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執着の逆転
6話 奇妙な偶然
しおりを挟む私の学校生活は驚く程に充実し始めた。プライドを捨てた途端、これまで私を敬遠していたクラスメイトたちが何人も話しかけてくれて、友達がたくさん出来た。どうやら躍起になっていた頃の私は近寄りがたかったらしい。誰も私が落ちぶれたなんて言わなかった。順位にこだわっていたのは、私だけだった。
ふっきれた私は放課後に図書館に一人籠るのではなくて、友達と一緒に勉強をした。魔法の練習中も時には笑い合って、ふざけてみたり。それも夜中までやるんじゃなくて、適度に進めた後は気晴らしにカフェに行ったり、カラオケで流行りの歌を歌ったりもした。
色んな景色を知って、全力で青春を過ごす。今までより明らかに勉強時間は減ったのに、なんと成績は上がった。ハヤトには届かないけど、ホウキに乗る体も軽く、自己ベストを更新し続けている。楽しい。私の表情は以前のような仏頂面ではなく、よく笑うようになった。肩の力を抜くと、何もかも上手くいくようになった。
***
今日はさらに楽しい1日になりそうだった。だって、大好きな魔法学の選択授業で、グループワークがあるから。魔法学はやっぱり人気で、500人もいるこの学年でも300人近くの人が受講していた。その中にもちろんハヤトもいるけど、これだけ人がいれば一緒になる事はないだろう。その代わり、友達と一緒になれる可能性も低い。
そう思っていたのに、くじを引いて選ばれた席に向かうと、彼はいた。
「オリビア、一緒に頑張ろうね」
ハヤトは顔を引きつらせる私に、自分の隣のイスをたたいて着席を促す。嘘?間違ってない?くじの紙を見直すが、何度見ても彼が持っているそれと同じ番号が書いてある。私は他のメンバーが現れるまで、座る事が出来なかった。
「やったぁ、ハヤトとオリビアが一緒だ!運がいいなあ。お前らがいたら評価Sも間違い無しだな」
のんきに喜ぶチームメイトに笑顔で返すが、心の中で睨みつける。まぁいいか。ハヤトとは喋らなければいいだけ。
でも、ハヤトはやたらと私に話し掛けてきた。「環境問題にどう魔法を活かして対処していくか」というテーマに皆で討論する中、ハヤトは自分のアイディアに必ず私の意見を求めた。
「オリビア、どう思う?僕は河川のゴミ問題には川そのものの浄化魔法を使うのがいいと思うんだ」
「自分たちが出来る範囲でって先生言ってなかったかしら?」
私は目を合わせないで返事する。
「ああ、そういえば習ってなかったね。僕なら出来ると思うけど」
「……凄いわね。じゃあそれでまとめましょうか」
「あれ、嫉妬しないの?」
「どうして?あなたが出来るのならそれでいいじゃない。みんなもこれでいいかしら?私が書くわね」
たぶんハヤトは、私をわざとけしかけて、私の闘争心を引き出そうとしている。顔を真っ赤にして、ならば自分もと言い返すのを待っている。その手には乗らない。私はもう、あなたの挑発には応じない。
至って冷静に、ハヤトの言葉を受け流した。さっさとレポートを提出して、後の時間は同じグループになった別の女の子と話す。魔法学とは関係無い話で、彼に割り込まれないようにする。ハヤトを無視して、新しい友達と楽しい時間を過ごす。
何が「君の涙がまた見たい」よ。悪趣味!そんな事言ってくる人と争う訳無いじゃない。そうしてなんとか魔法学を終えた。今日はとんだ災難だったけど、これっきりだろう。もうこの人と関わりたくない。
それなのに、翌週の魔法学でも同じグループになってしまう。ハヤトから距離を置きたいのに、また話さなければならない事にこの授業が憂鬱になってくる。どうして最近グループ活動が多いの?一人でやる課題にして欲しい。
「架空の村を災害から魔法で守るシミュレーションか。僕がリーダーでいい?」
グループは10人もいるのに、ハヤトは私だけを見て聞く。ハヤトに頼りきりの他の生徒たちは、その重い役割から逃れられてほっとしている。以前の私なら彼の発言にムキになり、自分がリーダーをやるって申し出て張り合っていただろう。でも今の私は、手を叩いて見せた。
「決まりね。じゃんけんにならなくて良かったわ」
「オリビア、僕の指示に従えるの?」
「もちろんよ、早く指示出して。あ、この村の模型よく出来てるわね。ねぇリオン、ここなんて凄く精巧よ」
私は早々にハヤトとの会話を終えると、隣の子に話し掛けた。こんな風に、どんなにハヤトに煽られても、動じない。ハヤトの視線を痛い程感じるが、気付かないフリをする。課題に必要な最低限の会話だけでやり取りをして、授業が終わるのを待った。
本当に嫌になる。どうして私にライバル視させようとするの?あなたは迷惑そうにしていたじゃない。心外だって言ったくせに、挑戦をやめてからの彼は変だ。私に妙に構おうとする。それで私が挑発に乗るとでも思っているのだろうか。今度こそ、徹底的に避ける。
しかし、悪夢のような時間は続いた。
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