偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される

プリオネ

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おまけ②

非公開にしていた本当の8話

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〈8話 屈辱的な大失敗だけど〉


オリビアたち魔法学コースの生徒は、今日もまた中庭にいた。今日の実習は、攻撃魔法を使った的当てだ。杖の先にエネルギーを集め、的に放つ。

平和な現代で、攻撃魔法なんてものを学ぶ必要はあるのかともオリビアは思ったが、こういった魔法が存在する以上、知っていて損は無いのだろう。魔法に関する法律が整備されてきたとはいえ、犯罪に対抗するにはやはりこの力が必要だ。

先生指導のもと、生徒たちは各自の的に向かってそれぞれ練習をする。
オリビアは、例によって予習済みである。

狙い通りに的に当てていく。先生からは褒められ、周りからは賞賛の声が上がっていた。

「オリビア、本当に凄い!一発じゃん!」

「ふふ、ありがとう。結構簡単ね」

「さすが、天才!」

「まあ、これくらいなら」

オリビアは、嬉しそうに笑みを浮かべた。天才、と呼ばれて舞い上がる気持ちが隠しきれない。でも実際は、ゆうべ初めて練習した時は、全く当たらなかった。

(ああ、幸せ。やっぱりみんなから尊敬されるって、最高!)

いつになく、上機嫌であった。先生から、上級者向けの課題が追加されるまでは。

「ポットさん。あなたは的当てが得意のようなので、少し小さめの的でやってみましょうか」

「えっ」

オリビアの顔が引きつった。そこまでは、練習していない。本音を言うと、今のサイズの的で精一杯だ。

「大丈夫ですよ。ヤーノルドさんもこの大きさの的でやっていますから」

先生が手をやる方を見ると、すでにハヤトは難なくこなしていた。オリビアの視線に気付いた彼と目が合った。ハヤトは、ニヤリと笑ってこちらを見ながら杖を振り、的に当ててみせた。

「…私もこの的でやります」

オリビアはハヤトの挑発にのった。しかし正直なところ、自信はない。冷や汗が出てきた。想定外の事態に弱いタイプだ。

「では、始めてください」

精神を集中させる。魔法を使う時、呪文を唱える必要はない。しっかりと念じることが重要だ。
杖を振り、小さな的に向かって魔法を放ってみた。しかし、焦りから手元を狂わせてしまう。魔法はあらぬ方向へ飛んでいった。

「あぁ、惜しかったですね。でも難しいですから、ゆっくりやりましょう」

先生はフォローしてくれたが、オリビアは恥ずかしくて下を向く。失敗するところを見られたくないから準備してきているのに、結局こうなってしまった。

気を取り直して、ノートを取り出した。今回の課題に必要な情報が細かく書き込まれている。魔法の念じ方、杖の動き、使う魔力の量などを事前に整理しておいたのだ。改めて確認しながらやることに決めた。
ノートを見ながら杖を振り、気付いたことをまた記した。上級者向けの的に当てるべく、オリビアの奮闘が始まった。

先生が、時々説明を補足してくれる。オリビアはメモを取るのに夢中で、横にハヤトがいることに気付かなかった。

「あのさ…さっきのやり方、効率悪いんじゃないかな……」

横からの急な声かけに、驚いてしまった。

「え!?」

オリビアは、思わずハヤトの横顔を見た。まつ毛の長さまでよく分かる距離だ。こんなに近くにいたのか……。集中していて全く気付かなかった。

「ほら、こことか」

ハヤトは自分の持っているペンで、オリビアが書いた文字の下に何かを書き足していく。

「こっちの方が、魔力消費が少なく済むと思うんだけど。コントロールも上手くいくよ」

「あ……確かに………って、余計なお世話よっ」

オリビアはツンと顔を背けたが、ハヤトは気にしていない。

「あと、実習で、ノートを取るのは必要無いと思うよ。手を動かして、覚えちゃえば良いんだよ」

確かにその通りだと内心思ったが、素直になれず反発する。

「あなたのアドバイスはいらない!私のやり方でやらせて」

「………」

やれやれ、といった様子でハヤトは持ち場に戻った。他のクラスメイトも気にかけつつ、オリビアを見守っている。

オリビアは、何度も練習した。何度かやっていると、ついに的に当たった。

「やった……!」

飛び跳ねて、周りを見た。丁度誰もこちらを向いておらず、がっかりする。が、1人だけ、彼女の成功を見た生徒がいた。

「オリビア。頑張ったね」

ハヤトだ。

「…あなたに褒められても…」

オリビアは口をへの字にさせた。
しかしながら成功は成功だ。一度うまくいくと嬉しくなって、もっと上手にやりたくなる。

つい、ノートを見ながら杖を振ってしまう。杖の先を見る事を忘れてしまうのだ。ハヤトが見かねて「ねぇ、危ないよ」と言っているが、いちいち構ってくるライバルにイライラし始めていたオリビアは無視してしまった。

だから、失敗した事に気付けなかった。オリビアが念じ方を間違えると、エネルギーはオリビアの方へ向いた。直撃し、悲鳴をあげながら数メートル後ろへ吹き飛ばされる。

オリビアは背中を打ち付けた。皆が自分を振り返る。痛さと恥ずかしさで涙目になりながら起き上がった。幸い怪我は無いようだ。

「大丈夫?」

ハヤトが、一番に駆け付けた。忠告を聞かずに失敗なんかして、また馬鹿にされるかも…とオリビアは思ったが、ハヤトは右手を差し出した。

「立てるかい?」

「…あ、ありがとう。でも、自分で立てるわ」

少し嬉しかったが、ハヤトに頼るのは嫌だったので自力で立ち上がった。が、結局ふらついてしまい、ハヤトに腕を掴まれて支えてもらう事になる。

「…君って結構ドジだよね。何でも出来るかと思いきや、誰もやらないミスもする」

ドキッとした。図星だ。やっぱり馬鹿にされているんだ。
キッとハヤトを睨む。しかし、ハヤトは微笑んだ。

「僕で良ければ、いつでも練習台になるから。遠慮しないで言ってね」

優しい声で言われ、拍子抜けしてしまう。

(何なの?調子狂うじゃない……)

「け、結構よ」

とりあえず断り、また練習を始めた。先生は休めと言ったが、構わず続ける。

ハヤトは、気付いた。オリビアは、今度はノートを見ないで杖を振っていた。



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