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セカンドエピソード ~魔界戦争~

49.大軍団

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妖魔宮殿内。

あれから無事に帰還したゼノ、バンバスの両名は大至急謁見の間に向かった。無論それは襲撃してきた鳥魔兵のことについてや、空けられた侵入経路であるあの穴の事について報告する為である。

「ゼインファード王、四天王ゼノ帰還致しました」

「ああーいい、よせよせ。毎度そんな堅っ苦しく挨拶せんでいい。それより、何があった?お前は何を見た」

「鳥魔兵に関しては、上級兵では無く恐らくは中級兵が派遣されていたものと。これは戦闘能力を加味した上での意見です。奴らの動きから察するに、別働隊が動いていると考えるのが妥当かと」

ゼインファードは深く頷いた。そこまでは読み通りなのだ。だがどういう狙いなのかは分からずじまいである、というのが問題である。

「それで……穴のほうはどうなってたんだ?エアのやつが応援信号を出してきたってことは、状況はあまり宜しくねえ事になってるんだとは思うがよ」

「は。今現在も充分に侵入経路として活用できるサイズの穴が空いており、塞がる見込みがありません。自然に元に戻ることは無いかと」

「ほー……連中何をしたんだろうな?エアやお前が現場を見てもわからなかったのか?」

「はい。痕跡らしきものは何も無く、まるで当然のように穴が空いておりました。まずはあの近辺に拠点を構え、防衛体制を敷くべきかと」

そこでバンバスが動いた。ここまでついてきたのも、彼なりの動機があってのことである。

「待て。ゼノ、界王。俺に妙案がある、聞いてもらえないか?」








「それじゃあお前は、あの穴を放置し特別警戒態勢も敷くことはしないべきだと?本気か?」

「ああ、本気だ。戦争などしたことは無いが、あの穴は使えるぞ」

バンバスの妙案とは、つまりこう言うものだった。

塞がらない穴に戦力を割くことはせず、あえて何もすべきでは無い。そこに敵の混乱を招くカギにもなれば、万が一攻め込まれてもあの穴から潜入できる数などたかが知れている。連中の狙いが別にあり、今回の騒動を利用してこちらの戦力分散を目的としているのなら、なおのことそうすべきでは無い。

それを、バンバスは見てきたことや肌で感じてきたことから伝えた。

「……成る程な。一理ある、が、ここでそれを受け入れ決定!と言うわけにもいかない。これでも民を守る王なんでな……しかしゼノ、お前はどう考える」

「私は、いえ。確かにそうかも知れませんが、少々強引過ぎるのでは、と。そのやり方では無為な犠牲が出ることもいとわないと言うようなものです。なれば、ここはやはり……」

「自分も、バンバスさんの意見は納得できるっスよ」

ここでゼノを遮りロージュが声をあげた。ゼノが少々不機嫌そうな顔で睨んだのはゼインファードにしか見えていない。ロージュとはそういう男である。

「自分なりに考えてみたっスけど。連中、こういう穴をこれからどんどん色んなポイントに空けようとしてるんじゃないっスかね……だとしたら、ここはバンバスさんのいう通り戦力分散はマズいんじゃ……」

ロージュの言う事、これはもう最悪の事態である。もしこれが現実となれば、原理の分からぬ防ぎようのない侵入を次々に許す上に四方八方からの攻撃が襲うこととなる。そうなれば守りきれるわけもないのだから。

「ふーむ……だがここは一旦様子を見る。どうにも俺にはそれだけのようには思えないんでな。しかし参るな、この状況は常に先手を打たれ続ける……」









場所を変えて再び潜入経路、問題の穴の地点。

待機中のエア、ティム、ヴァックスの瞳に映ったそれはとんでもない光景だった。

つまり穴の向こう側。妖魔の防衛管轄外から、無数の黒い点が迫って来ている。

ではこの無数の黒い点とは一体何か?

考えるまでもない。鳥魔兵の大軍勢だろう。

「ッ!!これはまずいよ~……!!大至急こっちに応援をもらわなきゃね~~~!」

再びエアの手から応援信号が放たれる。はるか上空で煌々と煌めくそれは、宮殿へも届いているだろう。だがしかし間に合うだろうか?

「ここは退避するか?!俺たち三人ではとても相手に出来る数じゃないぞ!」

「退避……?しないよそんなの~!この穴から少しでも連中の侵攻を遅らせるよ~!あ、でもティムくんにヴァックスくんは逃げてくれても構わないけれどね~」

そう言うとエアは穴の向こう側へ飛び出し、全身に魔力をみなぎらせ始めた。だが明らかに攻めくる数は先ほどの百などという単位ではない。

夜空に煌めく星のように、数えることすら嫌になるほどの数が迫ってきているのだ。

「ええいくそ、こうなりゃヤケだ」

ティムも穴を抜け、銃を構える。

「……何のつもりなのさ?ティムくん」

「遠距離からの狙撃は俺にとって本職みたいなものでね。数は減らせるぜ」

上着を脱ぎ捨て、全てのマガジンを地面に置いた。徹底抗戦の構えである。

「ヴァックス!お前は逃げるんだ、逃げて宮殿へ行ってこのことを報告しろ!」

「で、でもそんな……俺だって……」

「わかれ、ヴァックス。思うだけでは、敵は倒せない。今のお前では……何も出来ない」

それは、彼の心を貫くに充分すぎる言葉だった。

お前では何も出来ない。

それはそうだ。勿論、ヴァックスにだってそんな事はわかっていた。だが、どうだろう。わかっていた事でもあえて人から言われるとこうも違うのだ。

全てを否定されたような気分である。

全てを失ったような気分である。

「……わ、わかりましたよ……行きますよ、行けばいいんでしょ!」

無我夢中で走り出し、その途中でヴァックスは自分を笑った。

これではまるで、駄々をこねる子供である。

「……厳しい言い方するね~ティムくん。彼、傷ついたみたいだよ~」

「……死ねば、傷ついて泣くこともできない。自分の無力さを呪うことも、それを指摘した者を恨むことも出来ない」

「君って……聡明なのかな?」

「聡明?だとしたらここに残っちゃいない。それにあれは……ヴァックスは、俺の親友の忘れ形見……だからな。あいつまで闘いの中で死なせるわけにはいかない。例え恨まれても、憎まれても、あいつは弱いままで……」

強いことで死んだ親友。

強いことで死んだ父親。

どちらも闘いの中でその強さ故に死んでいった。強くなければ、闘うことも無かっただろう。だが、あの二人は最後まで闘い抜き、そして終わらせたのだ。

あの日。

火口に互いの体が落ちていったのを遠目から確認した時。

ティム・シルバーは強くなることをやめ、普通の人として生きていくことを決意したのだ。

「なのに……またこんな事になるとはな。俺もお人好しだよ、こんな見ず知らずの戦争に肩入れするなんてよ」

「さてティムくん、お喋りはもう終わりにした方が良さようだよ~。俺は魔法で撃ち落としていくからね~」








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