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おまけ 天才魔法使いの恋愛遍歴
⑥雰囲気に呑まれて
しおりを挟む今日も図書館を覗いた。オリビアとは学科が違うから、最後の授業が魔法学でない時はいるかどうか勘で行かなければならないが、良かった。いつもの窓際の席に座っていた。
彼女はあまり雑談には応じてくれない。たぶん、教室でからかい過ぎているせいだ。それでもここでは真面目に接する僕に、帰れとは言わなくなってきた。基本的には帰るまでお互い無言で過ごすが、今日は僕が手に取った本の埃を拭いてくれたり、「そこ暖房当たらないんじゃない」と気遣ってくれた。彼女は無表情だが、難問が解けた時とか、文章の意味を理解した時なんかはとびきりの笑顔で僕に振り返った。
たぶん、無意識だ。そして僕が本から顔を上げて褒めると、我に返って拗ねる。面白い。それをいじってまた怒らせるのも楽しいが、それはまた今度にしよう。
オリビアが満足のいくまで勉強をする姿を見守り、すっかり遅くなった。大体いつもこのぐらいの時間になる。彼女とは暮らす建物が違うから、先にそっちの方に送る事にしている。
***
自分の宿舎に戻ったら、普段はしんと静まり返っているはずの入口のロビーで、同じ学年の何人かの人たちが立っていた。しかも、僕を待ち構えていたようだ。魔法学でも一緒の奴もいれば、知らない女子もいる。
なんだ?集団で喧嘩でも売りにきたのか?と思ったが、彼らは笑顔で僕を歓迎した。
「おう!皆、王子様のお帰りだ!!」
「…?」
「どこ行ってたんだよ。待ちくたびれたぞ」
いつもとなんだか様子が違う。
「?悪い。どうしたんだ?」
僕が尋ねると、集団の真ん中が開き、その先に1人の女の子が立っているのが見えた。彼女は頬を赤らめて、うつむいている。
「ほら、アメリ。頑張れ」
周りの生徒たちが彼女を励ます。
「う、うん…………あの、ハヤトくん」
アメリと呼ばれた女の子が1歩前に出て、僕の前に立った。この子は魔法学で同じクラスの子じゃないか。まさか……
「ずっと前から好きでした。付き合ってください!」
「………」
予想通りの言葉に、周りがヒューと口笛を吹く。
「よく言った!!」
「アメリちゃんー!!」
そしてその次に、その場にいる全員が僕の返事を待った。彼らの眼差しは、驚く程真っ直ぐな希望に満ち溢れていて、アメリだけが不安そうにモジモジしている。
「えっと…………」
だから、そんな事を言える雰囲気では無い。まさか、ごめん、だとは。それでも断るセリフを考えていると、周りの後押しが加速した。
「ハヤト、お前彼女と別れて今フリーって聞いたぞ!?こんな可愛い子を振る訳ないよなあ」
「そうだぜハヤト!!アメリは俺たちの仲間なんだから大事にしろよ」
「ハヤト君、アメリちゃん頑張ったのよ!!男でしょ!!OKよね!?」
僕が何か言う前に、アメリの応援者たちがまくし立てる。チラッとアメリを見た。彼女はねだるような目で、じっと見つめてくる。小さな体で上目遣いをする姿は、とても可愛らしい。皆の前で頑張って僕に告白してくれた。その勇気は相当なものだろう。
僕は、オリビアの事を、頭から振り払った。
「分かった。いいよ」
「え……いいの……!?」
僕の返事に、アメリの表情が明るくなる。
「おお!!」
「きゃああ!おめでとうアメリちゃん!!」
僕はアメリと付き合う事になった。この状況で、彼女を振るのはあまりに気が引けたのもあるけど、告白される事自体はいつもの事じゃないか。これまでもずっと誰でも良かったんじゃないか。とりあえず付き合ってみるのも悪くは無いはずだ。
祝福の中で腕を絡ませてくるアメリに、僕は微笑んでみせた。しかし、上手く笑えている気がしない。
図書館へは、しばらく行けないだろう。
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