60 / 141
Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
60.波乱の幕開け
しおりを挟む
フレエシアとリーリウムが帰宅すると、夕食の時間になっていた。
食後に家族全員が公爵の書斎に集められ、その中でヴィオラは、今朝のアンドレアスとの出来事を包み隠さず皆に話した。
「アンドレアス……。
気は弱いが、実直で素直ないい男だったのに。」
アンドレアスと行動を共にしていた公爵は、ショックを隠せない様子だった。
自分の跡を継ぐ婿として、息子のように育てていたのだから無理もない。
「お父様、わたくしが至らなかったばかりに申し訳ございません。」
「いや、いいんだよ。
ヴィオラは大丈夫なのかい?」
「全く何も感じないわけではないのですが、意外にも少しすっきりとしているのです。」
ヴィオラは珍しく穏やかな笑顔を浮かべる。
「いろいろと考えていることはあるのですが、
明日の朝にはお母様が帰宅されるので、その時にわたくしの考えを皆に聞いてほしいのです。」
ヴィオラはアンドレアスが帰った後、すぐに母へ手紙を届けさせた。
馬を全速で駆って半日はかかる領地に手紙を届けた使者は、
「すぐ向かう」という短い返事を手に、疲労困憊な様子で先ほど王都の屋敷に戻ってきたばかりだった。
「わかったよ。
では、明日また皆で集まろう。
フレエシアたちは、明日は学園を休むように。
僕も明日は登城する時間を遅らせるよ。」
「はい、お父様。」
フレエシアは妹たちの分も返事をする。
公爵は机に向かって手紙をしたためると執事のアドルフに預け、早急に城へ届けさせるように指示を出した。
もし、アンドレアスとヴィオラの婚約がなくなるようなことがあれば、王国にも影響を及ぼす。
アンドレアスは、次の宰相となるべく教育を受けていたのだ。
将来はヘンリクスの右腕となり、国の平和を守るはずの人物だったにも関わらず、自分の感情ですべてを投げ出してしまった。
アンドレアスがヴィオラとの婚約を解消した場合は、本人のみならずフェネル伯爵家の責任問題となることは必至だ。
(フェネル伯爵は良い方だ。
できることならば、婚約解消にはなってほしくはないが……。)
公爵はちらりとヴィオラの表情を見るが、明日の朝どのような結論を出すのかは分からなかった。
ただ、本人も言っていたように、どこかすっきりとした顔つきをしているように思えた。
「お父様、わたくしたちはもう休みますわね。」
父の思いを知ってか知らずか、ヴィオラはいつも通りの調子に戻っている。
「うん。おやすみ。」
「おやすみなさい、お父様。」
娘たちは口々に挨拶をして、書斎を出て行った。
「はぁ……。
どうせ、また父を仲間外れにして“女の子だけのお茶会”をするんだろうなぁ……。」
公爵の小さなつぶやきは、一人きりになった書斎の中で寂しげに響いた。
食後に家族全員が公爵の書斎に集められ、その中でヴィオラは、今朝のアンドレアスとの出来事を包み隠さず皆に話した。
「アンドレアス……。
気は弱いが、実直で素直ないい男だったのに。」
アンドレアスと行動を共にしていた公爵は、ショックを隠せない様子だった。
自分の跡を継ぐ婿として、息子のように育てていたのだから無理もない。
「お父様、わたくしが至らなかったばかりに申し訳ございません。」
「いや、いいんだよ。
ヴィオラは大丈夫なのかい?」
「全く何も感じないわけではないのですが、意外にも少しすっきりとしているのです。」
ヴィオラは珍しく穏やかな笑顔を浮かべる。
「いろいろと考えていることはあるのですが、
明日の朝にはお母様が帰宅されるので、その時にわたくしの考えを皆に聞いてほしいのです。」
ヴィオラはアンドレアスが帰った後、すぐに母へ手紙を届けさせた。
馬を全速で駆って半日はかかる領地に手紙を届けた使者は、
「すぐ向かう」という短い返事を手に、疲労困憊な様子で先ほど王都の屋敷に戻ってきたばかりだった。
「わかったよ。
では、明日また皆で集まろう。
フレエシアたちは、明日は学園を休むように。
僕も明日は登城する時間を遅らせるよ。」
「はい、お父様。」
フレエシアは妹たちの分も返事をする。
公爵は机に向かって手紙をしたためると執事のアドルフに預け、早急に城へ届けさせるように指示を出した。
もし、アンドレアスとヴィオラの婚約がなくなるようなことがあれば、王国にも影響を及ぼす。
アンドレアスは、次の宰相となるべく教育を受けていたのだ。
将来はヘンリクスの右腕となり、国の平和を守るはずの人物だったにも関わらず、自分の感情ですべてを投げ出してしまった。
アンドレアスがヴィオラとの婚約を解消した場合は、本人のみならずフェネル伯爵家の責任問題となることは必至だ。
(フェネル伯爵は良い方だ。
できることならば、婚約解消にはなってほしくはないが……。)
公爵はちらりとヴィオラの表情を見るが、明日の朝どのような結論を出すのかは分からなかった。
ただ、本人も言っていたように、どこかすっきりとした顔つきをしているように思えた。
「お父様、わたくしたちはもう休みますわね。」
父の思いを知ってか知らずか、ヴィオラはいつも通りの調子に戻っている。
「うん。おやすみ。」
「おやすみなさい、お父様。」
娘たちは口々に挨拶をして、書斎を出て行った。
「はぁ……。
どうせ、また父を仲間外れにして“女の子だけのお茶会”をするんだろうなぁ……。」
公爵の小さなつぶやきは、一人きりになった書斎の中で寂しげに響いた。
1
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる