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[告白まで編]
7話 正々堂々と嫉妬する
しおりを挟むオリビアのチームは、次々にコート外へ送られていく。他の生徒も奮闘しているが、ほとんどはハヤト頼みになっている。
ハヤトは、なぜかオリビアを避けるように、彼女の周りにいる生徒に当てていった。
「オリビア!ハヤトくんには当てられないってば!他の人も狙ったらー!?」
サラがベンチで足を組み、叫んだ。彼女は、終始きゃあきゃあと逃げ回っていたが、早々に女子生徒が飛ばせたボールに当たっている。
「いや!絶対当ててやる!」
オリビアは上手く魔法をつかいこなすが、ハヤトしか狙わないため、せっかくの戦力が生かせない。
「お…おい、オリビア、あんな感じだったっけ…?」
「いや…?もっと清楚なイメージだったような…」
周囲にどう思われるかなど、もう気にもしていない。しとやかな振る舞いよりも、ハヤトに打ち勝つことの方が重要だった。
ハヤトも、もはや魔法の力ではなく、自身の身体能力でオリビアのボールを避け始めていた。その方がオリビアの反応が良いからだ。
「ハヤト!せめて魔法を使いなさいよ!」
「君のボール避けるのに魔法なんかいらないよ」
「!!」
どこまでもおちょくってくるハヤトに、オリビアはさらに怒りを覚えた。
そうこうしている内にも、オリビアのチームが減っていく。
「ハヤト強すぎないか?」
「なんかムカつくな。あいつばっかり活躍して」
コート外で暇そうに試合を見守る男子生徒2人が、話している。
「俺さ、あいつのこと嫌いなんだよな。いつも澄ました感じで」
「お前も?俺もだよ。いっつも余裕で笑ってて、何考えてるのか分かんねえし」
「つーか俺、好きな子取られたんだけど。ほら、前言ってた子、ハヤトに告ったんだって。そしたらハヤトがOKしたらしいぜ」
「うわ、あいつあの子のこと好きだったの?」
「いや、それがなんか噂で聞いたんだけど、前の学校でも結構遊んでたらしい」
「うわうわ、じゃ誰でもいいんだ。引くわ」
「だろ?最悪だよ」
「あ、じゃあさ、ちょっと見てろ」
男子生徒は、試合中のハヤトに向かってこっそり杖を振った。目には見えないが、小さな衝撃波がハヤトを襲う。ハヤトは、オリビアのボールを避けようとしている所だった。
「いたっ」
ハヤトは足を押さえたが、なんとかボールに当たらずに済んだ。
2人は「うまいじゃん」とニタニタ笑っている。
「えっ?ちょっと、ハヤトに何かした?」
オリビアが2人の様子に気が付き、コートの外に向かって声をかけた。2人は悪い顔で笑いながら親指を立てて、オリビアを応援した。
「くくっ…オリビア、俺たちが応援してやるよ」
「さっきみたいに顔狙え、顔」
なんとなく、彼らの雰囲気で、オリビアは察した。
「やめなさいよ。あなたたち、悔しいなら自分の力で戦ったらどうなの」
オリビアが男子生徒たちを叱りつけた。
「何言ってんの?俺たちなんもしてないよ」
「そうだぞ。証拠はあるのか?」
「……」
その時、向こうからボールが飛んできた。オリビアは慌てて避けた。
「どうしたの?」
ハヤトは男子たちの企みに気が付いていない。
「あっ…いえ…とにかくあなたたち、余計なことしないでね」
オリビアは再び試合に集中する。
しかし、その後も2人からハヤトへの嫌がらせは続いた。オリビアがボールを当てようとすると、一瞬だけ風圧をかける。そして、動きを変則的にさせた。ハヤトはボールの行方を予測出来なくなり、苦戦し始める。
「?オリビア、急に上手くなったね…?」
ハヤトは不思議そうに首を傾げた。
「え?私は今まで通りだけど………あっ」
オリビアは2人の仕業だと気付いた。
