66 / 122
セカンドエピソード ~魔界戦争~
51.迎え撃つは剛剣
しおりを挟むヴァックスが名も知らぬ鳥魔兵を斬り伏せていた頃、宮殿付近でも動きがあった。というのも、先の百名の潜入隊とは別の部隊が姿を現し妖魔兵を次々に倒していったのだ。おかげで宮殿付近の警備は弱化し、敵の増援を許す結果となってしまった。
これを宮殿内のゼインファード達が知ったのは事が済み敵が宮殿の正面扉から攻め込もうとしている、まさに最中であった。
「ちぃ……侵入口を別に開けられたか?取り敢えずロージュ!お前行って迎撃して来い!」
「了解っス!!うひょおー、腕がなるっスねェーーー!!」
命令を受けてはしゃぐ子供のように飛び出して行ったロージュに、どこか不安を覚えてかバンバスも加勢しようと身を翻した。
「おっと、バンバス。お前さんは行かない方がいいな……巻き添えをくうぞ」
「巻き添えを……?あのロージュという男、広範囲の技を得意とするタイプなのか?」
「いやあ、そうじゃねえ。あいつが得意とするのは乱戦だ。敵も味方もあったもんじゃねえ、斬って斬って斬りまくるのが得意なのさ。邪魔すると悪いだろ?せっかく今の今までここで待機してもらってたのは、こういう不測の事態の為なんだからな」
確かに体格は四天王の中でもずば抜けている。しかしどうだろうか、いわゆる城門突破を図るほどの部隊が攻め込んで来ているのに単身でそれの撃破に当たる、というのは。
「まあ心配なら窓から見てろよ。あいつはとんでもねえ奴だからなー……反則みたいなもんなんだけど」
そう言われ、窓から顔を出して下を覗き込んでみる。そこにいるのは、百ではきかぬ数の鳥魔兵であった。
「しかし……なんでこいつら翼で飛んでこない?わざわざ正面から突破しようなんて随分と律儀じゃないか」
「ゼインファード王の魔力障壁の影響だ。どうしても発動者が近くにいるとそのあたり一帯の方が影響が強くなるからな。連中も上空に飛ぶ事ができないんだ」
ゼノのいう通り、確かにこの辺りは上空に展開されている魔力障壁よりも強い気がした。と言っても、色合いの話しかできないので確証はないのだが。
ともあれ、今はなんとか妖魔兵がこの軍勢を抑えているが、見ている限りでは時間の問題というところだろう。圧倒的数の暴力である。
そこへ、一人の男が登場した。
「ふうう~~~……ういッス、鳥魔兵の方々……俺ロージュが相手になるッスよ!!」
「な、なんだあいつ、正面から堂々と出て行ったぞ、どうするつもりだ」
後ろでゼインファードが大あくびをしている。それほどの実力者なのだろうか。いや、確かに見た目的な意味合いではナンバーワンなのだが。
「行くっスよー……ふうううんんぬッッッ!!」
ぐるうん、と片手で轟音を放つほど勢いよく振り向かれたのは、そもそも二メーターはあろうかというロージュよりも大きなサイズの、それでいて太さもある、巨大なブレードだった。その一撃が恐ろしかったのは、初撃が命中した後もその速度と威力を落とさぬまま、まるで豆腐でも切るように一閃、剣の届く範囲の敵を横真っ二つにしてしまった事である。
まさに地獄絵図な光景が広がっていたが、バンバスは自分にはない剣の力を感じた。
まさしく一騎当千の剛剣。瞬抜流には無い剛の技である。
「おおっと、逃げられないっスよ?ふううんッッッ!!」
その有様をみて距離を置こうと退いたその隙を逃さず、ロージュが次に取った行動。
それは、大剣を思い切り投げる、であった。想像してほしい。ブーメランのように唸りをあげてニメーター以上ある刃物が、とてつもない勢いで迫ってくるのだ。
たちまちその鳥魔兵達も恐怖から動けなくなり、後はもはやロージュのペース。
ブーメランの如くすっ飛んで行った大剣が三人ほど貫いたあたりでロージュが飛びつき、柄を握る。そのまま前方の鳥魔兵の頭を鷲掴んで地面に叩きつけ、大剣を横方向に振り抜く。
たったこれだけで、ここまで三十秒とかかっていないのだが、しかし撃破した鳥魔兵の数、およそ二十。
血塗られた表情が、悪魔的である。
「ふうう~~~……まだやるッスか?自分はまだまだイケるっスけどね」
しかし、これが魔人の力なのだろう。人とは比べられない力。こんな実力者が四人集まったのが、四天王なのだ。
「完全に勝負は決したな。恐怖が体の芯から湧き上がってきている、もはや剣もまともに握れまい」
バンバスの観察は当たり、直後に鳥魔兵達は剣を捨て投降した。逃げることも叶わないと考えたのだろう、懸命である。
「な?ロージュ君は強いんだって。うちの四天王なんだからな」
しかしこの力があれば、別段助力など求めずとも良かったのでは無いのだろうか?というバンバスの疑問はすぐに解消された。
「そりゃおまえ、向こう側にもそれなりに腕の立つのはいるからなー。四天王が軍勢蹴散らして終わりってことなら楽だけども。まあなんだ、そう簡単にいかねえのが戦争ってこった」
そうだ。これは戦争だった。
ズバ抜けた実力の持ち主が多い方が勝つのなら、歴史的にも結果が違う戦争はいくつもある事だろう。だが実際はそうではない。国としての財力や資源、兵力、策略、様々なものが交錯し勝敗を分けるのだ。なにも正面からの殴り合いだけが戦争ではない。
あまりにズバ抜けた闘いを目の当たりにして、つい勘違いをしてしまったが本来戦争とは一人や二人の英雄の力でどうになるものではないのだ。それが四人でも同じ事である。
「しかし、俺に取っても無駄な時間ではなかった。良いものを見させて貰ったぞ」
「ほう?お前の流派はロージュの剣術……というにはあまりに荒いが、しかしそれとは正反対のものなのではないのか?」
「俺に取っては全ての剣は吸収材料だ。どんなものもそれが有益ならばな」
剣の道に終わりなし。それがバンバスの信条であった。
そう言えば、とバンバスは思い出す。
「ヴァックスに剣の稽古をつけてやると言って、未だなにもしてやれていないな……良い機会だし稽古をつけるか……」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる