1 / 762
第1章
ヒナという少女
しおりを挟む
近畿南部の山の中にあるとある児童施設があった。
ここに子供がたくさんいて、18歳まで住むことが出来るという。この施設にいるある少女は行く宛てもなく、就職先も決まらぬままここを出ることとなっていた。
少女の名前は『猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)』という。愛称はヒナである。
「ヒナ、ここを出ても大丈夫か?」
職員の男性が心配そうに声をかけてきた。しかしヒナは優しい笑みで彼に言った。
「大丈夫ですよ!なんとかなりますから!!」
ヒナの自信を秘めた強い言葉に職員は安堵しつつも不安を隠せなかったのである。
ヒナは生まれたときから家族がいなかった。気がついた時には施設の入口の前に置かれたダンボールの中に居たのであった。そのダンボールの中には彼女の戸籍と少しばかりの金一封が入れられていたという。
そのダンボールを見つけたのは施設の園長である息長儀房(おきなが・のりふさ)である。夜に出張から帰ってくるとたまたま置かれていたダンボールに気づき、中を開けるとまだ一歳にも満たないヒナが弱った状態で横にぐったりしていたのである。
「やばい、このままでは死んでしまう……!」
不安を募らせた息長はすぐに空き部屋へと連れていき、そこでミルクを飲ませて風呂に入れてあげた。その時の息長の表情からは「助けたい」という必死さが滲み出ていたのだ。
息長の看護が実り、ヒナは体調を回復させることが出来たのであった。安堵したのか息長の目から少し涙が出ていたという。
その後、彼女は健康に育ったためか他の子供たちよりたくましくなってきたのであった。明るい性格で何事にも最前線に立ち、周りを引っ張ってきた。学校でも成績優秀でスポーツ万能で人気者となっていた。
ヒナの通った小、中学校は木造校舎であった。しかし彼女はこの校舎で夜中に施設を抜け出して一人で肝試しをしたり、校舎内で秘密の地下室の噂を聞き付けては探しに行き、途中で居眠りしてしまい夜に発見されたこともあった。教師の一人は苦笑いしながら彼女をこう表現した。
「男の子以上に男の子だよあいつは。」
高校に入ると通学に時間がかかるようになったが、それでも相変わらず好奇心だけは収まらず、誰もいかないような洞窟を見つけてはそこに入って財宝探しをしたりしていたのである。鉄砲水に襲われたこともあったが、それすらスリリングに楽しい思い出と笑顔で振り替えるほどである。
高校1年時のある日、トロッコのレール跡らしきものを発見したヒナはレールの上を移動するととある山中にやってきてそこで光る石を見つけたのである。石を見つけたヒナは光を見てえらく感動していたがその石こそ後に彼女の人生を変えるものであった。
そんなヒナを大切に見守っていたのが施設の料理長だった猫屋敷尚徳(ねこやしき・ひさのり)だった。東日本の出身で20代からこの施設に勤めている人物である。彼には子供はいたが、彼女の話を息長から聞いて心を痛め、親代わりになろうと決意したのであった。ヒナが2歳の頃に養子縁組を組み、正式に彼女の養父となったのであった。だが、家庭のこともあり引き取るまでは出来なかったのだ。しかし食事は他の子供以上に盛り付けたり、休みの日にはヒナに会いに遊びに来たりしていた。その尚徳に対してヒナも『父親がわり』として接するようになったのであった。
しかし尚徳は一方で彼女の戸籍から実の親を探そうと行動し、隣の県にある家へとやって来たのであった。
「ちょっと大原さん、居てますでしょうか?」
ヒナの実家を突き止めた尚徳の元に出てきたのは大原活蕗(おおはら・かつふき)である。仕事につかず、両親からお金をもらっているだけという情けない男であった。そんな活蕗に尚徳は睨み付けるような表情で問いかけた。
「あんたは子供を施設に残したまま一体何をしているんだ?」
すると活蕗は尚徳を睨み付けてこう吐いた。
「子供はもういらん!あんたの好きにしろ!!」
そう言うと活蕗は乱暴に扉を閉めたのであった。尚徳は怒りを隠さず扉を叩き続けたが結局は出てこなかったのであった。諦めて帰宅する尚徳の顔は悔しさで滲んでいた。
しかしヒナは相変わらず尚徳になついていたのである。尚徳は“あの日のこと”を口にしないように気をつけてヒナと遊んでいた。
そのヒナもついに施設を出るときが来たのである。引き取ることができない尚徳は涙をこらえてヒナに声をかけた。
「これから大変だと思うけど頑張ってくれ!何かあれば僕に連絡して!」
ヒナは笑顔で尚徳を見つめていた。
「本当にありがとうございました!また連絡します!」
息長は彼女の行く先を心配していた。まだ就職先が決まるまで住ませてあげるべきか悩んでいたのであった。しかしヒナは尚徳の元にお世話になることも息長の心遣いにも「自分のためにならない」と断っていた。自分でなんとかすることが彼女らしさかもしれないのだ。
そしてヒナは施設を出ることとなった。金一封は施設に募金し、戸籍は尚徳に預けて彼女は施設を後にしたのであった。ヒナが知っているのは自分が1988(昭和63)年4月8日生まれということだけである。そして彼女は後にとんでもないことに巻き込まれることに今はまだ知る由もなかった。
