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その後②非力な助っ人
3話 ずさんな作戦
しおりを挟むたったひとつの問題───それは、シュロットの考えてくれる作戦は、どれも現実味が無いものばかりな事だ。
シュロットは家にあったという埃を被った分厚い魔法書をペラペラとめくっては、目についた難易度の高い魔法薬を提案した。
「これは?これでハヤトの魔力を弱らせるんだ」
「え、ええ……いい案だけど、作れそう?」
「あー……いや。やっぱりごめん、道具も無いや。あっ、じゃあこの魔法薬は?」
「材料の薬草、どうやって手に入れるの?かなり遠い地方にしか無いって書いてあるけど………」
「あ、本当だ。俺そんなに遠くまで飛べないんだよな」
「……」
魔法薬が作れないと分かると、今度は家から得体のしれない魔道具を持ってきて、机の引き出しからちらりと覗かせた。購入場所を聞くと、親が昔に知らない商人から安価で譲り受けたというものだった。
「これを片っ端からハヤトに使ってみよう。大丈夫、数打ちゃ当たるってやつだ。放課後に君が小屋に連れて行かれそうになったら、俺が物陰から発動させてみるよ」
「こ、これは何の効果があるの?使い方は分かるの?」
「いや?分かんない。でもなんとかなるよ」
物凄く不安を感じるが、きちんと調べてからが良いと言っても聞かずに目をキラキラさせるシュロットにそれ以上何も言えず、私はただ頷くしか無かった。
***
「ハ、ハヤト、帰るわよ」
私はハヤトの教室へ顔を出す。毎日迎えに来てと言われていた。この人はあくまでも私の方が彼を好きなんだ、自分は付き合ってやっているんだと、その優位性を周囲に見せつけたいのだろう。
「やれやれ……僕は友達と約束もさせて貰えないのか」
わざとらしくため息をつきながら友人らに手を振り、自分を束縛する彼女である私の所へ近付く。だけど教室を出た途端に私の手を強く握り、パッと顔をほころばせた。
「オリビア、今日はさ、紅茶の専門店寄ってみない?紅茶好きだろ?クラスの連中からおすすめだって聞いたんだ。一緒に行こうよ」
「えっ!?……あ、う、うん……」
意表を突かれてしまう。外出の誘いなんて初めてだった。しかも私の一番の好物。紅茶が好きなんて、いつ言ったっけ。最初の頃は「今日も勝負しようね」と言って私を怖がらせるだけだったのに、突然優しくされてうろたえてしまう。だって、今日は学校を出る前の中庭で、シュロットが影をひそめて彼を狙う準備をしている。
一瞬迷いが生まれた。こんなに笑顔で自分の手を引くこの人をどうして攻撃しようとしているのか、急に分からなくなる。しかし私は首を振って自分を律した。乱されたらいけない。ハヤトが何をしたか忘れたの?少し優しくされたぐらいで、騙されたらいけないのよ!紅茶なんて、自由になったら好きな時にいくらでも飲めるじゃない。
あの校舎を横切る時に、シュロットが魔道具を作動させるはず。よく狙えるように、ちゃんとハヤトに校舎側を歩いてもらっている……それにしても、なんの魔道具かも分からないのになぜあんなに自信があるのだろう。理解はしがたいが、シュロットに懸けるしかない。
「オリビアは好きな種類とかあるの?」
「えっと……私は、フルーツ系が好きで。一種類のもいいけど、色んなドライフルーツを浮かべた……」
にこにこと私の好みを聞くハヤトに若干の罪悪感を覚えながらも歩みを進めて、約束の地点に差し掛かった時だった。突然、シュロットが隠れている予定の専門学科棟の影から、飛び上がる程の爆発音が聞こえてきた。
「!!」
驚いて立ち止まる。ハヤトも笑顔を引っ込め、咄嗟に杖を取り出して身構えた。が、私たちの周囲に異変は無い。
「なんだ?」
ハヤトは辺りをまんべんなく確認したのち、音がした方へ私の手を握ったまま向かった。シュ、シュロット、大丈夫!?ハヤトがそっちに行ってるわよ!!
「うう、いたたた……」
校舎裏の雑草が茂っている場所で、シュロットは尻もちをついたのか、腰をさすっていた。良かった、無事だったのね。でも、一体何が起こったのだろう。たぶん、失敗よね……
ハヤトは目を細めて魔道具の破片を眺め、シュロットに優しく声を掛けた。
「どうしたの?大丈夫?」
「あっ!!ハ、ハヤト………君。大丈夫だよ。ちょっと実験してて、失敗したみたいだ」
シュロットは慌てたように顔を上げて、不思議そうにしているハヤトと、その隣で青ざめる私を見た。
「そう。でも、実験ならもっと安全な場所でやった方がいいよ。ここの草は燃えやすいから」
「あ、ああ……そうだね。ごめん」
ハヤトに差し出された手を取って立ち上がる。
「君、僕の事知ってるの?名前は?」
「えっ……!そ、そうだよ、俺が目立たないのが悪いんだけど、同じ魔法学の授業とってるじゃないか。俺は、普通科の、シュロットだよ」
「そうか……オリビアも普通科だよね。彼と同じクラスかい?」
突然ハヤトに聞かれて、私も声が上擦る。
「えっ!ええ、そうよ。話した事はないけど」
「ふーん……シュロット君、よろしく」
ハヤトはびくびくとするシュロットに、にっこりと笑いかけた。シュロットはかわいそうなくらい顔面蒼白になって魔道具の破片をかき集め、ハヤトにお礼を言ってそそくさとその場を離れていった。最後に私と目を合わせ、声は出さずに口だけ動かす。
『ごめん!』
私は背中を丸めて去っていくシュロットの後ろ姿を呆然と見送った。
「あはは、驚いたね。僕の事狙ってる奴かと思ったよ」
「ま、まさか」
笑いながら杖の先に火花を散らすハヤトに、私は引きつった笑顔で返した。でも警戒したのか、紅茶店へ寄る話は流れた。そしてその夜ハヤトは私を激しく抱いた後、「オリビア、僕の事誰にも言ってないよね?」と、聞いてきた。
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