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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
29.朝の姉妹会議
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リーリウムが朝食時にあらためて作戦を訊ねると、コーヒーを味わいながら悪戯っぽく微笑むフレエシア。
そしてその言葉は、リーリウムが想像もしていない意表をついたものだった。
「リーリウムはいつも通り、淑女らしく過ごせばいい。
それで大丈夫だよ。」
つまり、リーリウム自身に“悪役令嬢”の要素が全くないのだから、
普段通りに過ごしていればいつの間にか“悪役”という印象が薄れていくのではないかという、
作戦といっていいものか分からないものだった。
「そうだね。
リーリウムは、本当に素晴らしい淑女に成長しているのだから、
自信を持って普段通りに過ごしていれば、おのずとどちらが正しいのか周囲も気が付くと思うよ。」
公爵もにこやかに賛同し、ヴィオラもその言葉を受けて静かにうなずいている。
リーリウムは、まだ不安が残るものの、その作戦に納得するしかなかった。
「ただし、アイリとは会話をしちゃダメだよ。
昨日みたいに親切心で言った言葉を悪意ある言葉に変換して吹聴されてしまうから。
アイリが絡んできたら、にっこり笑ってその場を離れてね。」
公爵は、もっとも大事な注意点を付け加えた。
「わかりました。」
今はまだ、アイリのことを考えるだけで胸がドキドキして苦しくなる。
考えてみれば、リーリウムは今まで生きてきた中で、ここまで誰かに悪意をぶつけられたことがなかった。
(きっと、これから王太子妃になり、王妃になれば、悪意をはじき返すくらいの強さが必要になる。
今回のことは、その練習だと思えばいいのだわ。)
不意打ちを食らって、入学式の日は心に傷がついたが、
ヘンリクスや家族、リーリウムの理解者たちによって、その傷はちょっとした擦り傷ぐらいに小さくなっていた。
「みんな学校へ行く前に、わたくしの部屋に集まってくださる?」
朝食を食べ終わったヴィオラが、妹たちに召集をかけて部屋へ戻っていった。
フレエシア、リーリウム、プリムラも慌てて朝食を終え、
制服を着て身支度を整えると、ヴィオラの部屋へと向かった。
「昨日の話合いで、アイリが“ヒロイン”ではないか、ということが疑念から確信へ変わったわ。
それから、わたくしはこうも思ったの。
“アイリはユニカ様と同じ転生者ではないか”と。」
ヴィオラが自らの疑念を口にすると、妹たちもうなずく。
「“悪役令嬢”っていう、異世界の人間らしい言葉を使っていたしね。」
フレエシアが言う。
「それにわたくしは、アイリが“この国の人が知らない”お菓子を作るというのも、気になります。
実物を見ないと何とも言えないのですが、王家には門外不出のユニカ様のオリジナルレシピのお菓子が何種類かありますの。
わたくしも、王妃様とのお茶会で何度かいただいたのですが、どれも見たことも聞いたこともないお菓子なのです。
アイリが作ったお菓子とユニカ様のレシピが同じものとは限りませんが、もしかするとどちらも異世界のものかもしれません。
それに、図書館にもユニカ様の時代のものと思われるレシピ本があって、不思議な料理やお菓子が掲載されていました。」
リーリウムも自らが気になった点を挙げる。
「なるほど。そこも検証してみるべきだね。」
フレエシアがメモに残す。
メモには、アイリの情報や対抗策がすでにびっしりと書かれていた。
「今日は殿下が公務で学園にはいらっしゃらない。
その分、私たちが動きやすくなるから、各々自分たちのやるべきことをやろう。」
フレエシアの言う通り、ヘンリクスは学園2日目にして公欠ということになる。
ヘンリクスは王太子としての仕事も多く、実際のところ1年の内半分ほどしか登校できない。
学園の問題に関しては、リーリウムも率先して動かないと、解決は難しそうだった。
「わたくしはアイリを避けつつ、本来の目的である学園の立て直しのために教授たちと会って話を聞こうかと思います。」
「待って、今日はルドヴィク様が狙われるかもしれないわ。
わたくしは学年が違うから、授業中は彼のそばにいられない……。
どうしたらいいかしら……?」
リーリウムが今日のやるべきことを話していると、プリムラが不安そうに話す。
