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無駄なあがき

3話 惨敗

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 私は驚かされた。合図が出たその瞬間、ハヤトは私が杖を振るよりも素早く動いたのだ。私たちを取り囲む生徒たちとの間に透明の壁を張る。そしてそれに気を取られた私に向かって、今度は白い光線を撃ってくる。バチンと当たった左腕は出血こそしないものの、とても痛い。ひるんだ私を見て、ハヤトはにこりと笑った。

「君の挑戦は面白かったよ。だけど、そろそろ終わりにしよう。ちょっと本気出させて貰うね」

 そう言って、ハヤトは笑みを消した。そして私に杖を向け、躊躇なく魔法弾を放つ。予想以上に大きな光の集合体に私は素早く杖を振り辛うじて雷で相殺させるが、衝撃は凄まじく、私は悲鳴を上げて後方へ吹き飛んだ。見ていた数人の生徒が私を避けて後ろに下がる。ハヤトが再び魔法を繰り出す前になんとか立ち上がるが、さっきの魔法弾の威力に足が震える。

 何、あれ。あんなの、授業で一度も見た事が無い。事前に彼が私たちの回りにバリアの壁を張った理由が分かる。

「オリビアさん!練習試合ですから、無理しなくていいんですよ!」
「か、構いません」

 目に怯えの色を浮かべた私に先生はギブアップを提案するが、首を振った。まだ杖は落としていないもの。私だって、一矢報いたい。

 事前に計画していた足元への攻撃を試みる。ハヤトの足目掛けて杖を振る。彼のそれより一回りも二回りも小さな魔法弾が飛んでいく様子は、練習の時には微塵も思わなかった頼りなさを感じさせる。案の定ハヤトはひょいと避け、代わりにもう一度杖を振った。彼の一振りが、重い。私は目の前に飛んできた攻撃を避けきれず腕で顔を覆うと、そのまま地面に背中から倒れ込んだ。

「うっ……!」

 私の苦悶の表情にも彼は同情しない。痛みが引くのを待っている私へ距離を縮める。私は仕切り直す余裕も無く、彼に向って一心不乱に杖を振った。なんでもいい。時間を稼ぎたい。ひとつでもいいから当たって欲しいのに、ハヤトは私の魔法を全てかわす。目の前まで来た彼に今度こそ当たると思って杖を向けると、その先端を軽く叩かれ方向が変わり、攻撃は空を切る。

 この時点ですでに負けを悟っていた。だけど一度も当てられないまま負けるなんてあまりにも情けなくて、受け入れられない。私は涙をこらえて杖をかざし続けるが、ハヤトは大勢の観客の前で無情に私のプライドを折っていく。足や肩などの場所に小さな魔法弾を当て続け、苦しみにもがく私を宙に浮かせ、見えない壁に磔にした。脇の下や足の間など、体にギリギリ当たらない場所へひとつずつ氷の柱を刺し、自由を奪った。そして最後に私の手から杖をはじいて、杖を私の顎に当て、上を向かせた。

「ごめん、オリビア。本気を出すまでもなかったよ。もう分かっただろう?君が誰を相手にしてるか」
「……うぅ……」

 我慢する事が出来なかった。彼を睨みながら、大粒の涙を溢れさせてしまう。

「みんなの前でちゃんと言ってごらん?降参しますって」
「……!!」
「こ、こら!やめなさい、もういいでしょう!!」

 ハヤトは先生の制止も聞かずに私に詰め寄った。私は悔しさに息を詰まらせる。手放せっていうのね。みんなの前で。かつての称号を、私に捨てさせるのね。

「僕さぁ、ずっと我慢してたんだよ。大した実力もない人にライバル呼ばわりされて、毎日挑まれて。敵わない相手をライバル視してすみませんって言いなよ。ほら」

 でも、もう認めるしかなかった。いつかは勝てると思っていたライバルは、簡単にライバルと呼んでいいレベルの魔法使いでは無かった。屈辱に顔を歪めて、涙で汚れた頬を拭う事も出来ずに、私は泣きじゃくりながら声を振り絞った。

「うっ…ううっ……ごめんなさい、認めます……私はあなたに、敵いません……」
「もう僕につきまとわないって約束してくれるね?」
「はい……もう、ハヤトには近付かない……」

 私の完敗宣言に満足したように頷いたハヤトは、顎に食い込ませていた杖を離した。そして磔にしていた壁から私を降ろすと、固唾を飲んで勝敗の行方を見守っていたクラスメイトたちに向かって拳を上げた。彼の友人や女子たちはその恐ろしい豹変ぶりに驚きを隠せないものの、次第に手を叩き、彼を囲んで勝利を祝った。

 私はその影で倒れこみ、無念の涙を流し続けた。


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