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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
56.マシューとの遭遇
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その日の昼休み、ルドヴィクは早々にプリムラの元へ向かい、リーリウムとヘンリクス、ルヴァリと護衛騎士たちは研究棟へ向かった。
アイリはいつの間にか教室から姿を消しており、皆ホッとする反面、また何かをしかけてくるのではないかという不気味さも感じていた。
研究棟に着くと、ルヴァリとトムは、フレエシアの研究室へ行き、ヘンリクスたちはアイリの手紙を鑑定してもらうために、魔法・呪術学の教授の元を訊ねることになっていた。
「アイリ嬢の手紙には、どんな内容がかかれているのでしょう?」
リーリウムは今朝、アイリがヘンリクスに何をしたのか心配でならなかった。
しかし、ヘンリクスもディナルドも「何事もなかった」と話し、手紙を渡されたことを教えてくれた。
固く封をされたその手紙は、アイリらしいピンクの封筒でほのかに花の香りが漂っている。
「あまり読みたいとは思えないのだけど、一応チェックはしておかないとね。」
リーリウムが心配を募らすことのないよう、ヘンリクスが優しい声で返事をする。
その時、廊下の曲がり角から、急に人影が出てきた。
「おっと! リーリウム嬢ではありませんか。
毎日お会いできるなんて、うれしいなぁ。」
リーリウムに危うくぶつかりそうになった人物は、銀糸のような髪の毛を右手でかき上げながら爽やかに笑みを浮かべている。
(マシュー・ローレンス。白銀の君……。)
ヘンリクスは初めて会うマシューの美しさに驚くが、リーリウムに対するなれなれしさには嫌悪感を覚える。
リーリウムの手の甲に口づけをしようとしたマシューは、隣にヘンリクスがいることに気づき手を引っ込め、初めて対面した王太子に向かって膝をついて礼をした。
「ここは学園なのだから、そこまでかしこまらなくてもよい。」
「ありがとうございます、殿下。」
マシューは立ち上がると、ヘンリクスに向かって柔らかな微笑みを見せる。
「ヘンリクス様、こちらが歴史学者のマシュー・ローレンス男爵令息です。」
リーリウムは、ヘンリクスにマシューを紹介する。
マシューはにっこりとした笑みのまま、ヘンリクスにぺこりと会釈をした。
「どちらへ行かれるのですか?
よろしければ、案内をしますよ。」
マシューは、その妖精のような雰囲気に似合わず、気さくな様子で話しかけてくる。
「魔法・呪術学の教授のテオドール・マギア様のお部屋へ向かっているのです。」
「そうでしたか。
彼にはどのような用事で? やはり聞き取りですか?」
「いえ……」
リーリウムはアイリの手紙についてマシューに話すわけにもいかず、言いよどむ。
「私がもらった手紙に呪いなどがかかっていないか、念のため鑑定してもらうためだ。」
ヘンリクスがたいしたことではないといった様子で、マシューに返答する。
なんとなく、リーリウムとマシューが会話しているのが気に食わなかったのだ。
「なるほど。実は昨日話した先代の学園長の弟子というのが、マギア先生なのです。
なので、てっきりそのお話しをしに向かわれているのかと……。
しかし、呪いというのは気になりますね。
わたくしも一緒に付いていってもよろしいですか?」
魔法や呪術が衰えたこの時代に、もし呪いが発見されたとなれば、歴史的な出来事だ。
マシューの興味は、リーリウムではなくヘンリクスが受け取った手紙へと移っていた。
「たぶん、呪いも何もないと思うぞ。
だから、付いてこなくて良い。」
ヘンリクスが冷たく言い放つが、マシューは折れない。
「マギア先生はなかなかの頑固ものですよ。
わたくしを連れて行ったほうが、呪いの件も学園改革の件もスムーズになると思うのですが……。」
マシューはにこにことした顔でヘンリクスを見つめる。
