偽物の天才魔女は優しくて意地悪な本物の天才魔法使いに翻弄される

プリオネ

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おまけ 天才魔法使いの恋愛遍歴

最終回 どんな感情も僕に

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翌日は学校で、しかも魔法学がある日だという事を忘れていた。調合室に行くと、先に来ていたアメリが僕を見ながら横に座った。昨日の今日で、とても気まずい。仕方無い、何か話すか?と思ったが、幸いすぐに先生が現れてくれた。

「今日は、調合の抜き打ちテストをします。普段から薬品と薬草の化学反応を理解していないと、難しいですよ」

先生はブーイングを起こす生徒たちの反応を楽しむように笑ったが、僕は動じなかった。理解も何も、課題の魔法薬は週末にしょっちゅう作っている。なんなら薬草さえ自分で調達している僕には簡単なものだ。

しかしすぐに違和感を感じる。普段通りに調合しようとするが、なじみの薬草がひとつ足りない事に気付いた。
先生の配り忘れか?とも思ったが、机の下に少しだけ散らばっている。この感覚には覚えがあった。これは……誰かが盗みを働いたのだろう。

盗まれた薬草は、その量が多ければ多いほど、調合も上手く行きやすい性質を持つ。だから犯人はこれを選んで盗んだのだろう。前の学校での日々を思い出す。最近は落ち着いていると思っていたが、ついにここでもこういう事をする人が出てきた。

先生に報告して必要な量を受け取ろうとも思ったが、今ある材料をよく見ると、これでもなんとかなりそうな気がした。思いつきだ。やった事は無かったが、試しにそのまま取り掛かる。

「…出来た」

やはり思った通りだ。あの薬草の代わりに、別のものを数回に分けて入れると、色が変わった。このタイミングでしっかり混ぜた事で、調合は成功した。

先生に完成したものを見せると、驚いていた。この調合方法は、かなり難しいものらしい。理由を問われて材料が無かった事を伝えると、教室中がざわついた。

僕はいいと言っているのに、犯人探しが始まってしまう。生徒たちがお互いの顔を見合わせるその時、横で作業をしていたアメリが手を上げた。

「先生、ポットさんだと思います」

僕は目を見開き、アメリを見た。彼女は僕を無視してオリビアが僕をライバル視している事を先生に伝えた。すると一斉に、皆がアメリに同調し出した。証拠も無いのに、オリビアの仕業だと決めつけている。オリビアは青ざめ、必死に抗議しているが、誰も聞き入れない。

アメリは、どよめくクラスを眺めてニヤニヤと笑いながら僕に言った。

「ハヤト君、だから言ったじゃない。あの子はあなたを妬んでいるのよ?だから、あなたの邪魔をしたいの。いつかやると思ったわ」

「…オリビアがやった証拠が無いだろう」

「やってない証拠も無いじゃない」

「無かったとしても、僕は……」

言いかけた時、ふと、オリビアの調合鍋の中が見えた。すると、ある事に気付く。 

「…いや、あるな。証拠」

「え?」

僕は立ち上がり、皆に聞こえるように言った。

「オリビアは、犯人ではありません」

ざわついていた教室が静まり返る。アメリも驚いた表情で僕を見上げている。先生は落ち着いて、僕に理由を尋ねた。

オリビアの鍋は見本のような美しい青色ではなく、黒く泡立っていた。無実を証明するためには、彼女が調合を失敗させたことを話さなければならなかった。申し訳無く思ったが、それを考慮している余裕は無い。

案の定オリビアは、失敗を皆にさらされた事が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしている。

「僕は調合を成功させています。犯人探しは、必要ありません」

僕の言葉で、事件は幕を閉じた。生徒のほとんどがオリビアに謝る中、アメリだけはワナワナと震えていた。

「あ、あの、ハヤト…かばってくれて…」

「でも、君、調合失敗したんだね」

お礼を言おうとするオリビアを遮って、わざとからかう。

「う、うるさいわね!ちょっと焦ってしまっただけよ!!」

「あはは、そうだよね。やっぱり君は犯人じゃないよ。君が犯人だったら、もっと証拠が残ってそうだしね」

「何よそれ!馬鹿にしてるの?」

「うん、してる」

「!!」

オリビアは沸騰しそうな程に赤い顔を歪ませて、怒って調合室を出ていった。その後ろ姿が愛おしい。元気になったかな?そのドアを見つめる僕に、アメリが詰め寄る。

「どうして、あの子をかばうの!オリビアがやったのよ!!」

「言っただろう。オリビアは失敗している。盗んでたら、成功しているはずなんだ」

「どういう事よ!」

オリビアに続いて、やれやれと部屋を出ていくクラスメイトたちの内の何人かが、僕たちの会話を聞くために立ち止まっている。

「僕が盗まれたものは、入れれば入れるほど調合の成功確率が上がる。だから、あれだけの量があれば、確実に成功するはずだ。証拠隠滅にもなるしな。でも、オリビアの作品には、その効果が現れていなかった。つまり、薬草は入っていないって事だ」

