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狂愛へのカウントダウン
13話 狂気の告白
しおりを挟む片手にホウキ、片手に杖を持ち私の前で立ち止まった男に、私は恐怖に震える。
「や、やめて……」
か細い声しか出せない。ハヤトは私を見て微笑んで、目の前でしゃがみ、目線を合わせて言った。
「酷いじゃないか、僕を置いていくなんて。さぁ、勝負しようね」
「い、嫌……もうあなたの勝ちでいい……私にあんな事出来ない。張り合ってた事が許せないの?それなら反省してるから、お願い許して」
「いいからやろうよ」
有無を言わさず彼は私のポケットから杖を出し、私に持たせる。
「わ、分かった。やったらいいのね。これで最後にしてくれる?」
私は怖くて仕方無いが、立ち上がる。自信はとうに崩れ去っている。思い出せない。どうしてあの時は、勝てると思ったんだろう。
戦いは始まった。初めから戦意喪失している私に、ハヤトは手加減してくれなかった。杖から勢いよく飛び出す魔法弾に簡単に吹き飛ばされて、芝生の上に倒れる。
こうなったらヤケだ。私は杖を振り、ありったけの力を込めて魔法を放った。でも、ハヤトは杖ではじいた。小さな虫でも払うかのように、私の渾身の一撃を軽くいなす。そして、私の肩や腕、足に目掛けて連続で強力なエネルギーの塊をぶつけた。
「うっ…………!!」
声も出せない。立ち上がれない。横を向いて、痛みに丸める体を足で仰向けにされ、胸倉を掴まれて少し上半身が浮く。
今回も完敗だ。最初から白旗を振っているのに、トドメでも刺すつもりだろうか。観念して目を瞑るが、新たな痛みはこない。そろそろと目を開けると、ハヤトは私に──────顔を近付けていた。
「!!」
咄嗟に首をひねる。今、何しようとした?
「もう逃げるのは許さないよ」
考える時間は与えられなかった。頬を掴まれ、ハヤトの方を向かされる。そして彼は、私の唇にかぶりついた。
「んっ、や」
ハヤトは怒りや興奮の感情をぶつけるように私の唇を吸った。私を芝生に押し倒し、馬乗りになる。両手を押さえつけて、そのまま唇を食む。
「やぁっ!!やめ……」
ボロボロの体ではろくに抵抗も出来ない。舌をねじ込まれて絡みつけられても、逃げられない。頭の後ろを支えられ、さらに深く口付けられる。
「んん……」
ハヤトにされるがままだ。体は動かず、ただ唾液を絡ませ合う行為に身を委ねるしかない。口の中が熱く痺れてきたところで、ようやく彼は唇を離した。名残惜しそうに出した舌から、私へと続く糸が伸びる。
「はぁ、オリビア………これで君は僕のものだ……」
私の苦悶と戸惑いの表情を確認しながら、呼吸を荒くして言う。
「な、何言って……」
「オリビアは勘違いをしているよ。僕は怒っていない……君が僕から離れて、やっと分かったんだ。君の挑戦は、僕への愛情だったんだね」
「あ、愛情?」
「だから君が再び僕に立ち向かってくれるのを待っていた。今度こそ君の愛を受け止めるつもりだったんだ。なのに、君は立ち直ってしまった。ずっと一人ぼっちだったくせに、友達まで作っちゃって……。僕の事しか考えられないんじゃなかったの?そんなの、許さないよ。これからも僕だけを見ていて貰うよ」
何も知らない女の子なら、それだけで恋に落ちてしまいそうな程に爽やかな彼の笑顔に、全身の血の気が引いていく。ここまで屈折した感情を抱えているなんて思いもしなかった。
「ハヤト、私はただあなたの成績が羨ましくて追っていただけで……」
「知らなかったよ。君、可愛く笑えるんじゃないか。だったら僕にも笑ってよ。友達といる時ばっかり楽しそうにして……」
「……」
「君が変わるのを許さない。妬みも愛も……全部僕だけに向けて欲しい。思い出してよ、オリビアは僕の才能が羨ましくて仕方なくて、僕の事で頭がいっぱいのはずだ。僕はそんな君と勝負して、勝ち続ける。そして悔しさに泣く君を…………愛してあげるよ」
歪んだ愛を語るハヤトは、その狂気に絶句する私の制服に手をかけた。
「!お、お願い、やめて……」
「大丈夫。今は誰もいないよ」
にこやかに笑うハヤトに、私の焦りは最高潮に達する。噓でしょう、この中庭で私を襲うつもり?どうしよう、逃げられない。だけどその時、いるはずのない人影がこちらへ近付くのが分かった。
「どうしたんですか?あれ、あなたたちは、魔法対決試合で皆の注目を集めていた二人じゃないですか」
魔法学の先生だ……!良かった。ハヤトの魔法が弱まったんだ!助けを求めるように叫ぼうとすると、それより早くハヤトが立ち上がった。
「ええ、先生。彼女がまた僕と勝負したいと言うので相手をしたんです。何度も言われるものですから。そうしたらやっぱり倒れてしまって……介抱していた所でした」
ハヤトはため息をつきながら大げさに杖を振り、私の全身の傷を治して、痛みを取り除いた。
「あら……大丈夫ですか?あなたはもう少し、彼の気持ちも考えましょうね。帰れますか?」
「違います……!!先生、助け……」
「先生、オリビアは精神的に疲れているようです。僕、ホウキの二人乗りが出来るんで、彼女の部屋まで送っていきますね。階段は辛いでしょうから」
「まぁ、さすがうちの代表生徒。こちらが出る幕はなさそうですね。オリビアさん、感謝するのですよ」
ハヤトは私の腕を優しく掴んで立たせると、ホウキを出現させてまたがった。
「嫌です!先生、ハヤトは先生の事も操って、私に」
「いい加減になさい。悔しいからって、彼を悪く言うのはいけませんよ。乗せてくれると言っているのですから、素直にお願いするのです!」
「先生、すみません。こんな無意味な争いに応えてしまって……責任持って送ります。では、失礼します」
鼻を鳴らす先生に礼儀正しく会釈し、嫌がる私を後ろに乗せて舞い上がる。私の部屋がある宿舎4階の高さまで飛び、中庭を見下ろして先生が見ていない事を確認すると、そのまま宿舎を越えて、スピードを上げた。
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