13 / 141
Lesson.2 王子と親密になっておこう
13.庭園での二人
しおりを挟む
庭園といっても、王宮には庭園と呼ばれる場所が複数ある。
今日はバラの庭園ではなく、程よい木陰ができるように剪定された木々が立ち並び、野の花々が植えられた広大な野原のような庭園へ向かった。
何代か前の王妃様が、自分の田舎を模して造った庭園だそうだ。
そこには大きな池もあり、天気が良ければ舟遊びも楽しめる。
今日、リーリウムがその庭園へ向かったのはほとんど勘によるものだった。
ヘンリクスがこの時間に散歩をしているのは知っていたが、どの庭園へ行くかはヘンリクスの気分によって変わるからだ。
ドレスの裾をふわふわと翻しながら、あてもなく庭園を歩くリーリウム。
緑の葉っぱが生い茂り、ピンクや黄色、青色の花々が咲き誇る庭園で、スカートがふわりと広がる真っ白なドレスを着て、淡いブルーの花飾りが付いた優美なデザインの帽子をかぶったリーリウムは、まるでキャンバスに描かれた絵画のようだった。
ヘンリクスは庭園で太陽を避けるように木陰で休息をしているとき、そんな美しいリーリウムを見つけた。
すぐに声をかけようかと思ったが、何かを探すように歩みを進めるかわいらしい婚約者をもっと見つめていたい欲求にかられ、そのまま木陰にそっと身をひそめていたのだった。
しかし、リーリウムがヘンリクスのいる木のそばを通り過ぎようとしたので、ヘンリクスはあわてて彼女を呼び止めた。
「リーリウム!」
びっくりしながらも、声のする方へ振り向くリーリウム。
「ヘンリクス様!」
うれしそうな笑顔で近づいてくるリーリウムに、ヘンリクスは「なにを探していたの?」という言葉を飲み込んだ。
リーリウムの笑顔がすべてを物語っていたから。
彼女がなにを探していたか気づいた時、ヘンリクスは今まで生きてきた中で最高の喜びを覚えた。
ヘンリクスの前に立ったリーリウムは、スカートをつまんで優雅に挨拶をする。
しかし、その表情はいつもの淑女としてのものではなかった。
二人はそのまま木陰にハンカチを敷いて座り込むと、しばらく無言で少し先にある池をぼんやりと見つめていた。
「今日は名前で呼んでくれるんだね?」
昔はずっと名前で呼び合っていた。
婚約が濃厚になってきたころから、リーリウムはヘンリクスを殿下と呼ぶようになっていったのだ。
「お嫌でしたか?」
心配そうに尋ねるリーリウムを優しく見つめながら、首を左右に振るヘンリクス。
「全然。とてもうれしいよ。」
ほっとしたリーリウムは、恥ずかしそうにヘンリクスへ小さく笑みを返す。
また心地よい沈黙の時間が流れる。
池を見ていたリーリウムが「あ」と声を出し、池のほとりに生えている木を指さしながら小さな声でヘンリクスに伝える。
「ヘンリクス様、あそこにカワセミがいます。」
「本当だ。珍しい。」
池の水面のすぐ上にある枝に、小さくて艶やかな青い鳥が止まっている。
まっすぐに前を見据える姿が神秘的で、二人は目を離せなかった。
しかし、しばらくするとカワセミはどこかへ飛んで行ってしまった。
「美しくて、かわいらしいね。」
ヘンリクスは、隣にいる愛おしい婚約者の横顔を見つめながら話しかけ、自分の右手をリーリウムの左手にそっと重ねあわせる。
「本当に。図鑑では見たことがありましたが、実物を見るのは初めてです。」
ヘンリクスの感想がカワセミではなく、自分へ向けられたものだということに気づかないリーリウムは、初めて見たカワセミの姿に感動を隠し切れなかった。
「リーリウムは、鳥が好きなの?」
「はい。インコやオウムなども好きなのですが、鳥かごに入っていない、野鳥たちが特に好きです。
なかなか実物を見る機会はないのですが……。」
自分の手にヘンリクスの手が重ねられていることに気づいたリーリウムが、恥ずかしそうに答えた。
「そうか。それなら、今度王都のはずれにあるミラーク湖に行かない?