呪いはともかく、学園改革は国王から承った仕事だ。
スムーズに進めることができるなら、それに越したことはないと考えが至ったようで、しぶしぶマシューが随行することを許可したのだった。
アイリはいつの間にか教室から姿を消しており、皆ホッとする反面、また何かをしかけてくるのではないかという不気味さも感じていた。
研究棟に着くと、ルヴァリとトムは、フレエシアの研究室へ行き、ヘンリクスたちはアイリの手紙を鑑定してもらうために、魔法・呪術学の教授の元を訊ねることになっていた。
「アイリ嬢の手紙には、どんな内容がかかれているのでしょう?」
リーリウムは今朝、アイリがヘンリクスに何をしたのか心配でならなかった。
しかし、ヘンリクスもディナルドも「何事もなかった」と話し、手紙を渡されたことを教えてくれた。
固く封をされたその手紙は、アイリらしいピンクの封筒でほのかに花の香りが漂っている。
「あまり読みたいとは思えないのだけど、一応チェックはしておかないとね。」
リーリウムが心配を募らすことのないよう、ヘンリクスが優しい声で返事をする。
その時、廊下の曲がり角から、急に人影が出てきた。
「おっと! リーリウム嬢ではありませんか。
毎日お会いできるなんて、うれしいなぁ。」
リーリウムに危うくぶつかりそうになった人物は、銀糸のような髪の毛を右手でかき上げながら爽やかに笑みを浮かべている。
(マシュー・ローレンス。白銀の君……。)
ヘンリクスは初めて会うマシューの美しさに驚くが、リーリウムに対するなれなれしさには嫌悪感を覚える。
リーリウムの手の甲に口づけをしようとしたマシューは、隣にヘンリクスがいることに気づき手を引っ込め、初めて対面した王太子に向かって膝をついて礼をした。
「ここは学園なのだから、そこまでかしこまらなくてもよい。」
「ありがとうございます、殿下。」
マシューは立ち上がると、ヘンリクスに向かって柔らかな微笑みを見せる。
「ヘンリクス様、こちらが歴史学者のマシュー・ローレンス男爵令息です。」
リーリウムは、ヘンリクスにマシューを紹介する。
マシューはにっこりとした笑みのまま、ヘンリクスにぺこりと会釈をした。
「どちらへ行かれるのですか?
よろしければ、案内をしますよ。」
マシューは、その妖精のような雰囲気に似合わず、気さくな様子で話しかけてくる。
「魔法・呪術学の教授のテオドール・マギア様のお部屋へ向かっているのです。」
「そうでしたか。
彼にはどのような用事で? やはり聞き取りですか?」
「いえ……」
リーリウムはアイリの手紙についてマシューに話すわけにもいかず、言いよどむ。
「私がもらった手紙に呪いなどがかかっていないか、念のため鑑定してもらうためだ。」
ヘンリクスがたいしたことではないといった様子で、マシューに返答する。
なんとなく、リーリウムとマシューが会話しているのが気に食わなかったのだ。
「なるほど。実は昨日話した先代の学園長の弟子というのが、マギア先生なのです。
なので、てっきりそのお話しをしに向かわれているのかと……。
しかし、呪いというのは気になりますね。
わたくしも一緒に付いていってもよろしいですか?」
魔法や呪術が衰えたこの時代に、もし呪いが発見されたとなれば、歴史的な出来事だ。
マシューの興味は、リーリウムではなくヘンリクスが受け取った手紙へと移っていた。
「たぶん、呪いも何もないと思うぞ。
だから、付いてこなくて良い。」
ヘンリクスが冷たく言い放つが、マシューは折れない。
「マギア先生はなかなかの頑固ものですよ。
わたくしを連れて行ったほうが、呪いの件も学園改革の件もスムーズになると思うのですが……。」
マシューはにこにことした顔でヘンリクスを見つめる。
呪いはともかく、学園改革は国王から承った仕事だ。
スムーズに進めることができるなら、それに越したことはないと考えが至ったようで、しぶしぶマシューが随行することを許可したのだった。
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