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その後②非力な助っ人
6話 自分で見つけた突破口
しおりを挟む「ええ、みんなの前でキス!?しかも、パーティー中に!?どれだけ好き勝手やるんだ、あの男は。大丈夫?」
「大丈夫な訳無いじゃない。でも、やるしかないの。やらないと、魔法で操られてもっと酷い事になるだけだから」
シュロットは周囲に会話が聞こえないように小声で怒りをあらわにしたが、私は諦めていた。
「しかもあいつ、式典で生徒代表挨拶するんだろ!?教師にはいい顔しやがって……」
ハヤトは魔法学会に向けた学校の顔として、スピーチをする生徒に選ばれた。私をこんな目に遭わせておいて自分だけ華々しい舞台に立つなんてね。でも彼がその準備で忙しいおかげで、わずかだが放課後のこの時間に少しだけ自由を得られている。ハヤトが学校を出るまでの数十分間だけの自由だ。
「ここまで失敗続きで本当にごめんよ。だけど……今度こそあいつの好きにはさせない。オリビアを救ってみせる」
彼の決意にはとても感謝しているが、私は力なく首を振った。
「ありがとう。でも、いいの。あの人には魔法学の時間以外は杖も奪われているから、出来る事なんて限られてる。下手に動いて怒らせるより、確実な方法が見つかるまでは大人しく従った方がいいのよ」
「そんな事言うなよ。俺が助けるから!心配するな、ハヤトだって絶対に隙があるはずだよ」
「私もそう思ってるんだけど、なかなか……お願い。今回は構わないで。じゃ、そろそろ行くわね……先に帰っていないと何されるか分からないから」
「オリビア……クソッ……」
作戦が何度も失敗し、私は計画に消極的になっていた。話を聞くだけのシュロットに比べて、直接ハヤトの力を目の当たりにしてしまっているからかもしれない。拳を机に叩きつけるシュロットを置いて、ハヤトの小屋へホウキを飛ばした。
***
何の対策も思いつかないまま、式典当日を迎えた。スーツに身を包んだハヤトが広い講堂の舞台に立ち、生徒代表として堂々と魔法学の発展を祈るスピーチをして、学会の人や先生たち、全校生徒の全ての拍手を受け止めるのを隅の座席で眺める。
この後のダンスパーティーで、ハヤトは学年一の美女と踊る約束をしているらしい。そこに嫉妬した私が飛び込み、皆の面前で彼にキスをするというのが今回指示されたシナリオだ。シュロットはめげずに何度も作戦を提案してくれたけど、もう謎のアイテムを使うのは怖くて遠慮した。私がハヤトにキスする屈辱の瞬間をシュロットに見られるのが嫌で、その時間は離れていて欲しいと伝えた。
私が着ているのは、これでキスして欲しいとハヤトが選んだもの。彼の趣味のネイビーブルーのドレスはシンプルだけど洗練されたデザインで、ウエストにはさりげないリボンもあしらわれている。軽やかで歩きやすく、足を出す度にスカートがふんわりと広がるこのドレスを、私は不覚にも気に入ってしまった。人形扱いなのか、大切にされているのかよく分からない。
憂鬱なダンスパーティーが始まる。そもそも私はダンス自体、好きでも何でもないのだ。毎年あるこのイベント、今まではホールにすら入らず、食事テーブルで静かに本を読んで時間を潰していたぐらいなのに、ハヤトはとにかく目立つような行動を私に強要する。恋人として普通に一緒に踊るのも刺激が足りないらしい。是が非でも私にハプニングを起こさせ、自分への注目を集めたいのだ。
楽しげに舞う大勢の男女の間を、他の女の子と踊るハヤトを探すために掻き分ける。なんてみじめなんだろう。彼の魔法が怖くて逆らえない自分にも腹が立つ。
ホール中央に、彼はいた。話していた通り、彼と同じクラスの美人の子と踊っている。この光景に可愛くヤキモチを焼く演技をして、キスしなければならない。だけど私の胸の奥は、その子を優しく見つめるハヤトを見て本当にズキリと傷んでしまう。閉じ込める程私に執着しているくせに、こんな事も平気で出来るのね……
邪魔にならないように避けながら、人混みの中で深呼吸する。よし、行こう。やればいいんでしょ、やれば。
その時、ひらめく。ここで怒ったフリして「別れる」と言えば、みんなの前で別れられるんじゃない……!?
鼓動が速くなる。そうよ、それでハヤトが引き止めるなんて事したら、私の方が優位に立てる。形勢逆転出来るかもしれない。大勢の人が見てるから、私に魔法を使う事も出来ない。
名案じゃない!?よし、彼の支配から逃れられるチャンスだ。私は勇ましく彼に向かって一歩踏み出し、大きく息を吸い込んだ。
もうこんなに振り回される毎日なんて嫌。私までおかしくなる前に、この支配的な関係を終わらせなければならない。キスなんてするもんですか。みんなの前で、振ってやる。恥をかくのはあなたよ、ハヤト!!
美女の手を取って踊っていたハヤトは私を見つけた。怒った顔の私に一瞬だけ口角を上げて、また落ち着いた顔に戻す。私がその美女を彼から離して、自分に抱きつくものだと思っている。私はそんな態度の彼に指をつきつけ、腹の底から声を出した。
「ハヤト!!あなた………」
しかし、最後まで言い切る事は出来なかった。私の声を掻き消すほどの大きな声が、ホール中に響いたからだ。
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