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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
58.鑑定の結果
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「本当に微量なのですが、ほら、ここ!
ここに令嬢のくちびるの跡がかすかに残っているのがわかりますか?」
じっと目を凝らしてみると、確かにうっすらとくちびるらしき模様が見える。
「おそらく、殿下にこの恋文を書いて封をした後、おまじないがてら封筒にキスをしたのだと思われます。」
「こ、恋文……。」
ヘンリクスはぞわぞわと鳥肌が立つ。
アイリはもはや、ヘンリクスにとっておぞましい存在でしかなかったのだ。
「え、いや、くちびるの跡を残すくらいですので、おそらく恋文ではないかと思ったのですが……。
まあ、とにかく、このくちびるの跡からほんの微かに魔力を検知しました。」
「それで、どのような類の魔力なのかわかるか?」
ヘンリクスは自分や、ずっとその手紙を懐にいれていたディナルドに何か影響が出るのか心配になった。
「はい、魔法石での鑑定によると、おそらく“チャーム”ではないかと思われます。
魔法が盛んだった時代でも、めずらしい部類に入る魔法の一種で、人を惑わせる効果があります。
それに、正体不明の別の魔力も混ざっているようでした。
殿下もディナルド君も、特に変な感じはしませんか?
たとえば、この手紙の令嬢のことが妙に気になったり、彼女のことを考えると高揚したりといったことなのですが……。」
「全然ないな。むしろ嫌悪感しかない。」
「俺もです。」
ヘンリクスとディナルドは、一瞬も考えずに教授へ返答する。
「あれー? そうですか。おかしいなぁ……。
高貴な方はそういった耐性が生まれつきあるのかな?」
教授は心底残念そうに、ヘンリクスたちを見つめる。
「じゃあ、そんなに高貴でもない僕だったら、魅了されてしまうのかな?
今度その令嬢に会ってみようか?」
マシューがわくわくとした雰囲気で妙な事を言い出した。
「いやいや、それはさすがに危険だから……。
もうちょっと研究を進めてから、どうしても試してみたかったら会ってみたらいいんじゃないかな。
それに、チャーム以外にも何か別の魔力も働いているような感じもするし、その正体も突き止めなければいけない。
そんなわけで、殿下、この手紙をもうしばらく預かってもよろしいでしょうか?」
マギア教授は、希望に満ちた目でヘンリクスにお願いをする。
「別にそれは構わんが、教授は大丈夫なのか?
これから学園改革の話もしたいのだが、あの女の魔法にやられてしまっては困る。」
「それは大丈夫です!」
ヘンリクスの言葉を聞くと、マギア教授は首からぶら下げたネックレスを見せてくれた。
大きなターコイズのような石がはめ込まれた、古いネックレスだった。
「このネックレスは、あらゆる精神攻撃や状態異常の魔法をブロックしてくれる強力な魔道具なのです。
我が家の家宝でこれ一個しかないので、身を守るすべをもたないマシュー君は念のためにもう研究には参加しないでくださいね。」
「はーい。わかりました。
何かわかったら、絶対に僕にも教えてくださいね。」
子どもっぽい態度のマシューは、妖精や白銀の君などの面影が一切見られない。
その様子を見て、ヘンリクスは安堵する。
それこそ、リーリウムがマシューの美しさに魅了されてしまうのではないかと気が気でなかったからだ。
「それで、研究の過程で封筒を開けることになると思うのですが……。
手紙の内容を勝手に読むわけにはいかないので、後日また研究室に来ていただけますか?」
「わかった。それで、学園改革の話なのだが……。」
「いえ、ちょっと待ってください。
今はこの研究が最優先です。思いのほか危険な手紙のようなので……。
学園改革の方は、マシュー君や他の先生方と先に始めちゃってください。
マシュー君、どうすべきか分かっていますよね?」
「はい、先生。」
ヘンリクスは、本題である学園改革について話せないとは思ってもみなかったので、困惑した。
「殿下、僕たちは今まで何もしてこなかったわけではありません。
もちろん、離脱した先生もいらっしゃいますが、マギア教授を中心にここに残っている皆で出来る限りの準備はしていたのです。」
マシューが珍しくきちんと説明をする。
「それに、ああなってしまっては、マギア教授は研究以外のことは考えられなくなってしまうので……。
だから先生は頑固者だって言ったでしょう?」
教授はすでに部屋の奥で何やら書物を読みながら、ブツブツと独り言をとなえていた。
「なるほど、確かに。」
マシューの言葉にヘンリクスも思わず笑みがこぼれる。
「お忙しいとは思いますが、明日以降は僕らの秘密会議に出席してくださいね。
決して今の学園長たちには見つからないように!」
「そうか。承知した。」
ヘンリクスは、力強い味方を得たような安心感を抱いた。
最初に抱いていたマシューへの嫉妬心が、いつの間にかどこかへ行ってしまったようだった。
ここに令嬢のくちびるの跡がかすかに残っているのがわかりますか?」
じっと目を凝らしてみると、確かにうっすらとくちびるらしき模様が見える。
「おそらく、殿下にこの恋文を書いて封をした後、おまじないがてら封筒にキスをしたのだと思われます。」
「こ、恋文……。」
ヘンリクスはぞわぞわと鳥肌が立つ。
アイリはもはや、ヘンリクスにとっておぞましい存在でしかなかったのだ。
「え、いや、くちびるの跡を残すくらいですので、おそらく恋文ではないかと思ったのですが……。
まあ、とにかく、このくちびるの跡からほんの微かに魔力を検知しました。」
「それで、どのような類の魔力なのかわかるか?」
ヘンリクスは自分や、ずっとその手紙を懐にいれていたディナルドに何か影響が出るのか心配になった。
「はい、魔法石での鑑定によると、おそらく“チャーム”ではないかと思われます。
魔法が盛んだった時代でも、めずらしい部類に入る魔法の一種で、人を惑わせる効果があります。
それに、正体不明の別の魔力も混ざっているようでした。
殿下もディナルド君も、特に変な感じはしませんか?
