ヒナの国造り

市川 雄一郎

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第3章・若さを保つ食材

畑へ行く前に①

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夜中のブルーサイドの民宿は静かだった……そんな中でヒナは畑へ行くのを決めてからすぐに爆睡してしまったようだが、店主はある疑問を抱いていたのである。

「(彼女は食材の話を聞いてから全然元の世界に帰りたいとかここの世界の土地の情報を調べたりとか何も言わないし、しない。普通ならここはどの辺か調べたり、大体の場合は「元の世界に帰りたい」とか言うはずなのになんで彼女からはそういう行動が見られないのか……不思議な人だな……)」

恐らく彼以外にもそう思っていた人は少なくないだろうが、どうもヒナには異世界へと来た焦りが若干少ないように感じられた。怪物がいると聞いて恐縮したくらいでそれ以外には何も語らないのを彼は当たり前のように疑問を覚えたのも当然である。

「(明日聞いてみるかな……)」

店主は自分の仕事を済ませて眠りについたのであった。

“チュン、チュン!”

朝がやって来た。鳥の挨拶と共に目を覚ましたヒナはトイレを済ませるとさっそく朝食を食べに食堂にやって来たのであった。すると食堂には店主が既におり、彼は再び険しい表情でヒナに質問をしたのである。

「あなたは異世界から来たはずですよね?」

するとヒナは平常心で質問に応じ始めたのである。

「ええ、そうですよ!」

「だったらなぜあなたは『元の世界に戻りたい』とか『ここはどの辺か知りたい』とか思わないのですか?あなたから危機感があまり感じられないのですが……」

店主の厳しい質問に彼女は笑顔で返した。

「普通はそうかもしれない(笑)。でも私は帰る場所がどちらにせよないんですよ。元の世界でも両親に捨てられて施設で育ったから家庭とか知らないし、施設も年齢制限を過ぎて出てきたからもう帰る場所が完全に無くなりました。だから今さら『帰りたい』気持ちもないし、今は冒険を楽しみたいのです。昔から冒険好きでしたから……」

それを聞いた店主は申し訳なさそうな顔をし始めたのである。

「…………すまなかった。全然事情を知らなかった……普通なら帰りたい気持ちがあるはずだと思い聞いた僕が悪かった……」

「僕は昔、大学を出てから少しの間は児童施設の職員をしていたんだ。その時に親のいない子らを見てきて彼らの悲しそうな目つきを今でも忘れられません……あなたのようにそういう悲しみを感じさせない子供はいなかった。そのような暗い過去があったとは露知らずで本当に申し訳ない!」

店主は深く詫びていたのかヒナに土下座をしたのである。ヒナは土下座をする店主の近くに来た。

「頭をあげてください!私はあなたが悪気があって聞いたのではなく心配してくださったのがよく分かります!だから頭は下げないでください。私もちゃんと話をしなかったのが悪かったのですから……!」

店主は頭を上げると少し涙目になり、顔を赤く染めている表情になっていたが力強く語ったのである。

「あとで家族みんながここに来るからその時に畑へ行くアドバイスをする!アドバイスだけではなく最大限の協力をするよ!!必ず君の力になってあげたい!」

店主がヒナに心を許したのかしゃべり方が友達に対するような言葉遣いになっていた。その店主の顔からは本気を感じさせる力強いものがあった。

「僕の名前は日紙直露(ひがみ・ちょくろ)!ここの地域の人たちは君の住む世界の人の名前とさほど変わりはないよ!これからもよろしくね!!」

ヒナは直露の思いを受け取ったのか彼の手を掴んだのであった。

「直露くん!よろしくお願いします!この世界は私の世界と共通する部分が多いから馴染めるかもしれません。一緒に畑へ行きましょうね!」

直露は笑顔になった。それを見たヒナの表情も笑顔になった。すると直露の家族も現れはじめてきたのである。

「いよいよ話をするよ!」

直露の顔が真剣になった。ヒナ達の表情も真剣な話し合いになるからか少しずつ険しくなってきたのである。
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