昨日のアイリを見ていると、次に狙われるのは間違いなくルドヴィクたちなのだ。
その問題も想定していたフレエシアは、にやりと笑みを浮かべた。
そしてその言葉は、リーリウムが想像もしていない意表をついたものだった。
「リーリウムはいつも通り、淑女らしく過ごせばいい。
それで大丈夫だよ。」
つまり、リーリウム自身に“悪役令嬢”の要素が全くないのだから、
普段通りに過ごしていればいつの間にか“悪役”という印象が薄れていくのではないかという、
作戦といっていいものか分からないものだった。
「そうだね。
リーリウムは、本当に素晴らしい淑女に成長しているのだから、
自信を持って普段通りに過ごしていれば、おのずとどちらが正しいのか周囲も気が付くと思うよ。」
公爵もにこやかに賛同し、ヴィオラもその言葉を受けて静かにうなずいている。
リーリウムは、まだ不安が残るものの、その作戦に納得するしかなかった。
「ただし、アイリとは会話をしちゃダメだよ。
昨日みたいに親切心で言った言葉を悪意ある言葉に変換して吹聴されてしまうから。
アイリが絡んできたら、にっこり笑ってその場を離れてね。」
公爵は、もっとも大事な注意点を付け加えた。
「わかりました。」
今はまだ、アイリのことを考えるだけで胸がドキドキして苦しくなる。
考えてみれば、リーリウムは今まで生きてきた中で、ここまで誰かに悪意をぶつけられたことがなかった。
(きっと、これから王太子妃になり、王妃になれば、悪意をはじき返すくらいの強さが必要になる。
今回のことは、その練習だと思えばいいのだわ。)
不意打ちを食らって、入学式の日は心に傷がついたが、
ヘンリクスや家族、リーリウムの理解者たちによって、その傷はちょっとした擦り傷ぐらいに小さくなっていた。
「みんな学校へ行く前に、わたくしの部屋に集まってくださる?」
朝食を食べ終わったヴィオラが、妹たちに召集をかけて部屋へ戻っていった。
フレエシア、リーリウム、プリムラも慌てて朝食を終え、
制服を着て身支度を整えると、ヴィオラの部屋へと向かった。
「昨日の話合いで、アイリが“ヒロイン”ではないか、ということが疑念から確信へ変わったわ。
それから、わたくしはこうも思ったの。
“アイリはユニカ様と同じ転生者ではないか”と。」
ヴィオラが自らの疑念を口にすると、妹たちもうなずく。
「“悪役令嬢”っていう、異世界の人間らしい言葉を使っていたしね。」
フレエシアが言う。
「それにわたくしは、アイリが“この国の人が知らない”お菓子を作るというのも、気になります。
実物を見ないと何とも言えないのですが、王家には門外不出のユニカ様のオリジナルレシピのお菓子が何種類かありますの。
わたくしも、王妃様とのお茶会で何度かいただいたのですが、どれも見たことも聞いたこともないお菓子なのです。
アイリが作ったお菓子とユニカ様のレシピが同じものとは限りませんが、もしかするとどちらも異世界のものかもしれません。
それに、図書館にもユニカ様の時代のものと思われるレシピ本があって、不思議な料理やお菓子が掲載されていました。」
リーリウムも自らが気になった点を挙げる。
「なるほど。そこも検証してみるべきだね。」
フレエシアがメモに残す。
メモには、アイリの情報や対抗策がすでにびっしりと書かれていた。
「今日は殿下が公務で学園にはいらっしゃらない。
その分、私たちが動きやすくなるから、各々自分たちのやるべきことをやろう。」
フレエシアの言う通り、ヘンリクスは学園2日目にして公欠ということになる。
ヘンリクスは王太子としての仕事も多く、実際のところ1年の内半分ほどしか登校できない。
学園の問題に関しては、リーリウムも率先して動かないと、解決は難しそうだった。
「わたくしはアイリを避けつつ、本来の目的である学園の立て直しのために教授たちと会って話を聞こうかと思います。」
「待って、今日はルドヴィク様が狙われるかもしれないわ。
わたくしは学年が違うから、授業中は彼のそばにいられない……。
どうしたらいいかしら……?」
リーリウムが今日のやるべきことを話していると、プリムラが不安そうに話す。
昨日のアイリを見ていると、次に狙われるのは間違いなくルドヴィクたちなのだ。
その問題も想定していたフレエシアは、にやりと笑みを浮かべた。
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