悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

文字の大きさ
上 下
28 / 141
Lesson.3 学園生活の始まりが、悪役令嬢の始まり

28.みんなで対策会議3

しおりを挟む
「それで、学園で一番身分の高いヘンリクス様に近づこうとしたということ……?」

リーリウムはアイリにまんまと騙されたことが悔しくて仕方がなかった。
「何も知らないかわいそうな貴族令嬢」と勝手に同情して、親切心まで抱いていた自分がバカみたいだ。

「うん。そうだと思う。
だけど、これからはやられっぱなしにはならないよ。
どうして私がこんなにアイリとジョンについて詳しいと思う?」

「……あなた、ジョンを引き入れたわね。」

「ふふ、さすがお姉さま。
今日、結局アイリを殿下から引き離すことができたのは、ジョンだけだった。

私たちが何か言えば『いじわるだ』と言われるし、ディナルドが行動すると『リーリウムにやらされていてかわいそう』って言われるし、多分アンドレアス様でも同じだと思う。

だから、話し合いにジョンを呼び出したんだよ。
ジョンは憔悴しきっていて、かわいそうなくらいだった。
アイリに人生を狂わされた一番の被害者だしね。
ジョンは、アイリのこと、自分のことをいろいろと話してくれたよ。
話しているうちに冷静になれたみたいで、自分から協力を買って出てくれた。」

「そう、やはり元々は賢い方なのね。」

ヴィオラが満足げにしていると、ディナルドが口を開く。

「最初、俺はジョンを責めたんです。
『お前の女ならちゃんと管理しろ!』って。
しかし、ジョンはこう言った『彼女はそもそも僕の恋人ではありませんでした。』って。」

「ジョンは今日まで、アイリを恋人だと思っていた。
だって、向こうの学院ではいつも一緒だったし、アイリはジョンへの愛情表現を欠かさなかったみたいだしね。
だけど、ジョンは入学式前にはアイリに不信感を抱いていた。
なぜなら、今朝、アイリはこう言ったそうだよ。
『私が殿下と結婚するために、協力して。
“悪役令嬢”のリーリウムを排除してほしい。』って。」

フレエシアがそう言い終わった時、リーリウムはぞわぞわと鳥肌が立った。

(どうして、アイリが“悪役令嬢”という言葉を知っているの?)

ふとヴィオラを見ると、リーリウムと目が合ったとたん、小さくうなずく。
疑念が確信へと変わっていく。

「悪役……なんだって?
うちの娘が悪役なわけないじゃないか!」

公爵が怒りくるっている。

「そうだ、こんなに純真で心優しいリーリウムが悪役だなんて、あの女!」

普段は感情を表に出さないヘンリクスまで怒り出した。
リーリウムは、普段温厚な父とヘンリクスがここまで怒りを露わにしていることに驚いた。

「殿下もお父さまも、怒りを鎮めてください。
わたくしのことを分かってくださっている方がここに集まってくれています。
それだけで、わたくしは大丈夫なのです。」

ヘンリクスと公爵の手を両方の手で握ると、リーリウムは微笑んで見せた。
リーリウムのやわらかな笑顔に、二人は怒りの矛を収める。
気丈なリーリウムに、フレエシアは言葉を続ける。

「そこで、ひとまずジョンには、アイリに従っているふりをする演技をしてもらうことになった。
まあ、いわゆるスパイだね。
それで、アイリが具体的にどういう作戦を練ってくるのか探ってみようと思う。
賢いアイリが、今日みたいな当たって砕けろみたいな作戦で終わるわけないし。
まあ、今日はたぶんリーリウムの評価を下げることが目的で、それは達成されてしまった。
明日から私たちは、下がってしまったリーリウムの評価をもとに戻すための行動を起こさなくてはいけないってことだね。」

「下がった評価を上げるのは、並大抵のことではできませんわよ?」

ヴィオラが心配する。

「大丈夫ですよ、お姉さま。
ちゃんと考えてますって。」

自信満々なフレエシア。

「なんだか心配だわ。
アンドレアス様、フレエシアが無茶をしないように見張っていてくださいましね。」

「はい。お任せくださいヴィオラ。」

珍しく頼ってもらえたことに、喜びを隠し切れないアンドレアスは、
思わずヴィオラの手の甲に恭しく口づけをする。

「それで、わたくしはどうすれば良いのですか?」

フレエシアに尋ねるリーリウム。

「そうだね。その話は明日の朝食のときに。
今日はもう遅いし、ここまでにした方が良いかと思う。」

時計を見ると、もういつもの就寝時間はとっくに過ぎている。
フレエシアの言葉で、その日の作戦会議はお開きとなったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...