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セカンドエピソード ~魔界戦争~

47.不穏な任務

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「ちっ、逃すか!!」

攻撃を受けてすぐに退避し本隊に知らせるためか、その五人の鳥魔兵はすばやく陣形を組み攻撃をして来ることはなかった。それを受けてゼノとバンバスがほぼ同時に飛び出す。

「っ、足を引っ張るなよ」

「ふん、一度俺に勝って自信を付けたようだな!」

すらり、と抜かれた短めの剣はゼノの手に吸い付くように彼の手に馴染んでいた。

すぐさま防戦体制を取る鳥魔兵だが、それよりもはやくバンバスが彼らの懐に潜り込む。

「久しぶりに瞬抜流を使う……ッ!奥義、旋風嵐せんぷうらん!!」

一瞬にして抜刀された刀から、刃の突風が吹き荒れる。その破壊力を持った疾風は彼ら鳥魔兵の鎧をあっさりと切り裂き、ゼノの言うコアがあらわになった。

「しっかり決めろ!」

「やかましいぞ、私を誰だと思っている」

初撃、剣で一人目のコアを貫く。二撃、余った手で二人目のコアを叩き割る。

三撃、すぐに剣を抜き回転斬り、三人目と四人目も撃破。

「さあ、残るは貴様だけだ……」

残った一人は声を上げることも無くその場で剣を握りしめている。それが焦りの表情なのかどうかはわからないが、平静を保っているわけではなさそうだ。

「ッ!!」

瞬間、最後の一人は空へと退避した。それは鳥の特権、背に生えた翼で、堂々と。

「ゼノ!」

「わかっている、焦るな。今魔法で撃ち落として……」

だがその魔法は発動する機会を失った。

なぜならば、宙に舞うその獲物を撃ち落としたのは他でもない、ティム・シルバーの拳銃だったからである。

「言ったろ?鳥ならば俺の格好のマトだってよ……」

ふらふらと重力に逆らえなくなったその鳥は、よく見るとコアを的確に撃ち抜かれバラバラに四散していた。

「……なんだこの威力は?私がお前の相手をした時はこんな威力ではなかったはず……」

そう、ティムがゼノに放った弾丸はここまでの威力を持っておらず、肌一つ傷つけることは出来ずに敗れた。

「そうだぜ、あの時は久しぶりのことだったしアンタの正体もよくつかめていなかったからな。エネルギーショットは封印していた、ていうか久しぶり過ぎて使えなかったってのが正しい所なんだけどな」

ゼノは考える。

あの時のこの二人は、本気ではなかったとでもいうのだろうか、と。

(いや、おそらくはあの時点で死力を尽くした結果だったはず……しかしこのバンバスという男もそうだが、今見た戦闘は明らかにあの時とは別人……ゼラはこれほどの実力を有していると呼んでいたのか……?)









「ふいっくし!ああー……俺の予想ではゼノの野郎が俺の悪口を言っていると見たね」

場所は変わり、宮殿内の謁見の間。四天王のゼノとエアは外に出たので今はロージュとアズの二人が脇を固めている。

「いやいや陛下、あの真面目な筆頭が陛下の悪口なんて言わないっスよ~」

「まあそれもそうだな、あいつはクソ真面目だからなァ……俺のこともゼラでいいと何度も……」

そんなロージュとゼインファードのやりとりを眺めながら、アズは考える。

このゼインファードの魔力障壁を破るために、一体どれほどの魔力が必要なのか?ということである。確かに全体を中和し打ち消すのでは無く、今回のように一部に穴を開けて侵入する程度ならば比較的安易かもしれないが、それはあくまで比較的、という話であるのだ。

現実的でないのである。

鳥魔族の中に、ゼインファードよりも魔力を多く持つものでもいれば別だが、しかしそれは妖魔族の、他の魔族とは違う特性からして不可能と言えた。

というのも、通常魔族が放つ魔力とは、彼らの持つコアから大気中に存在する魔力を吸収することで得られるものなのだが、こと妖魔族に関してはそうではない。

いや、そうでありそうでないのだ。

なぜならば、彼ら妖魔は魔力を自身で生み出すことも、コアから吸収する事も出来るのだから。一見して意味のない事のように思えるが、しかしここで一つ大きなアドバンテージが出来る。つまり、外からの魔力と内からの魔力、単純にプラスアルファで他の魔族よりも多量の魔力を扱える、ということである。

