59 / 141
Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
59.アンドレアスの不在
しおりを挟む
午後の授業を終え、放課後の生徒会室に皆が集まった。
しかし、やはりアンドレアスだけは姿を見せない。
今日は、置手紙もなかった。
リーリウムは、サラの様子がおかしかったことに嫌な予感を覚えた。
「お姉様、今朝、アンドレアス様がヴィオラお姉様に会いにいったそうなのですが、ご存じでしたか?」
「いや、知らなかった。
だけど、お姉様のあの様子なら、すぐに話し合いの場を設けそうだなという予想はしていたよ。」
「アンドレアス様はいつもよりも上機嫌で出かけていったそうなのですが、学園にやってきた時は元気がなさそうだったそうです。
それで、心配したサラ嬢が様子を見に行ったのですが、今度はサラ嬢が元気をなくしてしまったのです。
わたくしたちが何を聞いても『大丈夫』としか言わなくて……。
ヴィオラ姉さまとアンドレアス様の間で、何かが起こったのではないでしょうか?」
「そうだね。その可能性がありそうだ。」
フレエシアは腕組みをして、ヴィオラが怒っているのか悲しんでいるのか、どちらにせよ今晩は大変な夜になりそうだと考えていた。
しんとした、沈黙の時間が流れる。
「アンドレアス様は、今日ずっとアイリと共に行動していました。」
ジョンがその静かな時間を破り、全員がなんとなくそうではないかと考えていた事実を口に出した。
「いつもと同じようにお昼ご飯をいっしょに食べようかと思ってアイリを誘いにいったら、もう教室にはいなくて……。
昨日いっしょに弁当を食べた中庭に行くと、アンドレアス様と共にお昼を過ごしているのを見つけたのです。
アンドレアス様は僕がスパイをしているのをご存知なので、話しかけずに二人の様子を見ていました。
二人はまるで恋人同士のようで……。
もしかすると、すでに僕がスパイだということがアイリにも知られてしまったかもしれません。」
「その可能性は否定できないね。」
フレエシアは頭を抱えたい気分だった。
アンドレアスのヴィオラへの心酔ぶりは、たしかに危ういものだった。
しかし、ここ数年で築き上げたアンドレアスとウェスペル公爵家との絆も、確かにあるのだと信じていたからだ。
しかも、もうジョンはアイリに近づけない。
手段が一つ減ってしまった。
「アンドレアスは、あの令嬢のチャームの魔法にかかってしまっているという可能性はないだろうか?」
ヘンリクスが声を上げる。
フレエシアはギョッとして、リーリウムを見るが、私は話していないとばかりに首を静かに振る。
ヘンリクスは、アイリからの手紙について、マギア教授から聞いた話を皆に伝えた。
「アイリ嬢は魔法の使い手ということですか?」
思わずアーサーが驚いた声を出す。
「いや、まだ確定ではない。
今マギア教授が解析をしている最中だ。
しかし、ジョンがアイリのそばを離れ、我々と行動を共にするようになったとたん、正気にもどったのはそのせいなのではないかと思わずにはいられない。
それに、アンドレアスもだ。
あんなにヴィオラ嬢を大切にしていたのに、急展開すぎないか?」
ヘンリクスは、推論を皆に聞かせた。
「そうなると、俺たちは大丈夫なのでしょうか?
