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第一章 一念発起
2話 デートに行けない代わりに
しおりを挟むオリビアやハヤトのように学校併設の宿舎で暮らす生徒は、ほとんどがここの食堂を利用していた。
ミネストローネと、食堂こだわりの焼きたてパンにサラダ。人気セットの争奪戦には勝利した。オリビアも大好物のはずだが、彼女は今、まるで雑草でも食べさせられているかのような顔で食事をしている。
オリビアが週末の開放感あふれるひとときを楽しめないのも無理は無かった。恋人繋ぎで校内を歩き回るカップルがいようものなら、クラスメイトでなくても、放っておくはずがない。
「今どき『ヒューヒュー』なんて言う人、まだいるのね…」
他人事のように呟く。それを言われたのが自分たちである現実が受け入れらない。穴があったら入りたい気持ちで、味のしないスープをすすった。
ただでさえ、最近のオリビアたちは注目の的であった。校内イベントである、先日の式典後のパーティーでハヤトに大声で愛を叫ばれ、キスまでされてしまったのだから、こうなる事は簡単に予想出来た。一緒にいるだけでも視線を浴びるようになってしまったのに、さらにハヤトが見せつけるような振る舞いをするため、周りの生徒は俄然面白がっている。
「そうだね。もう僕たち公認だね、オリビア」
嬉しそうにスープを飲み干すハヤト。どれだけ冷やかされようとも全く気にしない心臓の強さを、心底羨ましく思う。彼は目立つ事が好きだから、むしろ本望なのだろう。
「ハヤト、ああいう事は、2人の時だけにしてくれないかしら…」
オリビアがそう言った途端、ハヤトがピタリと動きを止め、スプーンを置いて真剣な表情になった。
「だったらさ、もっと2人きりの時間が欲しいんだけど」
「毎日一緒にいるじゃない。図書館とか。今日も一緒に行くでしょ?」
(ハヤトったら。また放置された、とか言い出すの?)
この人の要求は度が過ぎているのよ、とオリビアが心の内で毒づいていると、彼は言った。
「他は?」
「え?あ、あと、あなたの部屋…とか」
「あとは?」
いつになくこちらを責めるような口調で、試すように見てくるハヤトの視線から目を逸らす。
「ええと……その……」
もう出てこない。だんだんと声が小さくなっていく。オリビアは墓穴を掘った事に気が付いた。
「ほら、無いだろう。僕はもっと出掛けたりもしたいんだよ」
ハヤトは勝ち誇った顔で腕を組んだ。
「ええ…分かってるけど、もうすぐテストがあるから…」
「君、いつもそればっかりじゃないか」
「でも、そうしないとまたあなたに負けちゃうもの」
オリビアは申し訳無さそうに、それでも言い訳を述べる。
彼女の成績はかつては頂点であったが、転校してきたハヤトにすぐに抜かされた。今では学年2位という現実を受け入れながらも、彼を追い越して再び1位になる日を夢見ていた。
ハヤトもそれが分かっていて、彼女の努力する姿に惹かれたため、図書館に入り浸って勉強ばかりするオリビアに今も強く言えないでいる。そうこうしている内に付き合い始めてから3ヶ月が経とうとしているのに、2人は未だにデートらしいデートをした事が無かった。
しゅんと静かになったオリビアを見て、ハヤトはフッと笑った。
「仕方無いなぁ。じゃ、多少はこうしてもいいって事だね」
ハヤトは対面の席から身を乗り出し、オリビアのフォークを持つ手首を掴んだ。
「あっ」
ぐいっと自分の方に寄せて、刺さっていた野菜を口に含む。
「はい、ごちそうさま」
「……っ」
耳まで顔を赤く染めるオリビアを見て、ハヤトはさらに笑顔になった。
「やっぱり、まだしばらくデートに行けなくてもいいや。今なら何しても文句は言えないだろうからね」
「うう…恥ずかしいんだってば、ばかっ」
「え、バカ?僕何位なんだっけ、成績」
「~~~~~~っ!!」
オリビアは下唇を噛み締め、声にならない叫びを上げた。
「ああ、最高。君、本当に可愛い」
今日もたっぷりと彼女をからかいきったハヤトが、笑顔のまま幸せそうに立ち上がる。いつものように食後のコーヒーを2人分淹れようと、杖を取り出した所で、ふと食堂の入口の方へ目をやった。オリビアも彼の視線の先を追うと、誰かが彼に手招きしていた。
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