上 下
23 / 141
Lesson.3 学園生活の始まりが、悪役令嬢の始まり

23.魔法石の講義

しおりを挟む
フレエシアの研究室は、古い魔道具で散らかっていた。
そのほとんどが壊れていて、研究のためにフレエシアによって、さらに細かく解体されている。
そして、それらの魔道具から取り出された、光を失った魔法石も大きな箱にたっぷりとため込まれていた。
発掘したての魔法石は淡く光っているが、魔道具を動かし続けた魔法石は力を失うと同時に光らなくなるのだ。

初めから整理整頓をしながら片づけることを諦めていたフレエシアは、研究室の隅の方へ物を寄せて、リーリウムと自分が座る場所だけ確保する。
小さくて簡易的な応接セットを磨き上げ、お茶の用意をし終わると、ちょうどドアをノックする音が聞こえた。

「いらっしゃい! リーリウム!」

「お姉さま、お邪魔いたします……」

ドアの前には少し困った顔のリーリウムが立っていた。
周りを見渡すと、リーリウムの後ろには教授陣や生徒たちがずらりと揃っている。
未来の王太子妃であるリーリウムに何とか取り入ろうとする者や、野次馬が付いてきてしまったらしい。

フレエシアはリーリウムをドアの中に入れると、

「みなさん、あと五分で予鈴ですよ!」

そういって研究室のドアをやや乱暴に閉めた。
フレエシアの一喝とドアのバタンッという音で我に返った人々は、蜘蛛の子を散らすように、それぞれの教室へ消えて行った。

「大変だったね。」

フレエシアはリーリウムから手土産のクッキーをテーブルに広げると、用意していた紅茶を出して、リーリウムを労った。

「はい。入学後も毎日あのような感じなのでしょうか……?
わたくしであの騒ぎでしたら、ヘンリクス様たちがいらっしゃった時どうなってしまうのか心配です。
ところで、お姉さまは授業にいかなくても良いのですか?」

「え? ああ、大丈夫大丈夫。
授業内容は把握しているし、研究者特権もあるしね。
たぶん、リーリウムたちもこの学園の授業は簡単すぎると感じると思うよ。」

フレエシアは研究者でありながらも学園の生徒であったが、もう授業にはほとんど出ていない。
研究を優先させるため、簡単な課題を提出することで免除されている。
ときどき、気分転換に授業に出ては、教授たちに難解な質問をして去っていくので、むしろ授業に出て欲しくないと思われているほどだった。

「そうなのですか?
わたくし、知らないことを勉強できると思って楽しみにしておりましたのに。」

「ふふ、まあ、学園は勉強だけじゃないしね。
楽しいことは間違いないよ。
それで、今日はどんなお話をしにきたの?」

わざわざ研究室に出向くのだから、屋敷では話しづらいことなのだろう。
フレエシアは、リーリウムの話に興味津々だった。

「実は、魔道具のことなのです。」

リーリウムはユニカ高等学院の学院長のこと、そしてそこで聞いた話しをフレエシアに伝えた。
そして、学院長から託された二種類の魔法石をフレエシアに渡す。

「こちらの光が強い魔法石が最後の魔法使いである学院長様のおじい様の魔力が込められたもので、
光が弱い魔法石が学院長様の魔力が込められたものですわ。」

「最後の魔法使いの魔力が込められた魔法石なんて、はじめて見た!
しかも、今でもこの国に魔力を扱える人がいるだなんて……。」

「ええ、わたくしもびっくりしました。
でも、学院長様はこのことを伏せてほしいとご希望しています。
危険が伴うからと。」

「そうか。それは懸命な判断だと思うよ。
でもお話を聞きたいから、今度お会いしてみるよ。
魔道具の研究が進むかもしれない!
リーリウム、ありがとう。」

「お姉さまのお役に立つことができて、わたくしもとってもうれしいです!」

リーリウムの笑顔に満足したフレエシアは、リーリウムを相手に魔法石の講義を始めた。

「ほら、魔法石を見比べてごらん。
それぞれ少し色が違うでしょ?」

よく見ると、最後の魔法使いの魔法石は青いが、学院長の魔法石はそれよりも少し緑がかっている。

「これはね、最後の魔法使い様が水属性の魔力をお持ちで、
学院長様が風属性の魔力をお持ちだってこと。
もっと緑が濃かったら植物属性になる。
魔法石はかつて、自分の魔力の属性を測定するためにも使われていたそうだよ。」

リーリウムは、実はそのことを秘密の図書館の蔵書で読んだことがあったが、
言われるまで2つの魔法石のその微妙な色の違いが分からなかった。

「繊細なのですね……」

リーリウムが二種類の魔法石をまじまじと見比べていると、フレエシアは自分の机からさらに二つの魔法石を取り出してきた。

「私が所持している魔力が込められた魔法石は、この二つだけ。
ほら、これが植物属性だよ。緑が濃いでしょ?
で、こっちが謎属性なんだよねー。
どちらもお母さまにいただいたんだけど、こっちはお母さまも属性を知らないそうなんだ。」

一つは深い、森の木々のような緑色の光を放っている。
そしてもう一つは、真っ白だった。
だが、発掘したての魔法石が発している淡い白とは違い、眩いばかりの強い光を放っていた。

「お姉さま、わたくし、この魔法石の属性を図書館の本で読んだことがありますわ。
これは、二つ以上の属性を同時に注いだ魔法石だったと思います。」

「え!?そうなの?
人はそれぞれ一つずつしか属性を持てないって聞いたんだけど。
二人以上で同時に違う魔力を注ぎ込んだのかな?」

フレエシアが思案しはじめる。

「詳しいことも書かれていたと思いますが、今度写本してきましょうか?」

「お願いできる? いつもありがとうー。」

フレエシアが図書館の本の写本を頼むのは、実はこれが初めてではなかった。
時間が許す限りリーリウムは魔道具関連の書籍を見つけては写本をしていた。
もちろん、公爵の許しも得ている。

「リーリウムと話すと、いつも新しい発見ができてうれしいよ。」

「わたくしが学園に入学すれば、もっとお姉さまとお話できますね。
不安もありますが、楽しみなことの方が多いです。」

「そうそう、その不安のもとになっている例の女の子については、ディナルドにも話しておいたから安心して。
きっと殿下のことも守ってくれるよ。」

「ありがとうございます。
今日、ヴィオラお姉さまもアンドレアス様にお話しをするとおっしゃっていたわ。」

「未来の近衛騎士団長と未来の宰相が付いているんだから、きっと大丈夫だよ。」

フレエシアの言葉に、リーリウムは笑顔でうなずいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...