ここに子供がたくさんいて、18歳まで住むことが出来るという。この施設にいるある少女は行く宛てもなく、就職先も決まらぬままここを出ることとなっていた。
少女の名前は『猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)』という。愛称はヒナである。
「ヒナ、ここを出ても大丈夫か?」
職員の男性が心配そうに声をかけてきた。しかしヒナは優しい笑みで彼に言った。
「大丈夫ですよ!なんとかなりますから!!」
ヒナの自信を秘めた強い言葉に職員は安堵しつつも不安を隠せなかったのである。
ヒナは生まれたときから家族がいなかった。気がついた時には施設の入口の前に置かれたダンボールの中に居たのであった。そのダンボールの中には彼女の戸籍と少しばかりの金一封が入れられていたという。
そのダンボールを見つけたのは施設の園長である息長儀房(おきなが・のりふさ)である。夜に出張から帰ってくるとたまたま置かれていたダンボールに気づき、中を開けるとまだ一歳にも満たないヒナが弱った状態で横にぐったりしていたのである。
「やばい、このままでは死んでしまう……!」
不安を募らせた息長はすぐに空き部屋へと連れていき、そこでミルクを飲ませて風呂に入れてあげた。その時の息長の表情からは「助けたい」という必死さが滲み出ていたのだ。
息長の看護が実り、ヒナは体調を回復させることが出来たのであった。安堵したのか息長の目から少し涙が出ていたという。
その後、彼女は健康に育ったためか他の子供たちよりたくましくなってきたのであった。明るい性格で何事にも最前線に立ち、周りを引っ張ってきた。学校でも成績優秀でスポーツ万能で人気者となっていた。
ヒナの通った小、中学校は木造校舎であった。しかし彼女はこの校舎で夜中に施設を抜け出して一人で肝試しをしたり、校舎内で秘密の地下室の噂を聞き付けては探しに行き、途中で居眠りしてしまい夜に発見されたこともあった。教師の一人は苦笑いしながら彼女をこう表現した。
「男の子以上に男の子だよあいつは。」
高校に入ると通学に時間がかかるようになったが、それでも相変わらず好奇心だけは収まらず、誰もいかないような洞窟を見つけてはそこに入って財宝探しをしたりしていたのである。鉄砲水に襲われたこともあったが、それすらスリリングに楽しい思い出と笑顔で振り替えるほどである。
高校1年時のある日、トロッコのレール跡らしきものを発見したヒナはレールの上を移動するととある山中にやってきてそこで光る石を見つけたのである。石を見つけたヒナは光を見てえらく感動していたがその石こそ後に彼女の人生を変えるものであった。
そんなヒナを大切に見守っていたのが施設の料理長だった猫屋敷尚徳(ねこやしき・ひさのり)だった。東日本の出身で20代からこの施設に勤めている人物である。彼には子供はいたが、彼女の話を息長から聞いて心を痛め、親代わりになろうと決意したのであった。ヒナが2歳の頃に養子縁組を組み、正式に彼女の養父となったのであった。だが、家庭のこともあり引き取るまでは出来なかったのだ。しかし食事は他の子供以上に盛り付けたり、休みの日にはヒナに会いに遊びに来たりしていた。その尚徳に対してヒナも『父親がわり』として接するようになったのであった。
しかし尚徳は一方で彼女の戸籍から実の親を探そうと行動し、隣の県にある家へとやって来たのであった。
「ちょっと大原さん、居てますでしょうか?」
ヒナの実家を突き止めた尚徳の元に出てきたのは大原活蕗(おおはら・かつふき)である。仕事につかず、両親からお金をもらっているだけという情けない男であった。そんな活蕗に尚徳は睨み付けるような表情で問いかけた。
「あんたは子供を施設に残したまま一体何をしているんだ?」
すると活蕗は尚徳を睨み付けてこう吐いた。
「子供はもういらん!あんたの好きにしろ!!」
そう言うと活蕗は乱暴に扉を閉めたのであった。尚徳は怒りを隠さず扉を叩き続けたが結局は出てこなかったのであった。諦めて帰宅する尚徳の顔は悔しさで滲んでいた。
しかしヒナは相変わらず尚徳になついていたのである。尚徳は“あの日のこと”を口にしないように気をつけてヒナと遊んでいた。
そのヒナもついに施設を出るときが来たのである。引き取ることができない尚徳は涙をこらえてヒナに声をかけた。
「これから大変だと思うけど頑張ってくれ!何かあれば僕に連絡して!」
ヒナは笑顔で尚徳を見つめていた。
「本当にありがとうございました!また連絡します!」
息長は彼女の行く先を心配していた。まだ就職先が決まるまで住ませてあげるべきか悩んでいたのであった。しかしヒナは尚徳の元にお世話になることも息長の心遣いにも「自分のためにならない」と断っていた。自分でなんとかすることが彼女らしさかもしれないのだ。
そしてヒナは施設を出ることとなった。金一封は施設に募金し、戸籍は尚徳に預けて彼女は施設を後にしたのであった。ヒナが知っているのは自分が1988(昭和63)年4月8日生まれということだけである。そして彼女は後にとんでもないことに巻き込まれることに今はまだ知る由もなかった。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる