上 下
30 / 66
[才能の乱用編]

30話 いらないスポットライト

しおりを挟む

──薬草泥棒の容疑者扱いの次は、これ?2年生になってから、嬉しくない形で目立ってしまう事が多すぎる。そのどれもがハヤト絡み。もう、いい加減にして欲しい。静かに勉強をさせてよ…

オリビアは現実逃避をするように、1年生の年度末の表彰式を思い出した。どうせ目立つなら、ああいうのがいい。年間の成績優秀者に贈られる賞状を全校生徒の前で受け取った時の、あの感動。最優秀者として注目を浴びた最高の瞬間。

思えばあの時が最後であった。あの後のホウキレース大会の日から、突如現れたハヤトに全てをひっくり返されたのだ。授業の度に凄いと賞賛され、さすがオリビア、天才と言われた日々が、もうずっと昔の事のように思える。

男子たちの声が聞こえていないフリをしたいが、あの大声のせいでそれぞれの自習時間を楽しんでいた教室内がひとつになってしまった。一斉に視線を感じる。尊敬の眼差しでは無く、好奇の目だ。

「……最悪……」

窓の外を見ながら頬杖をつくオリビアを、サラは「ドンマイ」と笑った。

「聞いたぞ!ハヤト、オリビアの事好きなんだろ!」

せめて彼にはうまく流して欲しいという願いは、無残にも打ち砕かれた。

「ああ、好きだよ」

全く動じないハヤトの返事に、教室内がざわつく。

「うわっ、認めた!おもしれぇ!そういえばこの前の泥棒事件で、お前オリビアの事かばってたもんなぁ。よっ、ヒーロー!」

「ちょっと待てよ、オリビアも頭良いぞ。こりゃ上手く行けば、天才カップル誕生か!?」

皆が口々にはやし立てるが、ハヤトは何も言わない。オリビアは目を閉じ、ポケットの中の杖を握りしめた。今すぐあの男たちに魔法弾を打ち、静かにさせたい。

「あ、でも、オリビアはお前に嫉妬していつもすげー顔して睨んでるから、きっと手強いぞー」

「知ってる。頑張るよ」

照れもせず、堂々と言い放つハヤトに、男子グループはさらに盛り上がり、女子も黄色い悲鳴をあげた。

「ハヤト君、男らしいーっ」

それらに紛れて、舌打ちや「何でオリビアみたいなガリ勉がいいの?」等という声も小さく聞こえてくる。

「おい、この際ここで告白しちまえよハヤト」

ハヤトが背中を叩かれる音がする。

(はい、そうなるわよね)

ここまで来ると冷静になるしかなかった。しかし彼の返事が、そうさせてくれない。

「悪い、もう告白はしてるんだ。何回も断られてるけど。昨日もさ、河原で…」

「ハ、ハヤト!」

   嘘、あの事喋っちゃうの?

たまらず立ち上がり、ハヤトを制止する。お願いだから、それ以上何も言わないで。

「…河原で言ってみたんだけど、ダメだった」

ハヤトはオリビアの目を見ながら、ゆうべの戦いと、その後の事を伏せて話した。ハヤトと今日初めて目を合わせてしまい、顔が一気に紅潮する。

「まだ分かんねぇって。今もう1回試してみろよ」

「え」

地獄の時間は終わらない。男子たちは面白がって、無責任に煽った。

「そうだ、やってみろ!」

「ほら、オリビアもチャンスあげてやれよ」

「い、いや、やめてよ」

男子に向かって必死に拒否していると、目の端で立ち上がるハヤトの姿が見えた。

「分かった」

そのまま真っ直ぐこちらへ歩いてくる彼がスローモーションに見える。周りの冷やかす声さえも遠くに感じる。もうどうしようもない状況に、オリビアの思考は完全に停止した。

「オリビア」

彼が目の前まで来た時、教室のスライドドアがガラリと大きな音を立てて開いた。

「ごめんなさい!印刷に手こずってしまって…授業始めましょう」

「……………」

大量のプリントを抱えた教師が現れ、クラスは静まり返った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

溺愛婚〜スパダリな彼との甘い夫婦生活〜

鳴宮鶉子
恋愛
頭脳明晰で才徳兼備な眉目秀麗な彼から告白されスピード結婚します。彼を狙ってた子達から嫌がらせされても助けてくれる彼が好き

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

処理中です...