無論、全てが全てにおいてそうであるというわけではないのだが、しかしその象徴のような存在が現妖魔界王、ゼインファードである。

彼はおそらくこの魔界で最強の魔力を持つ男と呼び声も高いのは、コアからも、そして自身の精製も、どちらも卓越し圧倒的であるからだ。

まあ彼の場合は通常の考え方は当てはまらないほどレアケースである、と言わざるを得ないのだが。

「しかし陛下、よかったんスカ?地球人の三人も向かわせちゃって。荷が重いかもしれないっスよ」

ロージュがあっけらかんとして言う。至極当然の意見ではある。彼ら地球人が魔人に対抗するなど、本来であればあり得ない事なのだから。

「なーに、問題ねえさ……奴らは強いぜ、特にあのヴァックスって小僧、横の二人に紛れちゃいるが俺の見立てでは恐らく……」

その時。

謁見の間の扉がゆっくりと開き、一人の兵士がその場で膝をついた。

「おう、どうした?」

「申し上げます!ゼノ筆頭率いる第二部隊、及び地球人三名の働きにより迅速に侵入した鳥魔兵を撃破した模様!ゼノ筆頭はこのまま第二部隊を連れ周囲の警戒にあたるとのことです!」

な?とゼインファードがロージュに笑う。

「よーしよくやった!ご苦労、下がっていいぜ。さて、アズアズ!」

ギっとアズがゼインファードを睨む。

「おう、冗談だっての。そんな睨むな……いいか、お前にも特命を下すぜ」









「しかしどう考えているんだ、ゼノ」

周囲の索敵を行いながら、バンバスは口を開いた。

「俺たちは戦争の経験などないからわからないが……今回のこの奇襲とも言える潜入に、どれほどの意味があるんだ?随分とあっさり事態は収集したしな」

「うむ……それについては俺も思うところはある。だが、ハッキリとはわからないな。やつら鳥魔界が新たに開発した新兵器……つまりこの魔力障壁を破る兵器の、テスト運行……とも考えたが、しかしそうでもないらしい。もしそうなら潜入してくる意味がないからな……」

バンバスやティムも若干の混乱状態ではあったが、しかし最も複雑で状況が飲み込めていないのはヴァックスである。なにしろここまで戦闘もろくに役立てず、何か有益な意見を述べられる訳でもない。威勢良く助力するとは言ったものの正直肩身の狭さを感じざるを得ない状況である。

「しかしヴァックス、やけに静かじゃないか。もうずっと黙り込んで、どうしたんだ?体調でも崩したのか?」

その戦闘スタイルから後方をついて歩くようにしているティムが、ヴァックスに声をかけた。なにやら様子がおかしいと感じ取ったのだろう。

「い、いえ。何でもないです……俺、あの……」

「……言いたいことがあるのならハッキリと口にすべきだな。地球で言うコウコウセイ、というのがどれほど幼いのかは知らないがそうして黙りこくっているだけでは何も変わらん」

ゼノの、意外な一言である。無論、ヴァックスもそんなことはわかっている。だがどう説明できるだろう、この強者達に、自分の弱さをどうすればいいのかなど、一体どう伝えればいいというのだろうか。

「まあ、お前が何を思い、何を背負い、何をどうするか……結論はお前にしか出せないんだ。最終的には全てはお前自身だ。あの時、ゼインファード王に言った覚悟が本物ならば……ふさぎ込むな。立って前を見ろ、戦場ではそうやって心ここに在らずな状態のやつはすぐに死ぬぞ」

そう、ここは戦場なのだ。街並みが広がっている上、自身が戦闘に未だ参加していないから実感がわいてこないが、ここはもう、命の奪い合いを行う地獄で、その地獄に片足を突っ込んだのは紛れも無い、ヴァックス・クロノウ自身である。

(俺はまた、逃げ場を探している……覚悟を決めたつもりなのに、どこかに……)








同日、妖魔界下街某所。

「……容易いな、妖魔界。事の本質を見極められぬ者に待つは死……ゼインファード界王……あなたの時代は終わる、そして来るのだ」

「我らが界王、ジーグリード様の時代が」











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