上 下
17 / 66
[才能の乱用編]

17話 もう何でもいいから

しおりを挟む
次の日、オリビアは寝不足で授業に出席していた。色んなことがありすぎて、ゆうべは眠れなかったのだ。

オリビアを疑った生徒は、自分たちのしたことも忘れ、すっかり元の雰囲気に戻っている。オリビアは気持ちが落ち込みそうになったが、自分の非を認め、一からやり直そうと誓った。

普通科のクラスにはハヤトがいないからまだ集中出来たものの、選択科目の魔法学では特別進学科の彼もいるため、意識せずにはいられない。

先生が背中を見せたタイミングで、オリビアはハヤトの顔を盗み見た。至って普通の顔つきである。何を考えているのか分からない。

(ハヤトの思考が理解出来ないわ。普通、告白して断られたら、そこで諦めるのではないの?)

──昨日のハヤトはおかしかった。あんな風に迫られたのは初めてだった。思い出すと、頬が熱くなる。出会った頃ほど嫌いじゃなくなってきたけど、今、好きと言うのも違う。

そんな迷いがあるから、もう少し時間をかけてハヤトを知りたいと思っていたところのこれである。

オリビアとしては一応きっぱり断ったつもりだが、ハヤトが聞いてくれないので困ったものだった。

(結局、他の人も来てうやむやになってしまったけど、どうしよう…ああ、でもOKしたくない。悔しい。だって、ハヤトよ?私がどんなに努力しても届かない、平気で私を置いてく憎らしい人。まぁ、羽根ペンは嬉しかったけど…)

オリビアの理想の相手は、自分に憧れを持ってくれて、こちらが主導権を握れるような人なのだ。素直でおだやかで、一緒に勉強して……。

(それにしても、あの人は私のどこがいいのだろう。遊び人って聞くし、誰でもいいのかな…うん、それならあの強引なやり方にも納得がいくわ…)

「…さん!ポットさん!」

ハッとして顔を上げる。

「はっ!はい!!」

まずい。ありえない。ボーッとしてしまった。先生は教科書のページを示した。

「この薬草の特徴を言ってください」

「えっと……」

しまった、とオリビアは口に手を当てる。考え事をしていて全く内容を聞いていなかった。

周りの生徒がクスリと笑う。オリビアは恥ずかしくて顔が赤くなった。オリビアにとって、これほど屈辱的な事はない。授業で当てられて、答えられないなんて。

「すみません、分かりません」

「ポットさん。あなたが分からないのは珍しいですね。集中するように。代わりに誰か、答えてください」

先程まで笑っていた生徒たちが、先生から目を逸らした。

ただ1人、ハヤトが手を上げた。

「はい。この植物の特徴は、葉の形が丸い事で、その丸さは1日に2回変化する。朝には葉先が上を向き、夜になると下に向く。また、朝の時間帯は青みがかった色をしている、です」

「正解。完璧です。さすが、期待を裏切りませんね、ヤーノルドさん」

オリビアは唖然とした。周りからも感嘆の声が上がる。まるで模範解答だ。なぜハヤトはここまで頭が良いのだ。オリビアはこの場にいる事が嫌になった。感情がよく分からなくなっている。睨みつけたかったが、クラスメイトたちに態度が悪いと指摘された翌日だ。さすがに昨日の今日でそれは出来ない。

──それなら、絶対に断ってやる。

オリビアはそう決意し、拳を握りしめた。何でもいいから優位に立ってみたかった。

授業はまだ続く。今度は、生徒それぞれに与えられた薬品棚の管理方法を学ぶ。オリビアは反省して、集中した。薬品はさすがにボーッとしていると危険だ。今度はなんなく出来ると、オリビアはホッとした。

「次、魔法薬の精製を行います。薬品棚から好きな物を選んで、自由に作ってみてください。評価が終わったら、飲んでも構いませんよ。ただし、自己責任で」

いよいよ実践の時間。オリビアは、得意な魔法薬を作る事にする。

「では、始めて」教師がそう言うと、みんなが一斉に作り始めた。オリビアは自分の作業に没入する。作るのは何でも良いとの事だったので、少しレベルの高い回復魔法をかけたハーブティーにした。

「上出来だわ」

隣の席の生徒にも凄いねと言われ、オリビアはようやく気持ちが落ち着いてきた。こうやって自分の力を褒めて貰えると、オリビアはいつも元気になれた。

「ねぇ、見て。凄くない?」

近くの女子グループが騒いでいる。

オリビアは自分の事かと嬉しくなって、振り返った。

「え?これのこ…………あ」

女子たちはオリビアではなく、ハヤトを見ていた。

「こんなの初めて見たかも……」

「すごいね……」

他の生徒たちからもハヤトに注目が集まっているようだ。ハヤトは次々と調合をこなしていく。薬草の組み合わせが絶妙で、他の人がやっているのとは全く違う。ハヤトはどんどん材料を混ぜ合わせていく。

「はい、3つ目」

あまりの速さと完成度の高さから、歓声が湧く。オリビアは、肩を落とした。もういい。ヤケになって、今しがた作ったばかりのハーブティーを飲み干す。回復魔法がかかり、疲れが癒されるはずだが、効いている気がしない。その上先生に提出するのを忘れていたため、もう一度作り直すことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...