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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
73.ウェスペル家の休日6
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マギア教授は学園の馬車を借りる手続きをとると、自ら御者になり手綱を取る。
「先生、仮にも伯爵なのに……。」
そう言いながら、自分も御者席の隣に座っているフレエシアが呆れる。
「仮にもって。私は立派な伯爵だよ?
まあ、今は緊急事態だからね。」
「どこへ向かうの?」
「私の姉の家だよ。
姉上の方が魔力操作に関しては詳しいから、協力してもらおうと思ってね。
変な人でね、森の中のお屋敷に一人で住んでいるんだ。
今日は休みだから、多分庭で土いじりでもしているはずだよ。」
王都の中心部にある閑静な貴族街を過ぎ、庶民の街の喧騒が聞こえてくる。
今日は休日なので、商店や飲食店もお店を開けていない。
その代わり、小さな屋台や露天商が軒を連ねていた。
「あれ? ちょっと先生、馬車止めて。」
露店を営む人々の中に、見覚えのあるピンク色の髪を見つけたような気がした。
「どうしたの?」
フレエシアに言われるがまま、マギア教授は馬車を道の端に寄せて止める。
「あれ、アイリ嬢じゃない?」
スカーフを頭に巻いてはいるが、あのボリューミーなピンクの髪は隠しきれていない。
「アイリ嬢ってこの手紙の?
私はアイリ嬢がどんな子か見たことがないけど、あの髪の毛はなかなか目立つね。」
「ああやって、生活費を稼いでいるのか。
貴族令嬢なのにたくましいな。
あれだけ見たら、健気で努力家ないい子なんだけどなぁ……。」
「ふうん。
そろそろ行こうか……ってあれ! あの子! ちょっと!
フレエシアちゃん、馬車を停めてくるから、ちょっとあのローブの子を監視しておいてくれない?」
マギア教授はアイリの店にやってきたローブ姿の人物に驚き、フレエシアを馬車から半ば無理やりに降ろした。
「ええ?
公爵令嬢にスパイをさせるなんて、先生くらいのもんだよ? まったく……」
そう言いながらも、少しワクワクしながらローブ姿の怪しげな人物を物陰からじっと観察する。
ローブ姿の人物は、アイリから何かが入った紙袋を渡されている。
「何だろう? アイリ嬢が作ったお菓子かな?
その割には大切そうに持っているけど……。」
フレエシアが思案していると、アイリはてきぱきと店じまいをし、ローブ姿の人物と歩き出す。
慌てつつも、気配を消して追いかけるフレエシア。
「どう?」
「っ!」
ローブ姿の人物とアイリに集中していたフレエシアは、後ろから急に声をかけられ大声を出してしまいそうになり、とっさに手を口に当てる。
後ろを見ると、急いで追い付いてきたマギア教授が息を切らして立っていた。
「どうもこうも、あそこで何か見たことのないものを食べながらおしゃべりしてるだけだよ。
あの怪しげな人は何者なの?」
「彼女は、私が知っている唯一の魔法使いだよ。」
「えっ!」
「といっても、魔法を使ったところを偶然見かけただけで、一方的に知っているだけなんだけどね。
以前見かけたのは二十年くらい前なんだけど、あの頃と姿が変わっていないな……。
少女のままだ。
何でだ?」
たしかに、深くかぶったローブのフードからちらりと見える顔立ちは、隣に座っているアイリとほとんど変わらない、少女のように見えた。
「その人の子どもとかって可能性は?」
「ないとは言えないけど……。
同一人物にしか見えないからなぁ。
そういう魔法があるのかな?」
「不老とか? おとぎ話みたいだけど、あったらすごいね。
あ、立ち上がった!」
ローブ姿の少女は、ベンチの後ろにある藪の中へズイズイと入っていく。
「あんなところに何があるんだろう?」
アイリもその場から立ち去るのを確認すると、二人は急いで藪へ向かい、中を慎重にのぞき込む。
しかし、そこには誰もいなかった。
広い藪の先には通り抜けられるような場所はないし、そもそも人が入っていくには草木が生い茂りすぎている。
「消えた……。」
フレエシアがぼそりと言うと、隣にいるマギア教授も静かにうなずく。
「やはり魔法使いだな。」
「彼女は何者なんだろうか……?」
アイリに尋ねたいところだが、素直に話してくれるわけがない。
そもそも、状況から見て魔法使いは“敵”だと思った方がいいだろうと、フレエシアは結論づける。
「一先ず、姉上の家へ急ごう。
手紙のことだけでなく、魔法使いについても何かいい案を出してくれるかもしれない。」
二人は藪に突っ込んでいた顔を引き抜き、急いで馬車へと向かった。
「先生、仮にも伯爵なのに……。」
そう言いながら、自分も御者席の隣に座っているフレエシアが呆れる。
「仮にもって。私は立派な伯爵だよ?