「ねぇ!だからそんな事されても困るのよ!やめてってば!」
「はぁ?」
「なんの話だよ」
「嘘!絶対ハヤトのこと妨害してる!そんなことされて勝っても嬉しくない!」
オリビアは、必死に抗議した。ハヤトがそれを見ている。他の生徒も、なんだなんだとざわめいた。
「あ、そういうこと?オリビア、僕は大丈夫だよ」
ハヤトは、穏やかな口調で言った。
「ハヤトは黙ってて!私が気に入らないの!!ねぇ、あなたたち、ズルして勝って、何が嬉しいの!?お願いだから、真剣に勝負させてよ」
オリビアは怒りを抑えられない。
「だから俺たち何もしてないって。あーもう、分かったよ。大人しく見てるから」
2人は降参したように言った。
「もう…じゃあ、試合再開よ」
気がつくと、コート内はオリビアとハヤトだけになっている。1対1の対決だ。
ボールがあるのは、オリビア側。ハヤトも杖を構えている。
オリビアが、ボールを飛ばす。妨害が無くなり、またまっすぐ飛ぶようになった。ハヤトは杖を振り、そのボールを叩き落とす。オリビアが投げたボールが、地面に落ちた。
「やった!」
「よし!次で決着だ!」
外野の生徒達が歓声を上げた。
「じゃあ、いくよ。オリビア」
オリビアがごくりと息を飲んだ。
「ええ」
その時、オリビアの目の端で何かが光った。先程の2人組が、懲りずにハヤトに向かって攻撃を繰り出そうとしていた。
オリビアはとっさに走った。ハヤトの前に出る。彼女の体に衝撃波が当たった。
「あっ」
オリビアは後ろに倒れ、尻餅をついた。ハヤトは、驚いて彼女に駆け寄った。
「えっ、オリビア?大丈夫?」
「いったぁ……」
魔法を仕掛けた男子生徒2人は、オリビアを見て慌てた。
「おい、お前のためにしてやったのに、邪魔するなよ?」
オリビアは2人を睨みつけながら、膝を立たせて立ち上がった。
「…あのねぇ。私のこと、馬鹿にしないでよ。私にあなたたちの協力なんて、必要無いわ」
2人とも、驚いた顔をしている。
「なんだよ。お前のこと応援してやってんのに」
「ハヤト!早く投げてよ」
オリビアは2人を無視して、ハヤトを急かした。
「あ、ああ…いいの?怪我してない?」
「いいから!ほら、ハヤトの番よ」
「分かった」
ハヤトは戸惑いながらも杖を振る。今までよりかなり手加減されたスピードのボールが、オリビアに飛んでくる。
オリビアは簡単に避けられるつもりであったが、先程受けた衝撃のせいで、よろけてしまった。ボールはオリビアの右脇腹に当たった。
「!……あぁ…」
試合終了だ。ハヤトのチームが勝ち、彼らは一斉に盛り上がった。
オリビアたちが最後の方で何やら揉めてたことに不思議がりながらも、皆素直に喜んでいる。
「あーあ。オリビアが飛び出さなきゃ、俺たち勝ってたのに」
ハヤトを妨害しようとした男子生徒がオリビアに文句を言った。
「仕方無いわよ。ハヤトにイラつく気持ちは分かるけど、こんなことしなきゃ勝てないのなら、どちらにしろ負けよ」
「オリビア…」
一部始終を見ていたサラが、ベンチで微笑んだ。
ハヤトも、仲間たちとハイタッチを交わして勝利を喜んだあと、オリビアの元へ来た。
「さっきはありがとう。僕を守ろうとしてくれたんだろう?」
オリビアは、気まずそうな表情をしている。
「いえ…あの2人が、卑怯なマネをするのに腹が立ったのよ。勝ちたいなら、自分の力で頑張ればいいのに。ズルした上に私任せ。情けないわ」
「僕、妨害とか慣れてるから、大丈夫だったのに。痛かったろ?」
「平気よ。それより、次は負けないから」
「うん。でも、意外だな」
「?何が」
「何でもない」
ハヤトは笑顔で言った。
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