悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

文字の大きさ
上 下
7 / 141
Lesson.1 「悪役令嬢」という存在

7.伝説の“悪役令嬢”の破滅回避

しおりを挟む
リーリウムの話を聞きながら、プリムラはすっかり涙が引っ込んだ。
びっくりもしたが、ワクワクする気持ちが抑えきれなかった。

「ユニカ様の日記! しかもユニカ様は別の世界の女性だったなんて!
物語みたいなお話で、ワクワクしますね!
王子様との恋物語なんかも書いてあるのかしら?」

隣国の王太子と相思相愛のプリムラにとっては、ユニカ様と当時の王太子の恋物語は気になる内容だろう。

「もしかしたら書いてあるかもね。
続きが気になるのだけど、お姉さま読み進めても良いですよね?」

フレエシアの言葉に軽くうなずくと、ヴィオラは日記帳のページを開いた。

「リーリウム、読んでくださる?」

音読をする元気のないヴィオラは再びリーリウムに日記帳を手渡し、ソファに腰を落ち着け、隣にプリムラを座らせた。


『自分がこちらの世界に転生したことは、すぐに受け入れることができました。
それは、この世界のことを知っていたから。
この世界は、元の世界で読んでいた“小説”の舞台だったのです。
唯一受け入れがたかったのは、自分が“悪役令嬢”として転生していたことです。

小説の中の“ユニカ”は王太子殿下の婚約者で、婚約破棄された後、物語の最後には処刑されます。
そうなるのも当然で、王太子殿下は別の女性“ヒロイン”と恋に落ちるのですが、
傲慢でわがままな公爵令嬢“ユニカ”は“ヒロイン”にひどい嫌がらせをし続けていたのです。

そのことに気が付いた時、すでに王太子殿下の婚約者だった私は、とにかく“悪役令嬢”にならないように心がけました。

婚約破棄を狙っておよそ公爵令嬢らしからぬ行動をとってみたり、
“ヒロイン”とは顔を合わせないようにしてみたり……
そうしていると不思議なことに、私自身の人となりを分かってくださった殿下との関係はより深くなり、
また、“ヒロイン”として登場したマリアとは、生涯を通した親友となれました。

その後、マリアが聖女となりこの国の宗教の礎を築き上げたことは、
きっとあなた方、後世の人々にも伝わっていることでしょう。』


もはや伝説ともされている、善行の塊のようなユニカ様が“悪役令嬢”と呼ばれる存在だったこと。
また、“聖女・マリア”という大物の名前が出てきたことに、ひどく疲労感を感じる3人。

聖女・マリアと言えば、現在この国の国教となっているテルース教の開祖だ。
元々は当時の国教であったカエルム教の聖女として現れたのだが、
当時すでにカエルム教の中枢は腐敗しきっており、
人々の助けになれないことを嘆いたマリアは、数人の司祭や聖騎士を引き連れてクーデターを起こしたのだ。
この時、力を貸したのが当時の王太子アレクサンデルと王太子妃のユニカだった。

「そういえば、今日読んだ本に聖女は“異世界から召喚された乙女”だと書かれていましたが、
マリア様はユニカ様と同じ世界からいらっしゃったのでしょうか…?」

リーリウムは今日たまたま図書館で読んだ本『カエルム教の聖女』の中で、“聖女召喚の儀”について詳しく記されていたことを思い出した。

「ユニカ様も異世界から来た“聖女”ということかしら?」

ヴィオラのつぶやきのような問いかけにリーリウムが首を振る。

「いいえ、聖女召喚は異世界から直接女性を呼び出す儀式です。
ユニカ様は異世界でお亡くなりになった後、こちらに生まれてきているので“転生”ということになるかと思います。」

テルース教には“輪廻転生”という考え方がある。
死んだ者は新しい生命となり、再び何らかの形で生まれ変わる。
人々は実際に生まれ変わったことを実感しているわけではないが、ごくまれに前世の記憶を断片的に有している者もおり、“輪廻転生”は本当だと信じられていた。
人々は今世で善なる行いをすれば次の人生でも幸せが訪れ、悪なる行いをすれば次は人には生まれ変われないと考えているのだ。

しかし、異世界からの“転生”はリーリウムたちも聞いたことがなく、それだけユニカが特別な存在だということを実感させられた。

「本によれば、聖女召喚をする際には、何人もの修道士の魔力を吸い尽くすほどのエネルギーが必要で、
儀式を施した修道士たちは皆死んでしまったり廃人になったりしていたそうですわ。」

「そんな恐ろしいことが行われていたなんて……。
魔力を悪用する人間がいたから、魔法は廃れてしまったのだろうか……。」

フレエシアは、魔法の力を復活させて人々の暮らしをよりよくしたいと常日頃から考えながら研究をしている。
しかし、魔法は自分の想像以上に強力で、そして危険も伴うのだと痛切に感じたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...