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Lesson.1 「悪役令嬢」という存在
7.伝説の“悪役令嬢”の破滅回避
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リーリウムの話を聞きながら、プリムラはすっかり涙が引っ込んだ。
びっくりもしたが、ワクワクする気持ちが抑えきれなかった。
「ユニカ様の日記! しかもユニカ様は別の世界の女性だったなんて!
物語みたいなお話で、ワクワクしますね!
王子様との恋物語なんかも書いてあるのかしら?」
隣国の王太子と相思相愛のプリムラにとっては、ユニカ様と当時の王太子の恋物語は気になる内容だろう。
「もしかしたら書いてあるかもね。
続きが気になるのだけど、お姉さま読み進めても良いですよね?」
フレエシアの言葉に軽くうなずくと、ヴィオラは日記帳のページを開いた。
「リーリウム、読んでくださる?」
音読をする元気のないヴィオラは再びリーリウムに日記帳を手渡し、ソファに腰を落ち着け、隣にプリムラを座らせた。
『自分がこちらの世界に転生したことは、すぐに受け入れることができました。
それは、この世界のことを知っていたから。
この世界は、元の世界で読んでいた“小説”の舞台だったのです。
唯一受け入れがたかったのは、自分が“悪役令嬢”として転生していたことです。
小説の中の“ユニカ”は王太子殿下の婚約者で、婚約破棄された後、物語の最後には処刑されます。
そうなるのも当然で、王太子殿下は別の女性“ヒロイン”と恋に落ちるのですが、
傲慢でわがままな公爵令嬢“ユニカ”は“ヒロイン”にひどい嫌がらせをし続けていたのです。
そのことに気が付いた時、すでに王太子殿下の婚約者だった私は、とにかく“悪役令嬢”にならないように心がけました。
婚約破棄を狙っておよそ公爵令嬢らしからぬ行動をとってみたり、
“ヒロイン”とは顔を合わせないようにしてみたり……
そうしていると不思議なことに、私自身の人となりを分かってくださった殿下との関係はより深くなり、
また、“ヒロイン”として登場したマリアとは、生涯を通した親友となれました。
その後、マリアが聖女となりこの国の宗教の礎を築き上げたことは、
きっとあなた方、後世の人々にも伝わっていることでしょう。』
もはや伝説ともされている、善行の塊のようなユニカ様が“悪役令嬢”と呼ばれる存在だったこと。
また、“聖女・マリア”という大物の名前が出てきたことに、ひどく疲労感を感じる3人。
聖女・マリアと言えば、現在この国の国教となっているテルース教の開祖だ。
元々は当時の国教であったカエルム教の聖女として現れたのだが、
当時すでにカエルム教の中枢は腐敗しきっており、
人々の助けになれないことを嘆いたマリアは、数人の司祭や聖騎士を引き連れてクーデターを起こしたのだ。
この時、力を貸したのが当時の王太子アレクサンデルと王太子妃のユニカだった。
「そういえば、今日読んだ本に聖女は“異世界から召喚された乙女”だと書かれていましたが、
マリア様はユニカ様と同じ世界からいらっしゃったのでしょうか…?」
リーリウムは今日たまたま図書館で読んだ本『カエルム教の聖女』の中で、“聖女召喚の儀”について詳しく記されていたことを思い出した。
「ユニカ様も異世界から来た“聖女”ということかしら?」
ヴィオラのつぶやきのような問いかけにリーリウムが首を振る。
「いいえ、聖女召喚は異世界から直接女性を呼び出す儀式です。
ユニカ様は異世界でお亡くなりになった後、こちらに生まれてきているので“転生”ということになるかと思います。」
テルース教には“輪廻転生”という考え方がある。
死んだ者は新しい生命となり、再び何らかの形で生まれ変わる。
人々は実際に生まれ変わったことを実感しているわけではないが、ごくまれに前世の記憶を断片的に有している者もおり、“輪廻転生”は本当だと信じられていた。
人々は今世で善なる行いをすれば次の人生でも幸せが訪れ、悪なる行いをすれば次は人には生まれ変われないと考えているのだ。
しかし、異世界からの“転生”はリーリウムたちも聞いたことがなく、それだけユニカが特別な存在だということを実感させられた。
「本によれば、聖女召喚をする際には、何人もの修道士の魔力を吸い尽くすほどのエネルギーが必要で、
儀式を施した修道士たちは皆死んでしまったり廃人になったりしていたそうですわ。」
「そんな恐ろしいことが行われていたなんて……。
魔力を悪用する人間がいたから、魔法は廃れてしまったのだろうか……。」
フレエシアは、魔法の力を復活させて人々の暮らしをよりよくしたいと常日頃から考えながら研究をしている。
しかし、魔法は自分の想像以上に強力で、そして危険も伴うのだと痛切に感じたのだった。
びっくりもしたが、ワクワクする気持ちが抑えきれなかった。
「ユニカ様の日記! しかもユニカ様は別の世界の女性だったなんて!
