悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

92.不穏なランチタイム

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次の日の昼休み、リナは約束通りフレエシアの研究室を訪れた。
ルヴァリと護衛騎士のトムも合流し、四人はコモンスペースでそれぞれが持ち寄ったランチを広げた。
公爵家の料理長や王宮の料理長が腕によりをかけて作ったお弁当は、おいしいのはもちろん、彩りも豊かだ。
一方、リナが持ってきたのは果物やカップケーキ、チョコレートなどの甘いものばかりだった。

「リナさん、ちゃんと食べなきゃだめだよ?」

あまりの偏食にフレエシアが心配して、自分の弁当からおかずを分け与える。
リナは昔から甘いお菓子や果物だけで生活をしていたので、それが普通になってしまっている。

「ありがとうございます、フレエシア様。」

普通の料理が食べられないわけではないので、笑顔でそれを受け取るリナ。

「リナさんは寮で生活しているの?」

「いえ、こちらの国に別荘があるので、そこから通っています。」

「そうなんだ。こっちの学園には、何を学びに来たの?」

「実は、魔法なんです。」

「魔法? この国で?」

ルヴァリが声を上げる。
ルヴァリも兄のルドヴィクも、実は母国にいるときは炎の魔法の使い手である。
しかし、やはりこの国に入ると魔法が使えなくなってしまうのだ。

「殿下も元々は魔法を使っていらっしゃったのでご存じだと思いますが、わたくしも母国では魔法が使えます。
しかし、この国の国境に入ったとたん使えなくなってしまうのです。
その謎を解きに、この学園へ来ました。」

リナは、フレエシアと親密になるために嘘をついた。
エレンシア王国で魔法が使えなくなった理由を、リナは当然知っているのだから。

「そうなの? その研究はこの国ではタブーとされているから、あまり大っぴらにしない方がいいよ。
これまで、その研究をしていた人たちがひどい目にあっているから、呪われてるって言われているんだ。」

フレエシアが小声で忠告する。
もちろん、そのことも知っている。
その研究を“呪われている”と思わせる原因を作ったのも、またリナだったからだ。
リナはこの国で魔法が使えなくなってから、ずっとその研究を徹底的に妨害してきた。

「ええ、存じています。
わたくしの研究内容をお話ししたのは、フレエシア様たちが初めてですわ。
だって、フレエシア様もその研究をされているのでしょう?」

フレエシアたちは目を見開いた。
当然、それは機密事項だったからだ。

「いや、わたしは魔道具を専門に研究しているから……。
思い違いじゃないかな?」

フレエシアはとっさに誤魔化すが、突然のことに動揺を隠しきれていない。

「あら、そうでしたの?
わたくしてっきり、フレエシア様もお仲間だと思い込んでいましたわ。
では、ここで聞いたことは他言無用でお願いしますね。」

リナの笑顔に、フレエシアは安心したようにうなずく。

(まだ、腹を割って話す仲でもないしね……。
少しずつ揺さぶっていくしかないよね。)

これまで魔法が使えない原因を研究してきた人間は、好奇心や正義感を理由にしていたことがほとんどだった。
しかし、マギア教授とフレエシアは違う。
絶対に原因を突き止めて解決しなくてはならないという、必死さがあった。
リナは、その理由が知りたかった。
そこにリナが求める答えがあるような気がしていたからだ。

ランチを食べ終わると、フレエシアたちはリナを見送った。

「殿下、どう思いました?」

「とてつもなく怪しいが、まだ何とも言えないな。」

昨夜、フレエシアはプリムラに、ルヴァリはルドヴィクに、リナがチャームの力を持っているかもしれないと聞いていた。
フレエシアもリナを美しい子だとは思ったが、学園中が夢中になるほどかと言われると、疑問だった。
いっしょにいたルヴァリとトムも、魅了された様子はない。
しかし、四人がランチを食べていると、遠巻きにリナを見つめている人間が男女複数人いたのだ。

「私たちだけが魅了されていないっていうのは、本当みたいだった。
彼女がチャームの能力の持ち主だとすると、アイリよりよほど強力だね。
プリムラは大丈夫かな……?」

実は、明日はプリムラがリナとランチをすることになっている。
「妹が美容の秘訣を知りたがっている。」と言って、フレエシアが約束を取り付けたのだ。

「兄上が一緒だから、大丈夫だよ。」

ルヴァリの屈託のない笑顔に、フレエシアも微笑みで返した。
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