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セカンドエピソード ~魔界戦争~

62.緊急警報

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「陛下!!筆頭が……筆頭がブッ倒れちまったッス!!」

大柄のロージュがゼノを担いで走った。ゼノは気を失い目を閉じたままだ。

「なにぃ~?おい医療班!どうなってる、あの傷は治ったはずじゃ無かったのか?」

あの傷。カルダロースに刺された、肩に受けた牙突である。

あの時も同じように倒れ、ゼインファードを初めとした皆がゼノを心配した。だがその実、すぐにゼノは回復し戦線に復帰した。全員の脳裏から忘れさせてしまうほどに、彼は闘い抜いた。

だが、今再び彼は倒れたのだ。

「は、はい。陛下、確かにゼノ様はあの時複数人の治癒魔法によりその傷を癒しました」

「だったらなんで倒れた、すぐに調べろ!」

ゼノが別のテントへ運ばれていく。しかしこれは今の妖魔軍にとり大打撃であることは否めなかった。

戦力がもともと鳥魔軍に劣る彼らに、ゼノという指揮官を失うことは今作戦において決定的とも言えるダメージなのだ。

「陛下……作戦は中止ッスか……?」

「中止?ロージュ君、戦はもっと大局的にものを見なけりゃ勝てないぞ。俺達はこのまま当初の作戦通りに敵本国に奇襲を仕掛ける!各員そのままで待機!」

こうして、進軍の用意を進めたままに妖魔軍はほんの少しの足止めを受けることとなった。だが、ここでもしゼノが戦線に復帰できなければ、全軍の士気に関わる問題である。

それに、四天王が半分に欠けている今。その筆頭であるゼノまでもが欠けることは、大きな戦力の損失を意味していた。

「医療班!どんな具合だね」

「陛下、これは……治癒魔法ではどうにもならぬはずです。これは麻痺の呪文です……それも、かなり強力なもの」

「麻痺の呪文だァ?」

「はい。おそらくあのカルダロース、ゼノ様の肩に牙突を放ち剣を通してゼノ様の内部から発動させたものと……既にゼノ様の体内で呪文は完成し、何かをきっかけにして発動するやっかいな呪文になっています。治癒魔法では防ぎようがありません……」

「……かけられた呪文を治すためには、術者を殺す事しかねえ。つまりカルダロースを殺さなければゼノは回復しねえ……そして発動条件は、一定の距離までカルダロースが近づいてくること……よし」

ゼインファードはその場を後にし、幹部達と地球の三人を召集した。

「ゼノのヤツはちょっと容態がすぐれねえ。今すぐの戦線復帰は無理だと判断してここに置いていく。その上で、護衛をつける。地球の三人!少し部隊をまわす、ゼノを守ってやってくれ」

「え、陛下!いくらなんでもそれは……自分が任されるッスよ!地球の三人って」

ロージュが飛び出した理由は、バンバスたちにはわかっていた。

ゼノという男の命を、よそ者に預けていいのか、という不安があるからこその判断である。だがそれは至極当然であり、責められるものではない。むしろ、それが正常な感覚だ。

「まあ落ち着け、ロージュ。ゼノに続いてお前までが前線から離れたらこの作戦は成功しねえぞ?俺はこの場にいる全員を信頼している、だからロージュ、お前はゼノに代わり全軍の指揮をとれ」

「えっ、陛下が指揮とるんじゃないんスか??自分が?」

「俺は後方で転移させる為に魔力を溜めとかないとならんからな……それは無理だ。頼りにしてるぜぇ?」

かくして、作戦は発動された。まだ空も漆黒に包まれる中、全軍はゼインファードの転移魔法により彼方へと姿を消し、残ったのは少しばかりの妖魔部隊と地球の三人、そして動けないゼノだけである。

「……なあバンバス、どう思う?」

「どう、とはなんだ」

「この戦争、勝てると思うか?実の所俺は……」

「……それはもはや、流れに身を任せるしかない。戦争だからな……」

底知れぬ、正体のわからない不安がこみ上げてくるのを抑えつつ、夜明けを待つばかり。その間、ゼノが回復しないかと何度か医療班のもとを尋ねるも依然として回復する見込みがない、とのこと。

「……陛下は、混乱を避けるために黙っていろと仰っていたが」

「ああ、今もカルダロースはこの近辺に潜んでいることになる……だがどういう訳か、魔力の索敵には引っかからない、どうしたものか」

医療班のメンバーはゼインファードから念入りに口止めをされていた。ゼノがかけられた呪文は、術者が近くに来ることで発動するもの。それならば、おそらくカルダロースは今なおこの近辺にいる、と、ここまではゼインファードが話した通りである。

だが、それを一言一句違わず全員に話したとて、どうなるだろうか。これから敵本国に向け作戦を開始するにあたり、そんなことを話せば不要な混乱を招き集中を欠く事となる。

この場の護衛部隊においても、それを伝えればプレッシャーと動揺に駆られ精神的に疲労することだろう。

「せっかくの機会だ、ヴァックス。剣の稽古でも軽くつけてやる」

もし敵が接近してきた場合は、妖魔の魔力による索敵で知らせてくれる。バンバスはヴァックスにそう語りかけた。

「は、はい。お願いします!」

腰にさげた妖魔の剣を握り、久しぶりにバンバスに稽古をつけてもらおうと意気込んだその時である。

「敵、敵が来るぞーーーッッッ!!」

向こうで妖魔兵が声を上げたのだ。一瞬にして場は凍りつく。

「クソッ、おい!敵の数はどれくらいだ?!」

「バンバス殿!しかしそこまでは多くないようです……おそらくは兵力差としてはほぼ互角かと!」

互角。なまじ互角であるだけに、ここで判断が鈍った。

闘うべきか、逃げるべきか?

その判断が鈍り、敵の接近を許してしまったのだ。

「く……おい分隊長!兵士達に各個撃破にあたれと命令してくれ、俺達も闘う!」

一応、この部隊を預けられた際に部隊の長も残ることになっていた。ので、バンバスはその旨を分隊長に伝え、ゼノの寝ているテントへと急いだ。

「クソッ……!」

勢いよく中へ入る。そこに居たのは、紛れもない、カルダロース。不死の鳥魔であった。









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