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第四章 非公認のカップル
エピローグ 汚名返上
しおりを挟む「杖持った?」
「もちろん。早く行きましょ」
このところ調子が良い。最初の1体を倒してしまえば、後は早いものだった。オリビアは早々にゴブリン退治のコツを掴み、今日もハヤト以上に勇ましく戦いの場へホウキを飛ばす。しかし、ハヤトの目に映るのは不機嫌な姿だった。
「オリビア、顔が怖いよ?怒ってる?」
「当たり前じゃない。誰かさんのせいで、学校に居辛くなったのよ!信じられない、ハヤトがヴィランヌにロー……変な断り方するから!!」
ヴィランヌがあの日のハヤトの常軌を逸した発言だけを切り取り、面白おかしく周囲に話してしまったため、オリビアは以前にも増して注目を浴びる結果となってしまった。
「でもさ、ああ言わないと解放してくれないと思って」
「分かるんだけど!普通に私が好きだからって言って断ってくれたのかと……!!」
性癖をさらけ出す作戦は周囲の視線を気にしないハヤトにとっては良い策だったが、オリビアにとってはとんでもない悪手だった。
「ごめんって。だけどさ、もうこれであんな事は無くなるはずだよ」
「そうでしょうね!!変態カップルに近づきたい人なんていないわ!!ああもう、何てこと……」
教師に依頼された討伐対象のゴブリンは5体だが、すでにオリビアは喋りながら3体目を消し炭にしていた。
(しかもハヤトは冷やかされれば冷やかされるほど嬉しそうにするし。心臓どうなってるの?)
「落ち着いてよ。これで依頼も済んだし、休憩する?お茶用意するよ」
ハヤトも残った個体に見もせずに杖を振り、あっと言う間に倒す。
「自分で持ってきたわよ!あなたの淹れる紅茶はトラウマだわ」
「大丈夫だって。惚れ薬は入れないから。もう不安になったりしないよ」
ハヤトは切り株を見つけ、そこに腰を下ろしてオリビアにも促した。杖を振ると、簡易テーブルと紅茶のセットが住宅街にほど近いこの森の中へ現れる。
「……………」
強がっても、逆らえない。オリビアは苛立ちを抑えながら彼の隣に座った。どれだけ魔法薬を盛られても、大好物なのだ。オリビアにハヤトの淹れる紅茶を手放す事は出来ない。
「美味しいね。やっぱり先生と来てた頃より、オリビアと一緒に来る方が楽しいよ。頼りになるし。ありがとう」
「……うん」
ハヤトの笑顔とお気に入りの香りに丸め込まれ、オリビアの怒りはしぼんでいく。
(でも結局、そのおかげでハヤトの思惑通りヴィランヌも諦めてくれたのだし、あんまり強くは言えないわね……)
しかしながら、もっと他にやり方は無かったのだろうか。オリビアの中に答えは見つからない。
「さて、そろそろ帰るか。オリビア、疲れてない?」
「…ええ、平気よ。早く先生に報告しましょ」
ごちそうさま、と立ち上がろうとした時、オリビアの座る前にハヤトが立ちはだかった。
「オリビア、この後ちょっと出掛けない?映画とか」
「ええ、いいわよ?見たいものでもあるの?」
図書館に勉強に行くと言わないオリビアの返事に、目を細める。
「やった。じゃあさ、せっかくだし再挑戦してみようか」
「え、何を?」
きょとんと彼を見上げるオリビアの前にハヤトが広げた手に乗せたのは、オリビアを悩ます噂の原因となったそれだった。小さくつるんとしたフォルムとそこから伸びるコード。電源を入れると振動すると思われるそれは明るいピンク色をしていて、大自然の中で見るにはどうにも不釣り合いだ。
「変態カップルの名に恥じないデートにしようよ」
「えっ……ちょっと、何考えてるの。やめてよ」
オリビアは目を白黒させてハヤトをぐいぐいと押すが、全く動こうとしない。
「この前は断られて悲しかったんだよ。今度はそうはさせないよ」
「どうしてそんなに外にこだわるのよぉっ!この……ド変態!!」
立ち上がりたいが、足の間にハヤトの足が割り込んで、逃げられない。
「外にこだわってるんじゃなくて、オリビアの嫌がる顔が見たくて言ってるんだ。しかもさ、僕なんて奥手だ、とか言われていたんだよ?そっちの方が心外じゃないか。だからそんな事言っても無駄だよ。誰も助けは来ない」
ハヤトは自慢の杖をオリビアに向けた。彼の笑顔は有無を言わせない。オリビアには今のハヤトが、ゴブリンより、ワルフよりも、悪人の顔に見えた。
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