教授は高貴な血にはチャームを無効にする力があるのではと言っていましたが、不確実すぎます。」
ディナルドは、昼から思っていたことをこの機会に話し始める。
「アンドレアスは、本当にヴィオラ嬢を愛していた。なのに……。」
ディナルドは、よくわからない力のせいで愛する者を悲しませるのではないかと考えると、恐ろしくてたまらなかった。
思わず、フレエシアと目が合ってしまう。
「ディナルドや殿下たちは大丈夫だよ。」
フレエシアが笑顔で答える。
「なんで、そう言い切れるんだよ。」
まさか、ユニカ様の日記帳にそう書いてあったとは言えない。
リーリウムは、ハラハラと二人のやり取りを見守っていた。
「今は言えないけれど、ちゃんと大丈夫だと言える根拠はあるよ。」
「そうか、そうお前が言うなら、そうなんだろう。」
アンドレアスが魅了されてしまった理由も、ジョンが正気に戻った理由もまだわからない男性陣だったが、フレエシアの言葉は不思議と信じることができた。
フレエシアやリーリウム、ウェスペル公爵家の娘たちを“無条件で信じ、信じられる”だけで、チャーム無効の恩恵を受けることができていることを、彼らは知る由もなかった。
しかし、やはりアンドレアスだけは姿を見せない。
今日は、置手紙もなかった。
リーリウムは、サラの様子がおかしかったことに嫌な予感を覚えた。
「お姉様、今朝、アンドレアス様がヴィオラお姉様に会いにいったそうなのですが、ご存じでしたか?」
「いや、知らなかった。
だけど、お姉様のあの様子なら、すぐに話し合いの場を設けそうだなという予想はしていたよ。」
「アンドレアス様はいつもよりも上機嫌で出かけていったそうなのですが、学園にやってきた時は元気がなさそうだったそうです。
それで、心配したサラ嬢が様子を見に行ったのですが、今度はサラ嬢が元気をなくしてしまったのです。
わたくしたちが何を聞いても『大丈夫』としか言わなくて……。
ヴィオラ姉さまとアンドレアス様の間で、何かが起こったのではないでしょうか?」
「そうだね。その可能性がありそうだ。」
フレエシアは腕組みをして、ヴィオラが怒っているのか悲しんでいるのか、どちらにせよ今晩は大変な夜になりそうだと考えていた。
しんとした、沈黙の時間が流れる。
「アンドレアス様は、今日ずっとアイリと共に行動していました。」
ジョンがその静かな時間を破り、全員がなんとなくそうではないかと考えていた事実を口に出した。
「いつもと同じようにお昼ご飯をいっしょに食べようかと思ってアイリを誘いにいったら、もう教室にはいなくて……。
昨日いっしょに弁当を食べた中庭に行くと、アンドレアス様と共にお昼を過ごしているのを見つけたのです。
アンドレアス様は僕がスパイをしているのをご存知なので、話しかけずに二人の様子を見ていました。
二人はまるで恋人同士のようで……。
もしかすると、すでに僕がスパイだということがアイリにも知られてしまったかもしれません。」
「その可能性は否定できないね。」
フレエシアは頭を抱えたい気分だった。
アンドレアスのヴィオラへの心酔ぶりは、たしかに危ういものだった。
しかし、ここ数年で築き上げたアンドレアスとウェスペル公爵家との絆も、確かにあるのだと信じていたからだ。
しかも、もうジョンはアイリに近づけない。
手段が一つ減ってしまった。
「アンドレアスは、あの令嬢のチャームの魔法にかかってしまっているという可能性はないだろうか?」
ヘンリクスが声を上げる。
フレエシアはギョッとして、リーリウムを見るが、私は話していないとばかりに首を静かに振る。
ヘンリクスは、アイリからの手紙について、マギア教授から聞いた話を皆に伝えた。
「アイリ嬢は魔法の使い手ということですか?」
思わずアーサーが驚いた声を出す。
「いや、まだ確定ではない。
今マギア教授が解析をしている最中だ。
しかし、ジョンがアイリのそばを離れ、我々と行動を共にするようになったとたん、正気にもどったのはそのせいなのではないかと思わずにはいられない。
それに、アンドレアスもだ。
あんなにヴィオラ嬢を大切にしていたのに、急展開すぎないか?」
ヘンリクスは、推論を皆に聞かせた。
「そうなると、俺たちは大丈夫なのでしょうか?
教授は高貴な血にはチャームを無効にする力があるのではと言っていましたが、不確実すぎます。」
ディナルドは、昼から思っていたことをこの機会に話し始める。
「アンドレアスは、本当にヴィオラ嬢を愛していた。なのに……。」
ディナルドは、よくわからない力のせいで愛する者を悲しませるのではないかと考えると、恐ろしくてたまらなかった。
思わず、フレエシアと目が合ってしまう。
「ディナルドや殿下たちは大丈夫だよ。」
フレエシアが笑顔で答える。
「なんで、そう言い切れるんだよ。」
まさか、ユニカ様の日記帳にそう書いてあったとは言えない。
リーリウムは、ハラハラと二人のやり取りを見守っていた。
「今は言えないけれど、ちゃんと大丈夫だと言える根拠はあるよ。」
「そうか、そうお前が言うなら、そうなんだろう。」
アンドレアスが魅了されてしまった理由も、ジョンが正気に戻った理由もまだわからない男性陣だったが、フレエシアの言葉は不思議と信じることができた。
フレエシアやリーリウム、ウェスペル公爵家の娘たちを“無条件で信じ、信じられる”だけで、チャーム無効の恩恵を受けることができていることを、彼らは知る由もなかった。
0
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる