終焉実験都市

森 茉菰

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一章 死が始まり

0.終焉時

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雨と雪が混じるみぞれ空と、冷えた風が肌を伝う午前9時頃。

高層ビルが立ち並ぶ都市の一角。
タワーマンションの屋上でタバコの白い煙を吐きながら一人の青年は傘も差さずにただ町を静かに見下ろしていた。

そんな青年とは対象的に町は通勤ラッシュの人々で慌ただしく、交通機関や話し声、雨音が激しく騒音を鳴らす。

いつもと変わらない風景。
いつもと変わらない騒音。
いつもと変わらない日常。

黄昏の最中そんな考えを一瞬でかき消すほどの声量で叫ぶ女性の声が後方から聞こえた。
「イツキー!?」

なんでだろう?
一番聞き覚えがあるはずなるのに、どこか懐かしいそんな気がする。

そう思いながらイツキと呼ばれたその青年はゆっくり振りながら言った。
「どうしたの母さん?」

イツキの目に写ったのは予想通り母親の姿だった。
優しい目に少しテンパが混じる長い黒髪、そして太陽の様な笑顔がいつも素敵だった。
しかし今の母は目を赤くして、今にも泣きだしそうな悲しい目をしていた。

「イツキ・・一体ここで何してるの?」
何かを察している様な母親はこちらに向かって来ながらそう言った。
その足取りは寒さからの震えなのか、それとは別に理由があるのかとても弱弱しかった。

「何ってただ昔を思い出していただけだよ。それにいよいよ全てが終わるのかってね。」
イツキは少し笑顔を見せながら言った。

「今からでも遅くないよ、帰って朝御飯食べよ!そうだ、映画とか見るのもいいかもね。それにえっと家族でキャンプとかも行きたいな。だから・・・戻ってきてイツキ!」
少し早口で苦笑いを浮かべつつも涙を零し、震えた声でそう言いイツキの手を握る母。

そんな温かい母親の手をイツキはたださすって何も言わなかった。

「もう・・何言ってもだめなんだね。」
イツキの悲しそうな顔を見て自分の思いが届かないと悟った母親は悲しそうにそう言った。

「ごめんね母さん苦労ばかりかけて。」
そう言ったイツキの目にも少し涙が見えた。

「私はただただあなたを愛してる!」
そう言いながら強くイツキを抱きしめる母。

イツキも同様に母親を抱きしめ「僕も愛してる」と返した。

みぞれ空、雲の隙間から天が顔を出し、明るい日差しがをスポットライトの様に照らす。
「もう行くよ!」とイツキが一言。
町行く人々がタワーマンションの方を指差し、唖然とした表情を浮かべ足を止めた。
一瞬静かになった町に一つの鈍い騒音と遅れて人々の悲鳴が響き渡った。
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