悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

文字の大きさ
上 下
89 / 141
Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

89.ルドヴィクの懸念

しおりを挟む
その数日後、リーリウムの元へハモンド兄妹が作った薬膳チョコレートが届いた。
事前に学院長やマギア教授、そして王宮の侍医らによって、十分に吟味されたものである。
ヴィオラの訪問以来、食生活が改善され、時々日光に当たるなどしていたリーリウムの血色が、以前よりも幾分か良くなっていた。
落ちていた体重もやや戻ってきたこともあり、食後に少しずつチョコレートを食べて様子を見ることになった。

「お姉様、お加減はどうですか?」

ウェスペル家の姉妹は、入れ替わり立ち代わりにリーリウムの様子を見に来ていた。
今日は学園帰りに、ルドヴィクと共にプリムラが訪れている。

「最初の頃に比べると、大分過ごしやすくなったわ。
マリー嬢にお礼を伝えておいてね。」

「良かった! マリーもきっと喜びます。
そうそう、先日、お直しに出していた職人の元から、マリーの髪飾りが戻ってきたのです。
それをマリーに返したら、すごく感激していて……。」

「そうだったの。
髪飾りがきちんと直って、元の持ち主に戻って本当によかったわ。」

「ヴィオラ嬢が、髪飾りを舞踏会に持ってくるように言っていたそうだ。
アイリが何か仕掛けてきたら、もしかすると役に立つかもしれないって。」

ルドヴィクが楽しそうに報告してくれる。

「確かに、彼女なら皆が集まる舞踏会で何か仕掛けてくるかもしれませんね。」

「お姉様が舞踏会にいらっしゃらないなんて残念です。
本来であれば、王太子の婚約者として注目されるはずだったのに……。」

何やら考え込むリーリウムに、プリムラが声をかける。

「うふふ、いいのよ。
注目されるのは、正直言うと少し苦手なの。
それよりも、プリムラもアイリ嬢に目を付けられているのですから、気を付けるのよ。」

「はい、お姉様。」

そんな二人の会話を見守っていたルドヴィクが、プリムラの手をぎゅっと握る。

「プリムラは、俺がそばで守っているから大丈夫だ。
話は変わるが、ちょっと前からヘンリクスのクラスに留学生が来たことについて、何か聞いているか?」

「ああ、隣国からご令嬢が転入してきたと聞いています。
すごく気さくな方だとか。」

「それだけじゃない。
ものすごく美人なんだ。」

「まあ! ルドヴィク様!」

プリムラがキッと睨みつける。

「いや、客観的に見て、だ。
当然、俺にとっての一番はプリムラだし、ヘンリクスにとってはリーリウムが一番に決まっている!
ただ、周りの様子がおかしいのだ。」

「どういうことですの?」

「確かに彼女、リナ嬢は美人だが、それだけだ。
それなのに、彼女を見た人間はどいつもこいつも、ぼーっとして見惚れている。
それこそ、虜になってしまったかのようだった。
そして、それは俺とルヴァリ、ヘンリクス、ディナルドには当てはまらない。
彼女に研究棟で話しかけられてしばらくしゃべってはみたが、ヘンリクスの言う通り、気さくな令嬢という印象以外は残らなかった。」

「それってまるで……。」

「アイリのチャームに似ているだろ?」

リーリウムとルドヴィクが考えていたことは同じだった。

「そのリナ嬢って言う方も、チャームの能力を持っているってことかしら?」

「確定は出来ないが、そうかもしれない。
ただ、リナ嬢はアイリとは違い、俺たちを“攻略しよう”とは考えていないようだった。
普通に日常会話をして、それ以来、顔を合わせれば挨拶をする程度で接触もしてきていない。」

「どういった素性の方なのかしら……。」

リーリウムがつぶやくと、プリムラが思いついたように思いがけない言葉を出した。

「わたくし、話しかけてみようかしら?
気さくな方なら、お友だちになれるかもしれないし。」

「いやいや、だめだ! 危険すぎる。
相手が何者かはっきりしていないのに、そもそも同性にはキツい性格かもしれないだろ?」

「それだったらそれで退避するだけだわ。
いじわるな女性の相手をしたことないわけでもないし、それくらい平気よ?」

ルドヴィクの強い反対にも、プリムラは一向に引く様子がない。
美人と聞いて好奇心が芽生えたのも否定できないが、チャームの能力を持っているかもしれない人物の正体を明かして、みんなの役に立ちたいとも思っていたからだ。

「……絶対に二人きりで会ってはダメよ。
人目のある所で、誰かを護衛に控えさせなくてはいけないわ。」

しばらく考え込んでいたリーリウムが口を開いた。
プリムラの頑固さを知っているリーリウムは、ここで反対をしてプリムラが暴走してしまうくらいなら、条件を提示したほうが安全だと思ったのだ。

「わかったわ!」

ルドヴィクはそんな姉妹の様子を見て、自分が折れるしかないことを悟る。

「では、プリムラがリナ嬢と会う時には、俺とアーサーが影から見守ろう。
それならば、俺も許可する。」

「ありがとう。必ずそうするわ!」

プリムラは、ルドヴィクにも認めてもらえたことがうれしくて、思わず抱きつく。

「まあプリムラったら、はしたないわよ。」

リーリウムは恥ずかしそうに目をそらしながら、プリムラをたしなめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...