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狂愛へのカウントダウン

最終話 天才魔法使いによる支配

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 見た事もない動きに目を奪われる。その内に私の全身が光を帯びていき、そして何かの力に見えない何かを奪われていくのを感じた。

「オリビア、これ持って振ってみて」

 ハヤトは杖を渡してきた。その場で折ってしまえば助かったかもしれないのに、困惑している私は素直に受け取り、軽く振る。しかし、何の魔法も出てこない。まさか。自分の杖じゃないからよね?そう思った事が彼にも分かったかのように、彼は私の制服を漁り、杖を差し出した。でも、それを使っても同じように何も起こらなかった。まるで初めて魔法の練習をしてみた入学式の日のように、私は何度やっても何の魔法も出せなくて、本当にハヤトに魔力を取られてしまったのだと絶望する。

「お、お願い。返して……退学になっちゃう」
「なればいいじゃないか。僕がいるんだよ?何も困らないようにしてあげるさ」
「自分で使いたいの」
「必要無い。学校なんか行ったらまた僕を無視するだろ?僕と戦おうとしないオリビアに魔法の力なんていらないよね」
「いるわよ!お願いそれだけは、順位なんて関係ないの。立派な魔女になりたいの。お願い」
「じゃあ僕と付き合って」
「……わ、分かった」

 私は受け入れるしかなかった。ハヤトにこれ以上酷い事されたくなかったし、何より魔力を取り戻さないとここから出られる可能性は無いに等しい。私の苦渋の決断にハヤトは満足そうに笑顔を見せ、さらなる条件を付け足した。

「良かった。それじゃ、毎日宿舎じゃなくて、この小屋に帰ってきて。他の人と遊んだりするのは禁止。君の友達にかけた魔法も解かない。男なんて……言うまでもないよね?」
「……は、はい」
「僕の事を言うのも無しね。魔法でどうにでもなるけど……守れなかったらお仕置きするからね。また君を操って、みんなの前で……」
「分かった!守るから!!」

 嫌に決まっているが、それ以上聞きたくない。うつむき、ぎゅっと目を瞑り、ハヤトの出す条件を丸ごと承諾する。

「はは……嬉しいな。願いが叶ったよ。便利だよね、魔法って。どれだけ自分勝手に使っても、証拠が残らないんだから。倫理観なんて知った事じゃないね、やっぱり僕は賛成派だよ」
「いつか天罰が下るわ」

精一杯の憎しみをこめたつもりが、ハヤトは笑う。

「ははは、天罰が下ったのは君の方じゃないか?鼻にかけてたんだろ?自分の事天才だって思い込んでたんだろ?僕に思い知らされて、さぞかし悔しかっただろうに」
「…………」

 言い返せなかった。正論かもしれない。私は努力で掴み取った成績を、自分の才能だと思いたかった。そして周りにも、そう思って欲しかった。私に敵う人なんていない、自分の力が一番のはずだと、驕った結果だ。

「でも僕は、そんな情けない君が好きなんだ。君の心を折るのが。これからもたくさん勝負しようね、オリビア…………」

 頭を撫でられる。愛おしそうな手つきで耳を触られ、顎を持ち上げられて、そのまま口付けられる。私は身体を震わせ、ただこの理不尽を受け入れるしかなかった。

 この人に挑んだのが間違いだった。最初にちゃんと負けを認めていたらよかった。しつこく戦いを迫ったりしなければよかった。彼を無視し続けなければよかった。ひとつひとつの選択に後悔しながら、私は彼と長い長いキスをする。

 これから絶望の学校生活が始まるのだろう。彼に何もかも支配され、言いなりだ。いつかは飽きてくれるのだろうか。それとも反撃するチャンスは訪れるのだろうか。全ての希望を断たれた今は、抗う気持ちにもなれない。

 天才魔法使いに自由を奪われた生活が、今始まった。










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