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その後②非力な助っ人

8話 豹変する代表生徒

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「あ、あはは、まさか君が話し合いなんて言うとは思わなかったよ。オリビアが誤解している部分もあるかもしれないな。お互い腹を割って、ちゃんと向き合った方が……」

 シュロットは外に出るなりハヤトに笑顔で振り返るが、最後まで言葉を続けられなかった。他の生徒たちの視線が消えた瞬間、ハヤトの魔法によって吹き飛ばされたからだ。会場外の花壇に全身を叩きつけられ、うつぶせに転がる。

「シュロット!!」

 駆け寄りたくても、ハヤトの冷たい視線に射すくめられ、動けなくなる。さっきまでの優しい笑顔が嘘のように、その顔は静かな怒りに満ちていた。

「うっ……ハヤト、や、やっぱり……!」

 シュロットはハヤトの魔法で宙に浮いた。彼の体は簡単に浮き上がり、足がだらりと垂れ下がる。灰色のスーツも土で汚れてしまっている。必死に逃げようとしているが、魔法のせいか体が自由に動かない。肩で息をしながら、目の前に迫るハヤトの顔を見上げた。ハヤトは苦しむシュロットから目を離さずに、私の方へ顔を動かした。

「オリビア、さっきこの男は支配とか言ってたけど、何を話したのかな」
「ひっ……!!ごめんなさい、でも私、もう耐えられなくて……!だって部屋にも帰してくれない、あなたの指示に従ってばかりの毎日、こんなの、異常よ!ち……違うの!?」

 ほんの少しでも彼の心に届いて欲しくて、思いの丈をぶつける。しかし、ハヤトの心は動かなかった。

「ふーん……最近やっと素直になってきたと思ってたのに、僕を裏切ってたんだね」

 ハヤトがこちらへ向けた目に私は震え上がった。彼は片手でシュロットの襟首を掴み、思い切り頬を殴りつけた。苦しげにうめくシュロットを見て、私は悲鳴を上げる。

「ハヤト、お願い!もうやめて!!」
「君が悪いんだろ。他の人と関わらないでって言ったのに、よりにもよって男に僕のことを話すなんてね……おいシュロット、あの時の爆発も、やっぱり僕を狙ってたんだろ。最近妙に見られてる気がしたのも君か。コソコソ、コソコソと……どうしてくれようかな」

 そう言いながら、ハヤトはシュロットを地面に落とし、背中を踏みつける。革靴の底の重たい感触に、シュロットはさらに痛みに顔を歪めた。

「お、俺は……オリビアが辛そうにしてたから……お前から救いたくて……」
「救う?僕に勝てると思ってるの?笑わせないでくれよ」

 シュロットを踏む足に片腕を乗せて、震える背中に向かって笑いかける。

「あ…う……オ、オリビアは笑うと可愛いんだ……お前から助けて、彼女の笑顔をもう一度見たいんだよ……!」
「へぇ、オリビアのこと好きなの?」
「そ……そうだよ……!!」

 シュロットの告白に胸が痛くなる。要領は悪かったが、彼は本心で私の幸福を願ってくれていたのだろう。しかし、ハヤトはシュロットを見つめる私の反応を見て、さらに怒りを滲ませる。

「僕から奪おうっての?まさかオリビアも好きだなんて言わないよね」

 ハヤトの冷ややかな視線が私に突き刺さる。私は震える手で口元を覆い、視線をシュロットに移す。彼の痛々しい姿が視界に入り、胸が締めつけられるような思いがした。

「シュロット、ごめんなさい。気持ちは嬉しかったけど、私はそんなつもりじゃ……」

 言葉が喉に詰まり、震える声しか出せない。この状況で彼にこの返事を突き付けるのは辛かったが、本心だった。私の答えにシュロットは目を伏せ、反対にハヤトの顔には薄笑いが浮かび、瞳には嘲笑の色が混じった。

「あはは、そうか、良かったよ。安心した」

 彼はシュロットに向けて勝ち誇った表情を浮かべると、再び踏みつけた。シュロットの顔が苦痛に歪み、彼の口からかすかなうめき声が漏れるが、ハヤトは一切容赦しない。

「オリビアは僕のものなんだ。君にどう見えてるのか知らないけど、僕たちは幸せにやってるんだよ。入る余地なんて無いんだ。余計な事しないでくれるかな」

 ハヤトは杖を振った。魔法の光がシュロットの体に巻き付いていく。シュロットの体は全身を縛られ、抵抗することすらできない。彼の苦しげな息遣いが耳に届く。

「場所を変えよう。もう二度と僕に反抗出来ないように、君の心も折っておかないといけないみたいだからね」

 ハヤトはホウキを取り出す。無駄のない動きでシュロットから繋がる光をホウキの先端にくくりつけ、私にも後ろに乗るように命じた。彼の目は冷たく、私を見つめるその瞳には何の情けもなかった。吊り下げられたシュロットを引きずりながら、空へと舞い上がる。

「オリビアも覚悟しておいてね」

 ハヤトの冷酷な笑みが恐ろしくて、声も出せない。行き先はきっとあの小屋だろう。上手く飛べるはずなのに急降下してみたり、ジグザグにホウキを動かしたりする彼のホウキから振り落とされないように、彼の腰に必死にしがみつく事しか出来なかった。










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