まあ、今は緊急事態だからね。」
「どこへ向かうの?」
「私の姉の家だよ。
姉上の方が魔力操作に関しては詳しいから、協力してもらおうと思ってね。
変な人でね、森の中のお屋敷に一人で住んでいるんだ。
今日は休みだから、多分庭で土いじりでもしているはずだよ。」
王都の中心部にある閑静な貴族街を過ぎ、庶民の街の喧騒が聞こえてくる。
今日は休日なので、商店や飲食店もお店を開けていない。
その代わり、小さな屋台や露天商が軒を連ねていた。
「あれ? ちょっと先生、馬車止めて。」
露店を営む人々の中に、見覚えのあるピンク色の髪を見つけたような気がした。
「どうしたの?」
フレエシアに言われるがまま、マギア教授は馬車を道の端に寄せて止める。
「あれ、アイリ嬢じゃない?」
スカーフを頭に巻いてはいるが、あのボリューミーなピンクの髪は隠しきれていない。
「アイリ嬢ってこの手紙の?
私はアイリ嬢がどんな子か見たことがないけど、あの髪の毛はなかなか目立つね。」
「ああやって、生活費を稼いでいるのか。
貴族令嬢なのにたくましいな。
あれだけ見たら、健気で努力家ないい子なんだけどなぁ……。」
「ふうん。
そろそろ行こうか……ってあれ! あの子! ちょっと!
フレエシアちゃん、馬車を停めてくるから、ちょっとあのローブの子を監視しておいてくれない?」
マギア教授はアイリの店にやってきたローブ姿の人物に驚き、フレエシアを馬車から半ば無理やりに降ろした。
「ええ?
公爵令嬢にスパイをさせるなんて、先生くらいのもんだよ? まったく……」
そう言いながらも、少しワクワクしながらローブ姿の怪しげな人物を物陰からじっと観察する。
ローブ姿の人物は、アイリから何かが入った紙袋を渡されている。
「何だろう? アイリ嬢が作ったお菓子かな?
その割には大切そうに持っているけど……。」
フレエシアが思案していると、アイリはてきぱきと店じまいをし、ローブ姿の人物と歩き出す。
慌てつつも、気配を消して追いかけるフレエシア。
「どう?」
「っ!」
ローブ姿の人物とアイリに集中していたフレエシアは、後ろから急に声をかけられ大声を出してしまいそうになり、とっさに手を口に当てる。
後ろを見ると、急いで追い付いてきたマギア教授が息を切らして立っていた。
「どうもこうも、あそこで何か見たことのないものを食べながらおしゃべりしてるだけだよ。
あの怪しげな人は何者なの?」
「彼女は、私が知っている唯一の魔法使いだよ。」
「えっ!」
「といっても、魔法を使ったところを偶然見かけただけで、一方的に知っているだけなんだけどね。
以前見かけたのは二十年くらい前なんだけど、あの頃と姿が変わっていないな……。
少女のままだ。
何でだ?」
たしかに、深くかぶったローブのフードからちらりと見える顔立ちは、隣に座っているアイリとほとんど変わらない、少女のように見えた。
「その人の子どもとかって可能性は?」
「ないとは言えないけど……。
同一人物にしか見えないからなぁ。
そういう魔法があるのかな?」
「不老とか? おとぎ話みたいだけど、あったらすごいね。
あ、立ち上がった!」
ローブ姿の少女は、ベンチの後ろにある藪の中へズイズイと入っていく。
「あんなところに何があるんだろう?」
アイリもその場から立ち去るのを確認すると、二人は急いで藪へ向かい、中を慎重にのぞき込む。
しかし、そこには誰もいなかった。
広い藪の先には通り抜けられるような場所はないし、そもそも人が入っていくには草木が生い茂りすぎている。
「消えた……。」
フレエシアがぼそりと言うと、隣にいるマギア教授も静かにうなずく。
「やはり魔法使いだな。」
「彼女は何者なんだろうか……?」
アイリに尋ねたいところだが、素直に話してくれるわけがない。
そもそも、状況から見て魔法使いは“敵”だと思った方がいいだろうと、フレエシアは結論づける。
「一先ず、姉上の家へ急ごう。
手紙のことだけでなく、魔法使いについても何かいい案を出してくれるかもしれない。」
二人は藪に突っ込んでいた顔を引き抜き、急いで馬車へと向かった。
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