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その後②非力な助っ人
2話 届いた心の叫び
しおりを挟む誰の字か分からない。咄嗟に周りを見回したけど、誰とも目が合わない。友達かしら?でも、まだハヤトの魔法は解かれていないはずだ。私の味方なんていないと思っていたのに、誰かが私を気にかけている事実にわずかな希望が湧き、何度も文字を目でなぞった。
授業が終わって次の時間が始まるまでの数分間、誰かが来てくれる事を期待しながらベランダに出ると、しばらくして後ろに気配を感じた。
「あ、あの……見てくれた?」
教室から繋がるドアを後ろ手で閉めながら私に微笑みかけたのは、クラスメイトの男だった。
「!これ、シュロットが?」
メモを彼に見せると、彼は頷いた。
まさかシュロットだとは思わなかった。シュロット・プランク。彼とは魔法学でも一緒だけど、ただそれだけで話した事はない。優しそうな顔をしているけど、物静かで目立たない彼は、良くも悪くも印象に残らない、普通のクラスメイトだ。
シュロットは辺りに誰もいない事を確認すると、少し長めの前髪を横に流して小声で話した。
「お、俺、人間観察するのが好きなんだけど、最近の君は何か変だと思って。ハヤトを妬んでいるかと思えば、泣きながら大声で告白したって噂を聞いたり……あ、あの男に、まるで……その、言いにくいんだけど。遊び……弱みでも握られているような……気がしてさ。だから俺に……何か出来る事ないかなって。いや、違ったらごめん。でも、元気が無いように見えて」
緊張しているのか、シュロットはたどたどしく何度も口ごもりながら、考えを伝えてくれた。
心底驚いた。まさか私を心配してくれる人がいたなんて。だけどほとんど初対面のような人を巻き込みたくない気持ちもあった私は、彼の申し出を遠慮しようとした。
「あ、ありがとう、でも、そう見えてるだけよ。私は大じょ……」
気丈に振舞うつもりが、喉の奥がつまり、一筋の涙を流してしまう。泣き始めた私に、シュロットはおろおろと慌てた。
「えっ、ごめん、失礼な事言った?」
「ううん。違うの。ただ……嬉しいだけ。ほんとは、本当は私……」
シュロットは、それ以上何も言えずに震える私の肩に手を置いた。
「……分かった。俺がなんとかするよ」
「いいの?ごめんなさい……ありがとう」
頼もしい言葉に、一縷の望みを懸けて甘えてみる事にする。渡されたハンカチで涙を拭いた時、次の授業開始を告げるチャイムが響いた。
***
その日から、私たちはハヤトがいないわずかな休み時間によく話すようになった。ハヤトにされた事の全てを明かすのは嫌だったけど、少しの言葉でシュロットは察してくれた。「辛かったね」と優しい言葉をかけてもらい、私の心は救われていった。
「俺、前からあいつの事怪しいと思ってたんだよ。魔法学でしか見ないけど。みんなに優しくて、先生にも気に入られてるけど、誰かがハヤトの気に触る事言ったら冷たい目でじっと見つめるんだ……そしてそれをされた人は次の日、なぜか学校に来なくなる。誰も気付いていないけど、俺はすぐ分かったよ。あいつは……やばい」
打ち解けてきた頃、シュロットはハヤトから逃げるための作戦を立てようと言った。そんな事出来るのかと思ったけど、一緒に立ち向かおうと自信を持って言ってくれた彼を信じる事にした。
放課後やランチタイムは時間が無いから、会議はもっぱら一般科目の授業中だ。私たちはメモを渡し合うか、先生の目を盗んではこそこそとやりとりした。最初に先生や他の友達を頼れない事を伝えると、シュロットは警察に言ってくると勇んだ。
「ど、どうだった?」
しかし翌日、私は期待を込めて聞いたが、シュロットは肩を落として告げた。
「ごめん……うちの学校トラブル相談多いみたいで、特に魔法絡みの問題は対応しきれないって門前払いくらったよ。まずは教師に言え、だと」
「そう……ありがとう」
「でも、まだ諦めないぞ。俺、家で色々考えてきたんだ」
シュロットは目に力をみなぎらせて、たくさんのアイディアを出してくれた。
彼は正義感が強く、私を絶対に助けようという気持ちが伝わってくる。学校では基本的に一人で過ごしている印象だけど、その内側はとても情熱的な人だという事が分かった。本当にありがたい。
だけどひとつだけ、困った事があった。
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