24 / 66
[才能の乱用編]
24話 望まぬ非公式レース
しおりを挟むその後も他愛の無い話を延々と繰り返したあと、ステラ、クリスティと別れ一人部屋にぐったりと戻ったオリビアは、思った。
自分にはこの生活は合わない。友達との付き合いは、どうにも気疲れしてしまう。やはり自分は、図書館で勉強する方が性に合っている。
正直に言うと、遊んでいる間もずっと勉強の事が頭にあった。ペンを握っていないと落ち着かない。刺激的な遊びやカフェタイムもいいけれど、人にはそれぞれ自分に合った生き方があるのだ。今回の事はいい経験となった。これは前向きに生かしていこうと結論付けたが、何故かため息が出る。
「私って、友達もうまく作れないのかしら…」
寂しくないと言えば嘘になる。皆のように、魔法学会の特集チャンネルよりもラブロマンスのドラマの方が面白いと言えたら、どんなに盛り上がれるか。学業と遊びを割り切って青春を謳歌出来たら、どれだけ楽しいか。
才能のあるハヤトを素直に凄いと思えたなら、どれほど気が楽か……
「…ちょっと勉強、サボりすぎちゃったわね」
無理矢理頭を切り替えた。そろそろいつもの自分に戻ろう。ハヤトの件は明日にでもまた、別の対策を講じればいい。
そう考えたが、もう図書館は閉館の時間だ。しかしまだ寝るほど遅くもない。
──久しぶりに、ホウキの飛行練習でもしてみよう。
オリビアは制服の上から上着を羽織り、宿舎裏手の広場に出た。
***
「カーブでどうもスピードが落ちるのよね…」
辺りには誰もいなかった。冬の寒さが身に染みるが、この静寂にホッとする。空に上がり、目標を定めて何度も往復してみる。しかし、なかなか上手くいかない。今年こそはハヤトに勝ち、再び1位の栄光を手にしたいというのに。
「やっぱり難しいわ……」
もう一度、もう一度とやり直している内に、気が付けば日は完全に落ちていた。月明かりに、白い息が映える。ホウキの柄には普通科カラーの黄色いラインが入っているはずだが、暗くてそれも見えづらくなってきた。
それでも最近のモヤモヤした気持ちを振り払うように一心不乱に練習を重ねる。何もかも上手くいかないのが悔しくて、空中で「もう…」と小さく声を出していると、突然後ろから声が聞こえた。
「僕が教えようか」
「ぎゃあっ!!」
驚きのあまり叫んでしまう。振り返ると、今まで避け続けてきた男の姿が目の前にあった。
「ハヤ…な、なんで、ここに」
上手く喋れない。
「君がホウキで飛んでいるのを宿舎の窓から見つけたのさ」
「びっくりさせないでよ…!落ちちゃう所だったじゃない!」
オリビアはハヤトに背を向けて飛び始めた。逃げるためだ。急いで高く舞い、スピードを全開にする。2人きりは避けたかったのに、見つかってしまった。
「待ってよ!」
ハヤトの声がした。
「来ないで!」
「僕は君と話がしたいだけだ」
「嘘!!」
恐怖でホウキを掴む手が震えるが、夜の空を闇雲に飛んで逃げた。彼を振り切れるとは思えないが、拒絶の意志を感じ取って欲しかった。
ハヤトが追ってくる風の音がする。
「ねぇ、オリビア!」
「絶対に嫌!!」
「……分かった」
ようやく後ろを飛ぶ気配が消えた。チラッと振り返っても何もいない。しかし諦めたのかと安心して前に向き直ると、すぐそこにハヤトが浮いているのが見えた。
「きゃああ!!」
急ブレーキをかけて止まり、暴れる心臓を押さえつける。全く分からなかった。いつの間に追い越されたのだろうか。
「僕には敵わないよ」
ハヤトが勝ち誇ったように目を細めた。オリビアは先程の練習の疲れもあり、降参するしか無かった。
「わ、分かった。話しましょう」
「とりあえず、降りようよ」
ハヤトに促され、そのまま真下の地上へ降り立つ。必死で飛んだので、ここがどこだか分からない。
「はぁ、はぁ…ここは……」
暗くてよく見えないが、息を整えながら辺りを見回すと、川が確認出来た。河川敷のような場所だろうか。
「そう遠くないんじゃないかな。校舎も向こうに見えるし、心配無いよ」
ハヤトは笑顔だ。全く息切れしていない。
「……はぁ」
「せっかくだから、ちょっと座ろうよ」
ハヤトが指差した先には、ベンチがあった。ぽつんと立っている細長い外灯に、こうこうと照らされている。
オリビアは渋々従った。最悪だ。また捕まってしまった。
14
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる