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セカンドエピソード ~魔界戦争~

51.迎え撃つは剛剣

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ヴァックスが名も知らぬ鳥魔兵を斬り伏せていた頃、宮殿付近でも動きがあった。というのも、先の百名の潜入隊とは別の部隊が姿を現し妖魔兵を次々に倒していったのだ。おかげで宮殿付近の警備は弱化し、敵の増援を許す結果となってしまった。

これを宮殿内のゼインファード達が知ったのは事が済み敵が宮殿の正面扉から攻め込もうとしている、まさに最中であった。

「ちぃ……侵入口を別に開けられたか?取り敢えずロージュ!お前行って迎撃して来い!」

「了解っス!!うひょおー、腕がなるっスねェーーー!!」

命令を受けてはしゃぐ子供のように飛び出して行ったロージュに、どこか不安を覚えてかバンバスも加勢しようと身を翻した。

「おっと、バンバス。お前さんは行かない方がいいな……巻き添えをくうぞ」

「巻き添えを……?あのロージュという男、広範囲の技を得意とするタイプなのか?」

「いやあ、そうじゃねえ。あいつが得意とするのは乱戦だ。敵も味方もあったもんじゃねえ、斬って斬って斬りまくるのが得意なのさ。邪魔すると悪いだろ?せっかく今の今までここで待機してもらってたのは、こういう不測の事態の為なんだからな」

確かに体格は四天王の中でもずば抜けている。しかしどうだろうか、いわゆる城門突破を図るほどの部隊が攻め込んで来ているのに単身でそれの撃破に当たる、というのは。

「まあ心配なら窓から見てろよ。あいつはとんでもねえ奴だからなー……反則みたいなもんなんだけど」

そう言われ、窓から顔を出して下を覗き込んでみる。そこにいるのは、百ではきかぬ数の鳥魔兵であった。

「しかし……なんでこいつら翼で飛んでこない?わざわざ正面から突破しようなんて随分と律儀じゃないか」

「ゼインファード王の魔力障壁の影響だ。どうしても発動者が近くにいるとそのあたり一帯の方が影響が強くなるからな。連中も上空に飛ぶ事ができないんだ」

ゼノのいう通り、確かにこの辺りは上空に展開されている魔力障壁よりも強い気がした。と言っても、色合いの話しかできないので確証はないのだが。

ともあれ、今はなんとか妖魔兵がこの軍勢を抑えているが、見ている限りでは時間の問題というところだろう。圧倒的数の暴力である。

そこへ、一人の男が登場した。









「ふうう~~~……ういッス、鳥魔兵の方々……俺ロージュが相手になるッスよ!!」

「な、なんだあいつ、正面から堂々と出て行ったぞ、どうするつもりだ」

後ろでゼインファードが大あくびをしている。それほどの実力者なのだろうか。いや、確かに見た目的な意味合いではナンバーワンなのだが。

「行くっスよー……ふうううんんぬッッッ!!」

ぐるうん、と片手で轟音を放つほど勢いよく振り向かれたのは、そもそも二メーターはあろうかというロージュよりも大きなサイズの、それでいて太さもある、巨大なブレードだった。その一撃が恐ろしかったのは、初撃が命中した後もその速度と威力を落とさぬまま、まるで豆腐でも切るように一閃、剣の届く範囲の敵を横真っ二つにしてしまった事である。

まさに地獄絵図な光景が広がっていたが、バンバスは自分にはない剣の力を感じた。

まさしく一騎当千の剛剣。瞬抜流しゅんばつりゅうには無い剛の技である。

「おおっと、逃げられないっスよ?ふううんッッッ!!」

その有様をみて距離を置こうと退いたその隙を逃さず、ロージュが次に取った行動。

それは、大剣を思い切り投げる、であった。想像してほしい。ブーメランのように唸りをあげてニメーター以上ある刃物が、とてつもない勢いで迫ってくるのだ。

たちまちその鳥魔兵達も恐怖から動けなくなり、後はもはやロージュのペース。

ブーメランの如くすっ飛んで行った大剣が三人ほど貫いたあたりでロージュが飛びつき、柄を握る。そのまま前方の鳥魔兵の頭を鷲掴んで地面に叩きつけ、大剣を横方向に振り抜く。

たったこれだけで、ここまで三十秒とかかっていないのだが、しかし撃破した鳥魔兵の数、およそ二十。

血塗られた表情が、悪魔的である。

「ふうう~~~……まだやるッスか?自分はまだまだイケるっスけどね」

しかし、これが魔人の力なのだろう。人とは比べられない力。こんな実力者が四人集まったのが、四天王なのだ。

「完全に勝負は決したな。恐怖が体の芯から湧き上がってきている、もはや剣もまともに握れまい」

バンバスの観察は当たり、直後に鳥魔兵達は剣を捨て投降した。逃げることも叶わないと考えたのだろう、懸命である。

「な?ロージュ君は強いんだって。うちの四天王なんだからな」

しかしこの力があれば、別段助力など求めずとも良かったのでは無いのだろうか?というバンバスの疑問はすぐに解消された。

「そりゃおまえ、向こう側にもそれなりに腕の立つのはいるからなー。四天王が軍勢蹴散らして終わりってことなら楽だけども。まあなんだ、そう簡単にいかねえのが戦争ってこった」

そうだ。これは戦争だった。

ズバ抜けた実力の持ち主が多い方が勝つのなら、歴史的にも結果が違う戦争はいくつもある事だろう。だが実際はそうではない。国としての財力や資源、兵力、策略、様々なものが交錯し勝敗を分けるのだ。なにも正面からの殴り合いだけが戦争ではない。

あまりにズバ抜けた闘いを目の当たりにして、つい勘違いをしてしまったが本来戦争とは一人や二人の英雄の力でどうになるものではないのだ。それが四人でも同じ事である。

「しかし、俺に取っても無駄な時間ではなかった。良いものを見させて貰ったぞ」

「ほう?お前の流派はロージュの剣術……というにはあまりに荒いが、しかしそれとは正反対のものなのではないのか?」

「俺に取っては全ての剣は吸収材料だ。どんなものもそれが有益ならばな」

剣の道に終わりなし。それがバンバスの信条であった。

そう言えば、とバンバスは思い出す。

「ヴァックスに剣の稽古をつけてやると言って、未だなにもしてやれていないな……良い機会だし稽古をつけるか……」









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