずく。
当然、ユニカ様の日記帳の存在は知られてはいけないので、プリムラはそれ以上の事情は伏せておいた。

「ヒロインには、人数制限なんてない。
ただ、生まれた環境とかチャームの能力の大小で、この世界に関わる度合いが変わって来るだけ。
ヒロインとして現れたのに、一生平民で平凡な生涯を送る子もいるしね。」

「お前、詳しいんだな。」

ルドヴィクが訝し気に言う。

「ヒロイン歴が長いし、チャームの能力も飛びぬけて高いから。
アイリは、少し話しすぎだね。
ライバルの悪役令嬢にそこまで筒抜けだなんて……。」

「わたくしたち、悪役令嬢のつもりはないのですが……。」

「確かに、あなたたち姉妹はとても親切だから“悪役令嬢”っぽくはない。
アイリは思い込みが激しいし、きっと王子様に目がくらんで正常な判断ができなかったんだ。
“王子様の婚約者の公爵令嬢は悪役令嬢”っていうのは定型だしね。
それに、特にあなたはヒロインでもあるのだから、アイリは同族嫌悪に陥ったのかもしれない。」

「ヒロインのつもりもないのですが……。」

「でも、チャームの力を無自覚に使い続けると、さっき言ったような危険な目にあうこともある。
いつも、そこの王子様が助けてくれるわけではないのだから、自覚したほうがいい。
あなたのチャームの力は、接触で発動するみたいだから、やたらと他人とスキンシップをはからなければ大丈夫だと思うけど。」

「まあ、そうなのですか?
女性のお友達とはよく手をつなぎますが、殿方はルドヴィク様しか触れないから、大丈夫じゃないかしら……?」

プリムラは、リナに心を許しかけていた。
少なくともアイリの仲間ではないようだし、ヒロインや悪役令嬢に対する知識をきちんと教えてくれたからだ。
それにリナは本当に美しく、アイリのような心の奥底の欲深さなどもなく、むしろ純粋さすら感じられた。

「お前は、誰を“攻略”しようとしている?」

まだ、リナを怪しんでいるルドヴィクがそう訊ねると、彼女はニヤリと笑う。

「今は誰も。」

「どうして、この学園に来た?」

「その理由は、昨日フレエシア様に話した通りだよ。」

ルドヴィクが質問をしても、リナはのらりくらりとかわしていく。

「リナさんは、明日の舞踏会に出席なさるの?」

ルドヴィクとリナの険悪な問答を見ていたプリムラが、何かを思いついたように質問した。

「ええ、そのつもり。
招待状ももらったしね。」

もらったというより、学園長から脅し取ったものだったが。

「では、明日、一番上の姉にも会ってもらえないかしら?
ヴィオラお姉様は美しい上にとても賢い方なの。
ね、ルドヴィク様もそれならいいでしょ?」

「ヴィオラ嬢ならば公正な判断をするだろう。」

ルドヴィクは、渋々とうなずく。

「別に、わたしも構わないよ。
ちなみに、王太子の婚約者になったお姉さんとも会える?」

「リーリウムお姉様は体調を崩していらっしゃるから、明日は欠席なさるの。」

「そうか。残念。」

舞踏会にはウェスペル家の姉妹全員が一堂に会すかと思っていたが、あてが外れたリナは少しがっかりしていた。
それでも、唯一学園に所属していないヴィオラに会えるのは好都合だった。

「ヴィオラ様にお会いできるのを楽しみにしてるって伝えておいて。」

そう言うと、リナは手を振って東屋から去っていった。
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