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セカンドエピソード
番外編.こだわりの二輪 其の二
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「そういう事なら俺の仕事を手伝うか?それなりの金にはなるぞ」
最初に声をかけたのは街で偶然にも出会ったバンバスだった。今日は修行は引き上げて、早めの食事を取ろうとしていたようだ。
「とりあえず、奢ってやるから店に入るぞ。俺は腹が減っているんだ」
というわけで有無を言わさず店内に連れ込まれたヴァックスだったが、やぶさかではなかった。と言うのもそこは中華料理屋だったということで、クロノウ家では中華料理が一切出てこないのだ。そういうわけなのでヴァックスは産まれて初めての中華料理である。
「で、あの……バンバスさんの手伝いってことなんですけど」
「ああ。俺の仕事……知っての通り指名手配犯や犯罪者を捕まえて懸賞金を稼ぐのが主なんだが、それの手伝いだ。もちろん戦力的な意味合いとしてでだけではなく、細かい雑用もしてもらうことにはなるが……」
そう、このバンバスは自らの腕を鍛えるという利点と生活費稼ぎが一致した彼にとっての天職と言えた。その有能さゆえに遠い地方から救援要請がかかったりするほど名は知れ渡っている。そのお陰と、多くを望まない生活で資金は貯まる一方のようだ。
「それは……俺みたいのが戦力的な助けになれるとは思えないんですが……」
「俺の剣術・体術指南付きだ。そのへんのヘタなバイトよりは即金でしかも大量に稼げるぞ。ちょうど人手が欲しい仕事の依頼があったところでな……俺にとっても悪くない話なんだよ」
次々に運ばれてくる中華料理に舌鼓を打ちつつ、二人は話を進めていく。なんでもバンバスだけでもやれない事はないらしいのだが、二人いればなおやりやすいという話である。それ以上のことは決めてからでないと話せないと言われたが、しかしヴァックスにとっても悪い話ではない。というよりも願ったりかなったりだ。
なにしろ普通のバイトでは一ヶ月で稼げる額などたかがしれているが、この仕事なら一撃で十分な額が稼げる。それに知り合いの元で、修行まで付けてくれるというのだからサービス?も充実していると言える。
「決めようかな……ちなみにいつからの仕事ですか?それ」
「明日だ」
二人の間に静寂が訪れる。
「明日、だ」
バンバスはもう一度、最初よりも丁寧にそう言った。
かくして翌日。半ば選択肢を奪われたような形で仕事を手伝うこととなったヴァックスだったが、しかしそれでもやる気はあった。もちろん稼がなければならないというのもあったが、同時に身を守る強さくらいは身につけられると思ったからでもある。
早朝からバンバスと街中の喫茶店で合流し、朝食をご馳走になる。ハニートーストが絶品だったのは印象的であった。
「さて、移動は電気モノレールと、最後は徒歩になる。その間荷物を持ってもらうのと、その徒歩の間に剣術の基本を教えてやる。まあざっくりとにはなるがな」
そういって紅茶を飲むバンバスはとても優雅な佇まいであった。
しかしここに来ても仕事の内容を教えて貰えないというのは若干の不安要素ではあるのだが。それもバンバスが一緒ならば問題ないかと無理やりに押さえつけ、ハニートーストの最後の一口を口に放り込んだ。
「では行くか」
店内を出て駅へと向かう。出勤する人々でごった返している中、重厚なアタッシュケースを朝から二つ、両手に抱えて乗り込むのはもの凄く気がひけるがそうも言っていられない。なにしろこの一回で必要経費以上を稼げるというのだから、張り切らないわけもない。
周りの乗客達に嫌な視線を送られながらなんとか乗り込み、目的地へと向かう。この間にバンバスは一言も会話をしなかった。というより、目を閉じている。何か考え事をしているのだろうか?とヴァックスも特別声をかけることはしなかった。
ただ一つ、教えられていたことは、目的の街の名前である。
その名はドイン。行ったことはないが、のどかな自然に囲まれたいいところのようだ。良い意味で言えば。悪く言えば、田舎である。この復興と進化の時代において未だにあまり進化がない、古き良きの象徴とも言えた。
底知れぬ不安はあったが、しかしやるしかない。ヴァックスのお財布のライフを満たすために。
最初に声をかけたのは街で偶然にも出会ったバンバスだった。今日は修行は引き上げて、早めの食事を取ろうとしていたようだ。
「とりあえず、奢ってやるから店に入るぞ。俺は腹が減っているんだ」
というわけで有無を言わさず店内に連れ込まれたヴァックスだったが、やぶさかではなかった。と言うのもそこは中華料理屋だったということで、クロノウ家では中華料理が一切出てこないのだ。そういうわけなのでヴァックスは産まれて初めての中華料理である。
「で、あの……バンバスさんの手伝いってことなんですけど」
「ああ。俺の仕事……知っての通り指名手配犯や犯罪者を捕まえて懸賞金を稼ぐのが主なんだが、それの手伝いだ。もちろん戦力的な意味合いとしてでだけではなく、細かい雑用もしてもらうことにはなるが……」
そう、このバンバスは自らの腕を鍛えるという利点と生活費稼ぎが一致した彼にとっての天職と言えた。その有能さゆえに遠い地方から救援要請がかかったりするほど名は知れ渡っている。そのお陰と、多くを望まない生活で資金は貯まる一方のようだ。
「それは……俺みたいのが戦力的な助けになれるとは思えないんですが……」
「俺の剣術・体術指南付きだ。そのへんのヘタなバイトよりは即金でしかも大量に稼げるぞ。ちょうど人手が欲しい仕事の依頼があったところでな……俺にとっても悪くない話なんだよ」
次々に運ばれてくる中華料理に舌鼓を打ちつつ、二人は話を進めていく。なんでもバンバスだけでもやれない事はないらしいのだが、二人いればなおやりやすいという話である。それ以上のことは決めてからでないと話せないと言われたが、しかしヴァックスにとっても悪い話ではない。というよりも願ったりかなったりだ。
なにしろ普通のバイトでは一ヶ月で稼げる額などたかがしれているが、この仕事なら一撃で十分な額が稼げる。それに知り合いの元で、修行まで付けてくれるというのだからサービス?も充実していると言える。
「決めようかな……ちなみにいつからの仕事ですか?それ」
「明日だ」
二人の間に静寂が訪れる。
「明日、だ」
バンバスはもう一度、最初よりも丁寧にそう言った。
かくして翌日。半ば選択肢を奪われたような形で仕事を手伝うこととなったヴァックスだったが、しかしそれでもやる気はあった。もちろん稼がなければならないというのもあったが、同時に身を守る強さくらいは身につけられると思ったからでもある。
早朝からバンバスと街中の喫茶店で合流し、朝食をご馳走になる。ハニートーストが絶品だったのは印象的であった。
「さて、移動は電気モノレールと、最後は徒歩になる。その間荷物を持ってもらうのと、その徒歩の間に剣術の基本を教えてやる。まあざっくりとにはなるがな」
そういって紅茶を飲むバンバスはとても優雅な佇まいであった。
しかしここに来ても仕事の内容を教えて貰えないというのは若干の不安要素ではあるのだが。それもバンバスが一緒ならば問題ないかと無理やりに押さえつけ、ハニートーストの最後の一口を口に放り込んだ。
「では行くか」
店内を出て駅へと向かう。出勤する人々でごった返している中、重厚なアタッシュケースを朝から二つ、両手に抱えて乗り込むのはもの凄く気がひけるがそうも言っていられない。なにしろこの一回で必要経費以上を稼げるというのだから、張り切らないわけもない。
周りの乗客達に嫌な視線を送られながらなんとか乗り込み、目的地へと向かう。この間にバンバスは一言も会話をしなかった。というより、目を閉じている。何か考え事をしているのだろうか?とヴァックスも特別声をかけることはしなかった。
ただ一つ、教えられていたことは、目的の街の名前である。
その名はドイン。行ったことはないが、のどかな自然に囲まれたいいところのようだ。良い意味で言えば。悪く言えば、田舎である。この復興と進化の時代において未だにあまり進化がない、古き良きの象徴とも言えた。
底知れぬ不安はあったが、しかしやるしかない。ヴァックスのお財布のライフを満たすために。
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