「……」

「そういえば、君の鍋、妙に綺麗だったな。調合得意だったっけ」

「……っ、何よ、私を疑ってるの?いいわ。先生に言ったらいいじゃない。どうせ証拠はないわ」

「いや、もういいよ。その代わり、昨日の話を受け入れてくれるね」

アメリは悔しそうに歯ぎしりしている。僕の気を引くために他人を陥れてどうするんだ。彼女の他人を巻き込むやり方に、もしかするとあの時もそうだったのかもと思いを馳せる。皆の前で僕に告白してきたのも、そうする事で断りにくくしたのだろう。

「なんだ?アメリが盗んだのか?でもよハヤト、お前も知ってるだろ?オリビアの態度。今も怒ってたし。やっぱりあいつの方がやりそうだと思……」

わらわらと集まる野次馬たちに、僕は告げた。

「もう二度とこの話はしないでくれるかい」

「え?」

「オリビアがそんな事するわけないだろ……」

無意識の内に杖を取り出し、強く握り締めていた。黒い液体が入った調合鍋を見ながら静かにつぶやく僕に、アメリを含めた周りの奴らはそれ以上、何も言わなかった。

***

放課後、僕はオリビアの元へ行きたくなった。僕が至らないせいで、彼女を巻き込んでしまったことが申し訳無かった。しかしそれ以上に、会いたくてたまらない。もう抑えられるほどの気持ちではなくなっていた。

皆、分かっていない。オリビアは、そんなズルいことはしない。僕だけが本当の彼女を知っている。意地っ張りで不器用に踏ん張るあの子を支えることが出来るのは、僕だけだ。いつでもクールぶって冷静でいようとするオリビアの表情を崩せるのは、僕ただ1人だ。

一緒にコーヒーが飲みたい。マグカップのセットを用意し、図書館へ行こうと彼女の後をついて行ったが、珍しくそこには向かわない。なぜか食堂近くの自販機コーナーへ曲がっていった。僕は躊躇なく追いかける。溢れる気持ちは止まらない。

オリビア、僕を惑わし、狂わせられるのは君だけなんだ。今度は僕が追いかけるけど、妬み続けてくれないか。もう孤独には戦わせない。君がよくいるいつもの窓際の席、その隣に座らせて欲しい。そして君を怒らせる僕を、許してくれないか。

僕は今から君に告白する。
大好きだ、オリビア。


***


「………しっ、知らなかった。ハヤト、私の前にそんなに色んな人と付き合ってたのね…」

オリビアは僕が過去の女性関係を話したら、ショックを受けているようだ。

「君、全然気が付かなかったの?結構噂になったりしてたと思うんだけど」

「ええ……勉強の事で頭がいっぱいで……でも、確かに、そんな話を聞いたような気もするわ。相手が誰かまでは、分からなかったけど。クリスマスも、泥棒事件も、裏でそんな事があったのね…」

呆気に取られて、固まっている。

「あの時はごめんね、言わなくて」

「いえ…もうそれはいいんだけど…。いいの?私なんかに収まっちゃって」

「もちろんだよ。君がいい」

「……そ、そうなの……ありがとう……」

オリビアは恥ずかしそうだ。僕は彼女が愛おしくなり、抱きしめると、彼女は身を固くした。

「オリビア、好きだよ」

「わ、分かったから」

「君は可愛いね。ずっとだ。初めて会った時からずっと可愛い」

「……っ」

オリビアは頬を染める。僕はたまらなくなって、彼女の唇を塞いだ。

「……っ、ちょ、ちょっと、待って」

彼女は戸惑うように、僕を押しのけた。その細い手首を掴んで押し倒してやりたいところだが、グッとこらえる。

「何だい?」

「こんな所で…図書館よ」

僕は辺りを見た。ここは初めてきちんと話した場所だ。毎日オリビアに会うべく通いつめた場所。オリビアお気に入りの窓際の席。思い出が詰まっている。

「ここだからいいんだよ。僕たちの思い出の場所だ」

「ハヤト…………」

「…君、今でも僕はライバル?」

「………………ええ。あなたを超える日まで、ずっとよ」

「うん。それでこそ僕の好きなオリビアだ」

「わ……私も、好き」

僕たちは見つめ合い、キスをした。黄色く輝く羽根ペンを握る彼女の手に、そっと自分の手を重ねた。



終わり





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