上 下
14 / 141
Lesson.3 学園生活の始まりが、悪役令嬢の始まり

14.夢見る学園生活

しおりを挟む
リーリウムとヘンリクスの仲はもはや盤石なものといっても過言ではなかった。
その後、約束通りミラーク湖への野鳥観察にも行き、二人の仲はますます深まった。
毎日リーリウムは王宮へ通い、王太子妃教育が終わったあとにはヘンリクスと庭園や王室図書室でデートを重ねている。
時折、手をつないで庭園を散策している姿をメイドや貴族たちが見かけ、
初々しいロイヤルカップルのあまりのかわいらしさに皆が二人に夢中になるほどだった。

リーリウムはヘンリクスとの心の距離が近づいた日の夜、詳細は秘密にしながらも、姉妹たちに「心の距離説」は本当だったことを報告した。
親身になって話を聞いてくれたことにお礼を言い、ユニカ様の日記は荒唐無稽に感じるけれど、今後も参考にすべきではないかと提案したのである。
そのため、四姉妹の夜の秘密のお茶会はその後もほぼ毎晩開かれていた。

「もうリーリウムと殿下は大丈夫そうじゃない?
学園でも二人の“仲睦まじさ”の話題で持ちきりだよ。」

姉妹の中でただ一人学園に通うフレエシアが、その日のお茶会で開口一番にそう言った。


この王国唯一の貴族子女が通う学園「エレンシア貴族学園」。
そこに、フレエシアの研究室があった。
学園には、13歳から18歳までの男女が通い、優秀であれば在学中でもフレエシアのように研究室が与えられる。

貴族子女の全員が通っているわけでなく、ほとんどが貴族の次男や三男などで、
女性は男爵や子爵などの下位貴族の家の者が多かった。
王都に屋敷を持たず、遠く離れた領地から単身で出てくる生徒も多いため、寮も完備されている。
男性は武官や文官への道を、女性は高位貴族や王室の侍女を目指して勉学に励む。

時々、フレエシアのように勉強好きな変わった高位貴族が入学してくるが、かなり稀だった。
貴族家の跡取りである長男は学園へ通わず、次期当主としての教育を各家門で施されるのが一般的で、学園へ通う必要性も時間もない。
そのため、公爵家の長女のヴィオラも学園に通うことなく、王都で父に、時折領地に赴き母にも当主としての教育を受けていた。
しかし、ヴィオラの婚約者である伯爵家の三男アンドレアスは、婚約した当時すでに学園へ通い始めていたため、
現在も通学しながら、時々公爵と共に行動するなどして、次期公爵となるために二足の草鞋を履いている。

また王族も同じで、王太子は学園へ入学しないが、もし第二王子がいれば学園へ通うのが通例だった。
そこで政治や外交、経済、さらには剣術なども学び、将来王弟として活動するための知識や人材の発掘を行うのである。
現在の王太子であるヘンリクスは、幼少期から王宮内で将来の国王として必要な帝王学を学び、その婚約者であるリーリウムも王太子妃教育を受けているので、二人とも13歳を過ぎてはいるが学園へは通ってはいない。

高位貴族の女性が学園へ通わない理由は、リーリウムのように幼少期から婚約者が決まっていることが多いからである。
そういった女性は、やはり各家門で淑女教育が行われている。
そのため、おそらくプリムラも学園へは入学しないと、誰もが思っていた。

「ねえ、フレエシアお姉さま、学園の入学試験はわたくしには難しいかしら?」

しかし、ふとプリムラがそんなことを言い出した。

「難しくはないだろうけど、ルドヴィク殿下との婚約も間近なのに学園へは通わないでしょ?」

プリムラは三人の姉と見比べると劣りはするものの、頭が悪いわけではない。
ルドヴィクの国「レオポリス王国」の言葉も流暢に話すことができるし、十分に賢かった。

「それが、ルドヴィク様がルヴァリ殿下と共に留学してくるそうなの。」

ルヴァリはルドヴィクの双子の弟で、快活で面倒見の良い兄とは違い、心優しいのだが大人しく気弱な性格だった。
レオポリス王国には貴族のための学園がないため、友好国であるこちらの国へ王弟教育を受けにくるのだ。

「ルドヴィク様は一年だけの短期間留学らしいのだけど、ルヴァリ殿下を一人で留学させるのが心配で付いてくるんですって。
だから、わたくしも一年間だけ学園へ通いたいなって思って……。」

プリムラは、最近庶民たちの間で流行している恋愛小説に多大なる影響を受けていた。
その小説が、まさに学園を舞台にした青春ものなのである。

「愛する人と一日中一緒にいられるなんて、学園恋愛って素敵!」

誰に言うわけでもなく、目を輝かせながら語りだすプリムラ。

「まずはお父さまに相談してみてはどうかしら?」

プリムラらしい、学園へ通う不純すぎる動機に微笑ましさを感じつつも、リーリウムが提案してみる。
娘たちの希望はなるべく叶えるが信条の父親のことだから、
公爵家の威厳など考えずに、入学の許可を出してしまうことは目に見えていた。

(一年くらいなら、問題はなさそうよね。)

そんなことを考えていたリーリウムだったが、その一年が波乱に満ちた一年になり、さらに自分も巻き込まれてしまうとは、この時は予想もしていなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...