放置した彼女は溺愛彼氏におしおきされたりする

第三章 立場大逆転

18話 返り討ちには

オリビアは、手を口に当てて驚いた。てっきりハヤトは魔法でバリアを張り、ワルフの攻撃を防ぐと思っていた。だが、彼は杖を使わなかった。彼の拳を、顔に受け入れた。

「………ごめん」

ワルフはすぐに謝る。ハヤトは、殴られた体勢のまま、しばらく呆然としていた。オリビアも、固まっている。
中庭の向こうのダンスホールからは軽快なナンバーが小さく漏れているが、ここでは恐ろしい程に静かな時間が流れた。

「ハヤト、ごめん。人の彼女に手を出そうとしたのは事実だよ。次はお前の番だ」

腹を括ったワルフが、両手を広げながら言う。

「お前が強いのは知ってるよ。さぁ、やれよ」

「ハヤト…」

オリビアが、心配そうにハヤトを見る。ハヤトが杖を振り上げたのを見て、ワルフは目を瞑った。そして────────

「………………いや、いい」

ハヤトは、杖を下ろした。

「………」

ワルフは目を開け、ハヤトを見る。

「………ワルフ。僕がいない間、彼女を支えてくれて、ありがとう」

オリビアは、驚いた。あのハヤトが折れるなんて…。信じられないと、目を丸くした。

「……仕方ねぇな。オリビアの事、もう泣かせるなよ」

「ああ」

「今度悲しませたら、その時は俺が貰うから。お前は知らないだろうけど、俺、2回目なんだぞ？お前に好きな人取られるの。本当は許したくないんだからな」

「…分かったよ」

「オリビア」

「えっ？あっ、はい！」

急にワルフに名前を呼ばれ、オリビアはビクッと肩をすくめた。

「そのドレス似合ってるよ。すごく可愛い」

「え、ええ…………あの、ワルフ」

「何？」

「ありがとう……怒ってくれて」

「ああ、いいよ。ごめんな、彼氏に酷い事した」

「いいのよ。ちょっとスッキリしたわ。それに、ハヤトが勝負で負けたの、あなたが初めてじゃないかしら」

「えっ、そうなんだ」

「あなたの真剣な拳に、相当堪えたみたい」

オリビアはふふ、と笑った。

「そりゃあ、良かった」

ワルフは嬉しそうだ。ハヤトとオリビアを交互に見たあと、今度こそ中庭を去った。ワルフが人混みの中に消えていったのを見届けて、2人はベンチに座り、夜空を見上げた。