物語みたいなお話で、ワクワクしますね!
王子様との恋物語なんかも書いてあるのかしら?」
隣国の王太子と相思相愛のプリムラにとっては、ユニカ様と当時の王太子の恋物語は気になる内容だろう。
「もしかしたら書いてあるかもね。
続きが気になるのだけど、お姉さま読み進めても良いですよね?」
フレエシアの言葉に軽くうなずくと、ヴィオラは日記帳のページを開いた。
「リーリウム、読んでくださる?」
音読をする元気のないヴィオラは再びリーリウムに日記帳を手渡し、ソファに腰を落ち着け、隣にプリムラを座らせた。
『自分がこちらの世界に転生したことは、すぐに受け入れることができました。
それは、この世界のことを知っていたから。
この世界は、元の世界で読んでいた“小説”の舞台だったのです。
唯一受け入れがたかったのは、自分が“悪役令嬢”として転生していたことです。
小説の中の“ユニカ”は王太子殿下の婚約者で、婚約破棄された後、物語の最後には処刑されます。
そうなるのも当然で、王太子殿下は別の女性“ヒロイン”と恋に落ちるのですが、
傲慢でわがままな公爵令嬢“ユニカ”は“ヒロイン”にひどい嫌がらせをし続けていたのです。
そのことに気が付いた時、すでに王太子殿下の婚約者だった私は、とにかく“悪役令嬢”にならないように心がけました。
婚約破棄を狙っておよそ公爵令嬢らしからぬ行動をとってみたり、
“ヒロイン”とは顔を合わせないようにしてみたり……
そうしていると不思議なことに、私自身の人となりを分かってくださった殿下との関係はより深くなり、
また、“ヒロイン”として登場したマリアとは、生涯を通した親友となれました。
その後、マリアが聖女となりこの国の宗教の礎を築き上げたことは、
きっとあなた方、後世の人々にも伝わっていることでしょう。』
もはや伝説ともされている、善行の塊のようなユニカ様が“悪役令嬢”と呼ばれる存在だったこと。
また、“聖女・マリア”という大物の名前が出てきたことに、ひどく疲労感を感じる3人。
聖女・マリアと言えば、現在この国の国教となっているテルース教の開祖だ。
元々は当時の国教であったカエルム教の聖女として現れたのだが、
当時すでにカエルム教の中枢は腐敗しきっており、
人々の助けになれないことを嘆いたマリアは、数人の司祭や聖騎士を引き連れてクーデターを起こしたのだ。
この時、力を貸したのが当時の王太子アレクサンデルと王太子妃のユニカだった。
「そういえば、今日読んだ本に聖女は“異世界から召喚された乙女”だと書かれていましたが、
マリア様はユニカ様と同じ世界からいらっしゃったのでしょうか…?」
リーリウムは今日たまたま図書館で読んだ本『カエルム教の聖女』の中で、“聖女召喚の儀”について詳しく記されていたことを思い出した。
「ユニカ様も異世界から来た“聖女”ということかしら?」
ヴィオラのつぶやきのような問いかけにリーリウムが首を振る。
「いいえ、聖女召喚は異世界から直接女性を呼び出す儀式です。
ユニカ様は異世界でお亡くなりになった後、こちらに生まれてきているので“転生”ということになるかと思います。」
テルース教には“輪廻転生”という考え方がある。
死んだ者は新しい生命となり、再び何らかの形で生まれ変わる。
人々は実際に生まれ変わったことを実感しているわけではないが、ごくまれに前世の記憶を断片的に有している者もおり、“輪廻転生”は本当だと信じられていた。
人々は今世で善なる行いをすれば次の人生でも幸せが訪れ、悪なる行いをすれば次は人には生まれ変われないと考えているのだ。
しかし、異世界からの“転生”はリーリウムたちも聞いたことがなく、それだけユニカが特別な存在だということを実感させられた。
「本によれば、聖女召喚をする際には、何人もの修道士の魔力を吸い尽くすほどのエネルギーが必要で、
儀式を施した修道士たちは皆死んでしまったり廃人になったりしていたそうですわ。」
「そんな恐ろしいことが行われていたなんて……。
魔力を悪用する人間がいたから、魔法は廃れてしまったのだろうか……。」
フレエシアは、魔法の力を復活させて人々の暮らしをよりよくしたいと常日頃から考えながら研究をしている。
しかし、魔法は自分の想像以上に強力で、そして危険も伴うのだと痛切に感じたのだった。
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