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セカンドエピソード ~魔界戦争~
48.奇妙な穴
しおりを挟む同日、魔力障壁の穴の現場。
二、三メートルほどの穴がぽっかりとあいているのをエアは確認した。徐々にふさがり始めているようだが、しかし妙である。
本来魔力障壁は、こうして穴が開けられたとしてもすぐに修復し穴が塞がるものなのだが、侵入を許してからすでに一時間以上は経過しているというのに未だこのサイズの穴が空きっぱなしというのは異常である。
「う~ん。なにか別の力が干渉しているのか~?でもそうとも思えないしな~……どういう原理で穴を空けたのかもわからずじまい、か~……」
エアは四天王の中でも魔力の扱いに長けた妖魔である。だからこそ、ゼインファードも現場の確認を任せたのだろう。しかしどうにもわからないのは、そこには何も確認出来ないということだ。
つまり何らかの兵器を使用して穴を開けたにせよ、魔力でどうにかしたにせよ、痕跡があるはずなのだがそれらしきものは何も無いのだ。まるで、自然に穴が勝手に空いたかのように。
「おかしいな~……現場確認をしてさらに混乱することになるとはな~……どうする、一度戻るかな~」
しかし、この場を離れるわけにもいかないのも事実である。何せこれだけのサイズの穴が未だに空いているのだ。敵の第二陣が潜入してくる可能性を完全に否定できない以上、不用意にここを立ち去るべきでは無いだろう。
「仕方ない、応援信号を飛ばすかな~」
そう言って天に手をかざし、その手のひらに魔力を集中させていく。と、思った時にはすでに魔力の凝縮弾は空に向け打ち上げられ、天高く上空で炸裂した。
「陛下!エア様から応援信号です」
「……ふーむ、何か異常事態が起きたって事か……仕方ねえな、ゼノ達を向かわせろ、第二部隊はそのまま周囲の警戒を。万事うまくやれと伝えろー」
「ハッ!!」
慌ただしく伝令が走り去っていく。この状況はゼインファードでも予想していなかったことであった。
「……どうなってるのかね、全く。ヤツらも本気ってわけか」
「陛下ァ、ここは自分も出るッス!自分、黙ってらんねっスよ!!」
「あのな、ロージュ。お前まで外に出たら万が一ここに攻め込まれた時に誰がここを守るんだよ。アズアズにも別働隊として外に出てもらったしよ、お前だけが頼りなんだぜ?」
ゼインファードがそう言うとロージュは満足気な表情で頷いた。だがこのロージュ、基本的に黙っているというのが難しい性格ゆえにあまり騙し騙しも効かなくなることはわかっている。
だが、ゼインファードの読みは違うところにある。
「……どうにもキナ臭え。連中が馬鹿でもこんな無為な作戦に打って出るとは考えにくい」
「どういうことなんスかァ?陛下」
「つまりだ、こんなことしたってすぐ発見されて潰されるのが目に見えてるだろうが。本当の目的は別にある……そう考えるのが妥当だろうよ……ま、どうにもならねえ時はどうにもならねえんだけどな!」
ハッハッハ、と豪快に笑うゼインファードであるが、その本心はあまり突っ込んだ事を言うとまたロージュが我慢出来なくなるであろうという所から来ていた。
「さて、何が動いてるのか。頼むぜオメーら……」
「な、なんだこれは」
「おかしいですよね~筆頭、俺だけじゃどうにも対応出来ないと思って~……という訳で、この状況を筆頭、報告してきて欲しいんですよ~」
ゼノ達とエアが合流し、すぐにその異常事態を目の当たりにした。だんだん縮んでいるようで、その実すぐにまたその分広がる、といった光景を、エアはゼノ達が到着するまでずっと見ていたのだ。
だんだん縮んでいるからそのうち塞がるだろう……という目測は見誤りであったのだ。つまり、これをなんとかしなければならない。
「いいだろう。こっちの件も含め、私が報告に行く。地球の三人、お前達はエアと共にここに残れ」
「……待て、俺も行こう。気になることもあるんでな」
バンバスのその申し出に特に返事もせず、ゼノとバンバスは宮殿へ向かった。
「へ~、バンバス君、勇気あるなあ……まだ筆頭と知り合って間もないはずなのに、あんなふうに意見を言えるなんてな~」
そう思わない?とティムとヴァックスに語りかけるが、それについては二人は同意見だった。
「まあ、やつは物怖じしない性格だしね……それよりこの穴の先はどうなってるのか教えてもらえる?」
「う~ん、いわゆる未開の地、ってやつでね~。と言うのも、陛下の魔力障壁がここまでしか展開されないからなんだけど……それも今の妖魔の問題の一つなのさ~」
そう言えば、あの王はその身一つでこの妖魔界の魔力を補填していると言っていた。では、この魔力障壁を広げるにはその注いでいる魔力を増やすしかないのだろうが……。
「それは難しいんじゃないのか?素人目にも明らかな話だよ」
「そうなんだよね~。難しいっていうか無理だね~。ホントはさ、そんな事する必要ないんだけど……まあ妖魔界にも色々とあってね~」
何か濁されたが、しかしティムもそれ以上は追求しなかった。そこに関して特に協力出来ることがあるとも思えない。さらに言えば、戦争に手を貸している現状で充分やっている、と言える。
「とにかく筆頭が陛下に報告して~、次の司令が下るまでは待機だね~……ん……?」
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