たとえば、この手紙の令嬢のことが妙に気になったり、彼女のことを考えると高揚したりといったことなのですが……。」
「全然ないな。むしろ嫌悪感しかない。」
「俺もです。」
ヘンリクスとディナルドは、一瞬も考えずに教授へ返答する。
「あれー? そうですか。おかしいなぁ……。
高貴な方はそういった耐性が生まれつきあるのかな?」
教授は心底残念そうに、ヘンリクスたちを見つめる。
「じゃあ、そんなに高貴でもない僕だったら、魅了されてしまうのかな?
今度その令嬢に会ってみようか?」
マシューがわくわくとした雰囲気で妙な事を言い出した。
「いやいや、それはさすがに危険だから……。
もうちょっと研究を進めてから、どうしても試してみたかったら会ってみたらいいんじゃないかな。
それに、チャーム以外にも何か別の魔力も働いているような感じもするし、その正体も突き止めなければいけない。
そんなわけで、殿下、この手紙をもうしばらく預かってもよろしいでしょうか?」
マギア教授は、希望に満ちた目でヘンリクスにお願いをする。
「別にそれは構わんが、教授は大丈夫なのか?
これから学園改革の話もしたいのだが、あの女の魔法にやられてしまっては困る。」
「それは大丈夫です!」
ヘンリクスの言葉を聞くと、マギア教授は首からぶら下げたネックレスを見せてくれた。
大きなターコイズのような石がはめ込まれた、古いネックレスだった。
「このネックレスは、あらゆる精神攻撃や状態異常の魔法をブロックしてくれる強力な魔道具なのです。
我が家の家宝でこれ一個しかないので、身を守るすべをもたないマシュー君は念のためにもう研究には参加しないでくださいね。」
「はーい。わかりました。
何かわかったら、絶対に僕にも教えてくださいね。」
子どもっぽい態度のマシューは、妖精や白銀の君などの面影が一切見られない。
その様子を見て、ヘンリクスは安堵する。
それこそ、リーリウムがマシューの美しさに魅了されてしまうのではないかと気が気でなかったからだ。
「それで、研究の過程で封筒を開けることになると思うのですが……。
手紙の内容を勝手に読むわけにはいかないので、後日また研究室に来ていただけますか?」
「わかった。それで、学園改革の話なのだが……。」
「いえ、ちょっと待ってください。
今はこの研究が最優先です。思いのほか危険な手紙のようなので……。
学園改革の方は、マシュー君や他の先生方と先に始めちゃってください。
マシュー君、どうすべきか分かっていますよね?」
「はい、先生。」
ヘンリクスは、本題である学園改革について話せないとは思ってもみなかったので、困惑した。
「殿下、僕たちは今まで何もしてこなかったわけではありません。
もちろん、離脱した先生もいらっしゃいますが、マギア教授を中心にここに残っている皆で出来る限りの準備はしていたのです。」
マシューが珍しくきちんと説明をする。
「それに、ああなってしまっては、マギア教授は研究以外のことは考えられなくなってしまうので……。
だから先生は頑固者だって言ったでしょう?」
教授はすでに部屋の奥で何やら書物を読みながら、ブツブツと独り言をとなえていた。
「なるほど、確かに。」
マシューの言葉にヘンリクスも思わず笑みがこぼれる。
「お忙しいとは思いますが、明日以降は僕らの秘密会議に出席してくださいね。
決して今の学園長たちには見つからないように!」
「そうか。承知した。」
ヘンリクスは、力強い味方を得たような安心感を抱いた。
最初に抱いていたマシューへの嫉妬心が、いつの間にかどこかへ行ってしまったようだった。
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