渡り鳥たちの休憩場所になっているんだ。
ちょうど今の時期には、いろいろな鳥が集まっているよ。」
「素敵ですね。
ぜひ、お供させてください。」
うれしそうに返事をするリーリウムに、ヘンリクスは胸のつかえがとれたような気持ちになる。
「長い付き合いなのに野鳥が好きなことを知らなかった。
もっと、リーリウムのことを知りたい気持ちになったよ。」
「わ、わたくしもヘンリクス様のことをもっと知りたいです。」
顔を赤らめながらリーリウムは、精一杯ヘンリクスに伝えたかったことを口に出した。
痛いくらいの鼓動を感じながらヘンリクスの表情を見ると、
小さな頃と変わらず愛おしげにリーリウムを見つめる彼の瞳があった。
リーリウムとヘンリクスは、お互いの瞳の輝きから昨日よりも「心の距離」が近づいたことを実感していた。
今日はバラの庭園ではなく、程よい木陰ができるように剪定された木々が立ち並び、野の花々が植えられた広大な野原のような庭園へ向かった。
何代か前の王妃様が、自分の田舎を模して造った庭園だそうだ。
そこには大きな池もあり、天気が良ければ舟遊びも楽しめる。
今日、リーリウムがその庭園へ向かったのはほとんど勘によるものだった。
ヘンリクスがこの時間に散歩をしているのは知っていたが、どの庭園へ行くかはヘンリクスの気分によって変わるからだ。
ドレスの裾をふわふわと翻しながら、あてもなく庭園を歩くリーリウム。
緑の葉っぱが生い茂り、ピンクや黄色、青色の花々が咲き誇る庭園で、スカートがふわりと広がる真っ白なドレスを着て、淡いブルーの花飾りが付いた優美なデザインの帽子をかぶったリーリウムは、まるでキャンバスに描かれた絵画のようだった。
ヘンリクスは庭園で太陽を避けるように木陰で休息をしているとき、そんな美しいリーリウムを見つけた。
すぐに声をかけようかと思ったが、何かを探すように歩みを進めるかわいらしい婚約者をもっと見つめていたい欲求にかられ、そのまま木陰にそっと身をひそめていたのだった。
しかし、リーリウムがヘンリクスのいる木のそばを通り過ぎようとしたので、ヘンリクスはあわてて彼女を呼び止めた。
「リーリウム!」
びっくりしながらも、声のする方へ振り向くリーリウム。
「ヘンリクス様!」
うれしそうな笑顔で近づいてくるリーリウムに、ヘンリクスは「なにを探していたの?」という言葉を飲み込んだ。
リーリウムの笑顔がすべてを物語っていたから。
彼女がなにを探していたか気づいた時、ヘンリクスは今まで生きてきた中で最高の喜びを覚えた。
ヘンリクスの前に立ったリーリウムは、スカートをつまんで優雅に挨拶をする。
しかし、その表情はいつもの淑女としてのものではなかった。
二人はそのまま木陰にハンカチを敷いて座り込むと、しばらく無言で少し先にある池をぼんやりと見つめていた。
「今日は名前で呼んでくれるんだね?」
昔はずっと名前で呼び合っていた。
婚約が濃厚になってきたころから、リーリウムはヘンリクスを殿下と呼ぶようになっていったのだ。
「お嫌でしたか?」
心配そうに尋ねるリーリウムを優しく見つめながら、首を左右に振るヘンリクス。
「全然。とてもうれしいよ。」
ほっとしたリーリウムは、恥ずかしそうにヘンリクスへ小さく笑みを返す。
また心地よい沈黙の時間が流れる。
池を見ていたリーリウムが「あ」と声を出し、池のほとりに生えている木を指さしながら小さな声でヘンリクスに伝える。
「ヘンリクス様、あそこにカワセミがいます。」
「本当だ。珍しい。」
池の水面のすぐ上にある枝に、小さくて艶やかな青い鳥が止まっている。
まっすぐに前を見据える姿が神秘的で、二人は目を離せなかった。
しかし、しばらくするとカワセミはどこかへ飛んで行ってしまった。
「美しくて、かわいらしいね。」
ヘンリクスは、隣にいる愛おしい婚約者の横顔を見つめながら話しかけ、自分の右手をリーリウムの左手にそっと重ねあわせる。
「本当に。図鑑では見たことがありましたが、実物を見るのは初めてです。」
ヘンリクスの感想がカワセミではなく、自分へ向けられたものだということに気づかないリーリウムは、初めて見たカワセミの姿に感動を隠し切れなかった。
「リーリウムは、鳥が好きなの?」
「はい。インコやオウムなども好きなのですが、鳥かごに入っていない、野鳥たちが特に好きです。
なかなか実物を見る機会はないのですが……。」
自分の手にヘンリクスの手が重ねられていることに気づいたリーリウムが、恥ずかしそうに答えた。
「そうか。それなら、今度王都のはずれにあるミラーク湖に行かない?
渡り鳥たちの休憩場所になっているんだ。
ちょうど今の時期には、いろいろな鳥が集まっているよ。」
「素敵ですね。
ぜひ、お供させてください。」
うれしそうに返事をするリーリウムに、ヘンリクスは胸のつかえがとれたような気持ちになる。
「長い付き合いなのに野鳥が好きなことを知らなかった。
もっと、リーリウムのことを知りたい気持ちになったよ。」
「わ、わたくしもヘンリクス様のことをもっと知りたいです。」
顔を赤らめながらリーリウムは、精一杯ヘンリクスに伝えたかったことを口に出した。
痛いくらいの鼓動を感じながらヘンリクスの表情を見ると、
小さな頃と変わらず愛おしげにリーリウムを見つめる彼の瞳があった。
リーリウムとヘンリクスは、お互いの瞳の輝きから昨日よりも「心の距離」が近づいたことを実感していた。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる