29 / 66
[才能の乱用編]
29話 誰も知らない本性
しおりを挟むオリビアは周りの騒がしさをものともせず、お気に入りの窓際の席で1人復習に励んだ。このところ全く集中出来ていないため、授業でも分からない所が出てきてしまったのだ。
焦るオリビアにとっては、今が自習中である事はチャンスだった。同じ教室内に、彼女のように真面目に勉強をして過ごす者などほとんどいないが、それがかえってやる気を引き出した。
しかし、ゆうべの記憶が邪魔をする。散々体をいじられ、その相手が今も同じ空間にいると思うだけで落ち着かない。彼の手や舌の感触を思い出してしまうと、魔法学の教科書の文章は頭に入ってこなくなった。
幸いハヤトの席は後方で、さらにオリビアのほとんど対角線上にあるため、顔を見ずに済んでいる。
(どうしてこんなことになったんだっけ…)
オリビアは手元の羽根ペンに目を落とした。黄色く染まるこれは、以前彼から貰ったものだ。
──あの頃はもう少しまともだったと思う。昨日だって、途中までは普通に会話出来ていたような気がする。優しい言葉をかけて貰った時は確かに嬉しかった。なぜあの人はあそこで止まれないのだろう。
ハヤトの毎度の暴走にうんざりする。しかし、なぜだかこれを手放す気にもなれない。
「はぁ…」
大きくため息をついていると、横から金髪を高く結んだ女子生徒に声をかけられた。
「よくやるわね」
「ん?あ、サラ」
サラはオリビアのノートを覗き込んで「凄…」とつぶやいた。彼女はオリビアが突然遊ぼうと誘ってきたり、そしてまた勉強の日々に戻った事に何も触れず、変わらず接してくれた。
「勉強も隠れないでするようになってきたのね。どうせならもっと頑張りなさいよ。せっかく良い成績なんだから。また1位取るんでしょ?」
「ええ……ありがとう」
微笑んで返す。サラとは常に一緒にいなかったとしても、お互いの好きなものを尊重し合えるいい関係になれると確信した。
「あれ?何それ、可愛いじゃん」
サラは羽根ペンに気付き、しげしげと眺めた。
「これ?あ、ありがと。貰ったの」
「…誰に?」
サラの目がキラリと光る。
「あ、えっと、それは…」
その時、離れた席で騒ぐ声が聞こえた。その大きな音に反応してサラと2人で見ると、何人かの男子生徒が、1人が雑誌を広げた机に群がっている。何やら、大人の本について話しているようだ。
「俺、この間買ったわ」
「うわっ、マジかよ、見せろ見せろ」
「これにさ、付録の魔法をかけるとなんと………動かせるんだぜ……!!」
興奮しきって一斉に大騒ぎする彼らの様子に、サラがため息をついた。
「何やってんの。教室で」
「あはは……確かに」
オリビアも苦笑いをしながら眺めていると、グループの1人が再び声を張り上げた。
「おいハヤト!お前も見ろよ、これ!」
(!)
彼らは、ハヤトにも声をかけたようだ。オリビアは焦り、ハヤトを視界に入れないように前へ向き直した。しかし気にしないようにしたいが、どうしても耳に入ってしまう。ハヤトがイスを下げて立ち上がる音がする。
「あぁ、それね。知ってるよ」
ゆうべ耳元で何度も囁かれた声がして、オリビアはさらに鼓動を激しく鳴らす。
「な!?すげぇだろ?」
「そうだね」
ハヤトは、いつものように落ち着いた口調で答えた。
「え?お前それだけ?」
「あんまりこういうの興味無いんだよ」
さらりと答えつつ、自分の席に戻る。その言葉にオリビアは耳を疑い、我慢ならず勢いよく振り返った。そして、思わず「どの口が!」と叫びそうになるのを、とどまった。危うく、魔法学クラス全員の前で昨日の事を口走るところだった。
「お前、ほんと掴めねぇな」
声をかけた男子は期待した反応を得られずに、つまらなそうにイスにもたれた。
一連のやり取りを見ていたサラが、興奮した様子でオリビアを振り返った。口元を隠すように手を当て、小声で話しかける。
「聞いた?オリビア、ハヤト君紳士そうだよ!良かったねっ」
眉を楽しげに釣り上げ、ウィンクする。
「……………何が」
「もうっ!聞いたわよ!ハヤト君に告られたんでしょ!?早くOKしちゃいなさいよ、絶対オリビアの事大事にしてくれるよ、あれ!」
「……」
ハヤトが自ら言いふらした事が原因で噂になっている話は本当だったようだ。目を輝かせるサラには、彼にはもうすでに何度も襲われているなんて口が裂けても言えなかった。
「何?まだ嫌なの?成績のこと?もういいじゃない。こだわり過ぎよ。オリビアって意外と理想高いんだねぇ、あんなに優しそうなのに」
サラが呆れた様子で言う。
「ええ……まぁ、それもあるんだけど……別の問題があって」
「?」
「なんでもない…」
サラにはオリビアが遠い目をしている理由が分からなかった。不思議そうに首を傾げていると、またも男子のグループは騒ぎ出した。 よりにもよって大きな声で、全員に聞こえるように、1人が叫ぶ。
「あっ!!分かったぞ、ハヤトお前、オリビアの前だから格好つけてんじゃねえのかっ!?」
オリビアは突如出てきた自分の名前に驚愕する。ここから容易に想像出来る展開に、青ざめた。
13
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる