ヒナの国造り

市川 雄一郎

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第9章・世界の歪み

竜太に死が迫る①

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アラドマウンテンの山道の途中の山小屋でヒナと松浦が出会ったのは意識がなく、傷だらけで倒れていた竜太であった。さすっても耳元で大声を出しても彼は目を覚ます気配を見せなかったのである。

「竜太さん、竜太さん、起きて…………竜太さんっっ!!!」

涙の止まらないヒナは必死で目を覚まさせようと竜太を起こし続けるも一向に動く気配すら見せない。

「ヒナちゃん、この怪我を見て分かったことだけど刃物か何かで切られている部分が4人の身体にあった。恐らく怪物とかじゃなくて人間の……しかも傷の様子から見て竜太さんに深い恨みがある者が3人を巻き添えにして竜太さんを襲った感じだよ。」

「竜太さん……何で……」

「過去に事件を起こしているからかなり恨まれていたのが分かる……しかも今携帯からネットの板(掲示板か)を見たら『悪いことしたから殺されて当然』とか『仲間揃って粛清されてやんの』とか竜太さんを心配しない声も多い。ただ、もしかしたら“彼と関係ない事件だけど彼を犯人に一応仕立てて復讐した”という可能性も否定できないな。」

「それだけ恨まれて嫌われて生きてきたのですね……可哀想ですね。」

「俺も犯罪者に同情するクチじゃないがこの人は生い立ちなどから普通のやつ(犯罪者)とは何か違うなとは思っていた。」

「私もそう思う……最初にビンタした時は竜太さんから見て“新しい敵”だという恐怖心があったかもしれません……」

「今だから言うね。ヒナちゃんとあったあの日の夜、面会にいくとね……『突然俺をしばいてきた女がいた。この世はどいつもこいつも敵だらけや!!もう世の中は腐ってやがるわっ!!』と言ってたよ。竜太さんの警戒心はとても強かったと思う。」

「(…………!!そういえば雪ちゃんだけは初対面で竜太さんを怖がらずに受け入れていたような気がする……だから雪ちゃんに会えてからあれだけ性格が変わったのかもしれないわ……)」

「竜太さんは護るものを持つようになったから今のような性格に変化したんだと思うよ。」

ヒナはここで確信した。雪が竜太を警戒しなかったことを彼は感慨深い気持ちで受け止めてそんな彼女と仲間であるヒナ達を護りたいという気持ちに駆り立てたのだと……そして意識を失っている竜太に寄り添うと目の前が真っ黒になったのである。


ヒナが目を覚ますとビルの管理室のようにたくさんのモニターが写っていたのである。すると一つ一つのモニターに映像が流れはじめたのである。


暗い顔をしながら街中を歩く竜太に対し、街の人々が辛い言葉を浴びせていた。

『やーだ、犯罪者だわ。』

『性格悪そうな顔をしているな。』

小さな女の子が竜太に手を振っているのを彼が気づいて手を振ろうとしたら女の子の母親が彼女の手を引っ張ったのである。

『犯罪者とは関わってはいけません!!』

一瞬うっすらと笑みを浮かべていた竜太はまた暗い顔に戻り、静かに街を歩きつづけたのであった。


別のモニターには飲食店に行こうとした彼の姿がうつる。

『すみません、まだ店は開いてますか?』

おとなしそうな竜太が地元のレストランに入るといかつい表情の店長が現れて竜太に怒鳴り付けたのである。

『いつもなら『開いてる』と言いたいところだが、お前は犯罪をおかしている!!お前、さっさと帰れ!!』

そう言われて他の店を探しに行くもきつい言葉を浴びせられたのである。

『あんたに食べさせる料理はないよ!!』

『この街から消え失せろ犯罪者!!』

『アホ、ボケッ!!』

どこの飲食店も商売人とは思えない暴言を浴びせてきては店に入れてもくれない。すると竜太は空腹で倒れたのである。飲食店のやり取りのモニターが一旦暗くなると少年時代の竜太が無の黒い空間の中にいたのである。

『あ……お父さん……』

彼の目の前には男性がいたのだ。しかし男性は彼の方を一瞬振り向いただけでどこかへ歩みを進めていったのである。

『お父さん!!お父さん!!』

竜太は父を追いかけるも見失い、その場でしゃがみこんで泣いていた。それを見ていたヒナも涙が溢れてきた。そして町中で倒れてから早く意識を取り戻した竜太の目の前には温かいスープを持ってきてくれていた女性がいたのである。そこでモニターの映像は停止した。


ヒナが目を覚ますと松浦は4人のうちの一人の加計川に声をかけていたのである。どうやら加計川は意識を回復したようである。そこから竜太に何があったか聞こうということである。
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